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成功事例の活かし方~サントリーのボランティアプロジェクト事例で解説

事例は状況にひどく癒着している

新しいプロジェクトに取り組もうとするとき、私たちは成功事例を探します。事例を探す理由は、取り組むプロジェクトを成功させるための方法や道具、ヒントを得るために他なりません。プロジェクトのテーマや目標のキーワードで検索すると、ビジネスメディアや業界紙、その成功を支援したベンダーのオウンドメディアやホワイトペーパーなどで様々な成功事例がヒットします。
ところが、事例を集めている本人はどこかで事例はそのまま使えないと気づいています。事例とは状況にひどく癒着しているものです。他社と自社とでは人材の質、使える予算規模、組織文化などが違うから、他社の成功事例を丸パクリしてもうまくいかないだろうと、意識的・無意識的にわかっています。

成功事例の活かし方 (5)

事例はそのままでは使えないと気づきながら、自社に適したピッタリの処方箋を見つけるまで事例探しを続けるのかどうかはわかりませんが、事例をうまく活用して自社のプロジェクトを成功させる人がいます。

事例をうまく活用できる人には共通点があります。それは、「他社事例を抽象化して、自社の具体に落とし込む」ことです。状況に癒着している事例をベリベリと引き剥がして、その核にある普遍的な原理を引き出して、その原理を自社の状況に適用しています。ただ、この書き方ではまだよくない意味で「抽象的」なので表現を換えます。

事例をうまく活用できる人は、他社事例にある「したこと」がつくり出した「状態」を推測して、言語化して、自社に適用しています。

この状態の推測・言語化に「プ譜」を活用することができます。文字面だけではわかりにくいかも知れないので、実際にある“事例”を題材にプ譜で解説しましょう。事例はサントリーが行っている社員ボランティア活動です。
(※この事例で紹介するプ譜は、公益財団法人日本フィランソロピー協会が主催したセミナーで私が講師を務めた際、サントリー社の当時のご担当者にヒアリングして作成しました)

成功事例を構造化する

一般的に、事例はセミナーであっても記事であっても、その事例の目標と取り組んだ背景や当時の状況といった所与の条件、目標実現のために行ってきたこと・したこと・やったことを中心に紹介されます。そこでの情報の表現はテキストや画像が中心になりますが、この「目標」「背景・状況」「したこと」をプ譜で構造化して表現すると下図のようになります。

成功事例の活かし方 (8)

ここに記載した情報は、当時のご担当者がサントリーの活動を発表するウェビナーで紹介されていたものと、その後のヒアリングを元にしています。ヒアリング内容が詳細で、数多くの施策を行っていらっしゃったため、文字がかなり小さくなってしまっているのはご容赦ください。
右端が目標(右端下)成功の定義(右端上)にあり、これはプ譜でいうところの獲得目標と勝利条件になります。また、当時の状況・リソースといった所与の条件が左端。プ譜でいうところの廟算八要素です。

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このうち、下図の赤枠で囲っているのが、セミナーで語られていた「具体的な行動・したこと」になります。プ譜では施策と呼ぶものです。

成功事例の活かし方 (9)

成功事例の活かし方 (10)

事例セミナーや企業の事例ホワイトペーパーで語られているのはたいていここまです。そこで紹介されている成功は、これらの「したこと」によって実現されたというふうに見え(読め)てしまいます。

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しかしこれでは左端の所与の条件が自社と異なる場合、「したこと」はその会社だからできたんでしょ?となってしまいます。

「したこと」がつくった「状態」の推測方法

このように考えてしまうと、自社にできることはないと考えてしまいますが、「したこと」即ち施策・手段といったものは、事例に紹介されているものだけではなく、無数に存在しています。成功事例では無数にある手段のなかから、自社の状況や条件に則して最適なものを選んだに過ぎません。この最適なものを選ぶ基準として「状態」があります。

状態はほとんどの成功事例コンテンツでは言語化されていません。担当者本人も無意識でいることや、意識的であっても言語化できていないことが多いからです。企業の成功事例コンテンツも、そこまで研究していないものがほとんどです(企業からすれば、自社ツールの導入が目的で、ツールを使えば成功すると言いたいので、そこまで手をかけて言語化することをしないでしょう)。

この状態を推測して言語化することが、事例を自社に活用するための重要なポイントになります。言語化されていない状態をまず見つけ出すために、プ譜ではこの状態は目標と施策の間にひそんでいるととらえます。

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この状態をヒアリングして言語化したものが下図になります。

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言語化した「状態」は、プ譜で言うところの中間目的に該当します。それぞれの状態はその状態をつくり出した施策と矢印で結びつけます。
一つ例を挙げましょう。状態のなかに「参加のハードルが下がっている」というものがあります。これは社員がボランティアに参加するときの情報を探しやすいウェブサービスの導入やボランティア月間とう社内キャンペーンなどの「したこと」がつくりだした状態です。
この状態が語られないまま、「ボランティア情報ウェブサービスを導入する」や「ボランティア月間を設ける」だけを自社に取り入れようとしても、うまくいくとは限りません。予算によってはそのサービスを導入できないかも知れませんし、キャンペーンをはるだけでは誰も参加してくれない可能性があります。
大事なのは「状態」をつくり出すことです。その状態をつくり出す施策(手段)は何も他社事例で語られているものに限らず、自社の条件や環境に適したものを選べばよいのです。「“参加のハードルが下がっている”という状態をどう実現すればいいだろう?」と考えて、施策を選択・考案するのです。

私は幸いご担当者から直接お話をうかがう機会に恵まれ、「”してきた”ことがつくり出した状態はこういった表現で合っていますか?」と直接確認することができました。しかしそうした機会に恵まれなければ、してきたことがつくり出した状態を推測して文字にする必要があります。その作業ハードルを下げることをプ譜は手助けします。

また成功事例を提供するベンダー企業にとっても、ここまで言語化して見込客に提示・解説することができれば、自社ツールの導入がさらにスムーズになります。ぜひお試しください。

プ譜についての全体的な理解は、こちらのページにわかりやすくまとまっていますので、よろしければご覧下さい。


未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。