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勝利条件を導くための問いかけ方

2020年から小学校(1校)、中学校(1校)、高校(3校)、大学(1校)で、授業の内容は「総合的な探究の時間」「PBL」「タブレット活用」など異なりますが、プ譜をつかった授業支援をしています。
児童生徒で構成されるグループが取り組むプロジェクトの計画を立てやすくし、プロジェクトをうまく進めるられることを期待してプ譜を活用頂いているのですが、日中に出張授業などを行うことができないため、断片的・間接的に授業の状況を聞いて、その都度アドバイスをしたり、児童生徒がつくったプ譜にフィードバックをしたりということをしています。
最近は直接支援していないのですが、先生方がプ譜を活用してくださる事例をネットやSNSで見ることが増え、たいへんありがたい限りなのですが、プロジェクト初期に最も重要な勝利条件の設定のし方について、これだけは伝えておきたいということがありましたので、プ譜を活用しておられる先生方の参考にしていただきたいと思い、ここで記事にしておきます。

未来の目標を計画することは難しい

プロジェクトには有限有期という特徴があります。時間と資源には限りがある。そのなかで、やったことのない未来の目標を計画するというのは、児童生徒にはたいへん難しいことです。限られた時間と資源で目標を実現するには、推論・仮説を立てなければいけません。荒唐無稽ではない、今の自分たちからジャンプしつつ、でも論理に飛躍のない仮説です。それは無限の時間があればいつまでも仮説を繰り返して試すことができますが、それをやって死なないのはコンピューターだけ。そこでできるだけ「筋の良い仮説」を立てる必要があります。

筋の良い仮説は「限定」することと、多様な「状態」の定義から生まれます。この記事はプ譜を知っている先生を対象にしていますので、具体的な説明は省きますが、上記の「限定」と「状態」は、プ譜でいうところの「勝利条件」と「中間目的」が該当します。そしてこの記事では、「限定するための勝利条件」について解説します。

勝利条件とは何か?

勝利条件とは、「目標がどうなっていたら成功といえるかという判断基準や評価指標」としていますが、他にも下記のように言うことができます。

目標が成功したと言える判断基準・評価指標
目標を実現することで、関わる人や社会などが“どうなっていたい”か?という姿、願い
目標実現時、関わる人や社会に起きている変化
その状態ができていれば。その兆候が現れていれば、目標は達成できているであろうと思えるもの
その目標を達成するには、少なくとも、最低限こうあらねばならないというもの
ここさえ押さえれば良いという重心、焦点、ツボ

そして、勝利条件には下記のような性質があります。

最初は“ない”。設定されていない。曖昧、漠然。考えたことがない。意識していない
メンバー・ステークホルダー間でそれぞれ異なっている。統一されていない
状況、局面の変化によって異なる、複数の勝利条件があり得る
状況、局面の変化によって変わり得る
程度、段階、粒度を持つ

この「最初は“ない”、曖昧、考えたことがない」という性質は、プ譜で説明すると下図のようになります。

スライド13

目標はわかっています。廟算八要素はわかっているものもあればわかっていないものもあります。勝利条件とそれに連なる中間目的はわかっていない、考えたことがないのですが、施策だけは違います。施策は取り組むプロジェクトのテーマで本を調べたりググッたりしてみると、けっこう出てきます。調べればわかるものです。あと、なにかで見聞きして覚えていたりして、パッと思いついたりします。ほとんどの場合、プロジェクトは「目標」と「施策(具体的な作業)」を直接つないで実現させようとします。しかし、この方略はうまくいかない可能性が高いです。なぜうまくいかないかは、記事末尾の動画11:45頃からご覧ください。

すぐわかる施策を直接目標に結びつけない

動画を見ずに読み進められる方に結論だけ申し上げますと、すぐに思いついたり調べて出てきた施策だけで計画を立てると、本当にやりたかったことに影響を与えないばかりか、悪影響を与えたりすることがあります。また、ネットで調べられることから計画を立てると、本当に児童生徒が実現したいことがなにかわからなくなることがあります。そのような状態のまま進めるプロジェクトは、途中で「なにやりたかったんだっけ?」と目標を見失ったり、チーム内で紛糾やプロジェクトの炎上を引き起こしたりします。

プロジェクトの計画を立てるとき、最も重要でいの一番に行わなければいけないのは、目標を実現したとき、自分や、グループとして、どうなっていたいか?という願い・期待を持つことです。

スライド26

動画を見てくださればわかるように、勝利条件の設定次第で計画はガラリと変わります。採用する施策・手段が変わります。パッと思いついた施策が勝利条件に適合しなかったり、好ましい影響を与えなかったりします。勝利条件を設定することは、そうした不要な施策を取捨選択し、計画を「限定」するために絶対に必要なことなのです。

勝利条件を導くための問いかけパターン

しかし、児童生徒はよほど取り組むプロジェクトのテーマにのっぴきならない課題意識を持っていたり、昔からそのプロジェクトのテーマに取り組みたくて、寝食を忘れて没頭できるようなものでもないかぎり、自分やグループとしての願いや期待を持っていることはありません。ほとんどの児童生徒は持っていないと思っていた方がよいです。

そこでプロジェクトの仮説計画期に、先生ができる支援が「勝利条件を導く問いかけ」を行うことです。この問いかけのパターンを下記に記載しました。実際は、これらのパターンを児童生徒との対話の流れ・文脈のなかで組み合わせて使います。

●その目標を実現して、みんなはどうなりたい?
●どうしてその勝利条件にしようと考えたの?
●勝利条件に自分たち以外の人がいる場合、
 ・その動画を見て視聴者がどんな気持ちになっていたら成功?
 ・サポートされている人がどんな状態になっていたら目標が実現しそう?
 ・その目標が実現されようとしているとき、(誰・どこ・何に)どんな兆候が出てきていると思う?
 ・それ(勝利条件の対象)とどんな関係になっていたい?
●勝利条件が実現されていないとき、どんな問題がある?
●「◯◯(手段)で◯◯をする」という表現の場合
 ・どうしてもその手段でなければいけない理由はある?
●その目標が実現した時、地域や社会や世界にどんな影響がありそう?どんなことが起こりそう?
●勝利条件が複数ある場合
 ・目標実現のためにもっとも重要なものはどれ?
 ・期限までに一番実現できそうなものはどれ?
 ・何が一番やりたいことなんだろう?(どれは捨てられる?)

児童生徒は勝利条件を持っていなかったとしても、過去の体験のなかでまだ言語化できていない望みや期待を持っていることがあります。また、問いかけ、考え、応え返し、また考える過程のなかで、「こういうことがしたかったんだ!」と発見することもあります。

この過程のなかでもっとも必要とするのは時間なのですが、学校現場にはそうした対話に使うことのできる時間はほとんどなさそうです。先生自身に問いかけてもらうことが一番と考えますが、支援先の学校では外部のコーディネーターやカウンセラーにも手助けしてもらったり、大学では4年生が3年生への問いかけ役になっているケースもあります。それも難しい場合、この問いかけパターンを児童生徒自身がグループ内で。またはグループ間でジグソー法的にやってみても良いと思います。

最後にこの記事をさらに詳しく解説した動画が下記になります。よろしければご覧ください。


未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。