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【読書記録】へろへろ

これは、介護の話です。
まだまだ先だって思っている介護の。

1人のすごすぎる状態の老婦人「大場さん」をきっかけにスタートした、地域の居場所づくりの波乱万丈物語でした。

迷惑・邪魔・大変
そう思われてしまった人たちの気配が共存できる居場所づくり。
「ぼけ」ることで、周りがどうなっていくのか。

「わたしが そんなに 邪魔ですか?」
この問いに、真摯に向き合うことができる人たちって、おそらくこの本に出てくる、人情を大切にする、心あたたかな人たちなんだろうな。そう、思いました。そして、自分も感じたことがある。そんな人たち。それって、実は、みんな心の奥底では思っているのでしょうけれども。

いいことしているよねって口先だけで、この本の登場人物から消えていってしまった人たちも確かに存在しています。そこまでできない……。自分の命の時間を「ぼけ」た人には使えない。って思う人たちで、私はどちらかというとそっち側の人間に思えてきました。

私も福祉の世界の人間だったから分かるのです。
どんなに、子どもたちのために署名活動やバザーなどで資金集めをしたところで、大きなお金や時代の流れには逆らえないし、保護者の意識も、私たちの意識も楽な方へ、楽な方へと流れてしまいます。サービスをうけるだけの思考へ。だって、そこにあるから。だったら、サービスを作れる側になった方がいいんじゃないか?そのために、お金の勉強をしよう。そう思っていました。

ただ、本書の中の登場人物たちは、資金集めはしているけれどお金儲けはしていません。資金繰りとお金儲けの違い。それには、思想が反映されているような気がしました。存在を否定しないようにするために。

迷惑・邪魔・大変
そう思われてしまう対象が「ぼけ」た人だけじゃなくて、「赤ちゃん」にも向けられている日本は大丈夫でしょうか?
「赤ちゃん」が泣くから、うるさくて迷惑!眠れないじゃないか!こっちは夜勤で頑張っているんだぞ!
「赤ちゃん」がいるから、邪魔で仕方がない。ベビーカーなんて幅をとるじゃないか!?どうして、電車やバスにのるんだ?
「赤ちゃん」がいるから、大変。電車にもバスにも乗れないなら、お金を稼がないといけないのに、すぐ熱を出すんだから。もう、へろへろよ。

これは、はたして「赤ちゃん」の存在が悪いのでしょうか?

全ての思考に「迷惑・邪魔・大変」から、楽になりたいという人間の願望が入っています。さらに、他人事。自分には関わってほしくない。すべての人を守るなんてできやしないんだから。自分には無理!面倒を見るなんてもってのほか。だったら、外のサービスを使えばいいじゃないか。お金さえ稼げばいんだろう?そうやって、世の中にサービスが増えた結果、何か大切なものを見落としてしまっているようです。

「ぼけ」てしまった人は、「赤ちゃん」と同じように、排泄のお世話をしてもらったり、食事の補助をしてもらったり、あやしてもらう(関わってもらうこと)が必要なのですが、それを迷惑・邪魔・大変と言われてしまったら、どうすればよいのでしょうか?

本当に、その選択でいいのでしょうか?
後ろめたい選択は、誰しも嫌がるものです。私も、あなたも。

そんな時、一番いいのは、少しでも関わって「ぼけ」た人にも、「赤ちゃん」にも関わって身近に思えるようになることだけです。「気配」がそこにあるだけ。ネコがすっと自分の側にいるぐらいの距離感で、社会に存在していて、それを許せるみんなの心(寛容さ)を持てること。こっちです。
この寛容さが、きっと人間の器なのでしょう。だからこそ、大変な人たちを金儲けの道具にしないようにすることを徹底しているようでした。

かわいいね。おもしろいね。そうやって、認めるだけ。
さすがに、頑固者は嫌われるけれども、それすらも愛おしく思える人間の器の広い人が1人でもいてくれたら、その居場所はきっと救われるのでしょう。個性の違いを認められる力を持った人の存在で。
こういう雰囲気や、やっていることが誰かの胸を打って思いがけないような寄付が集まってきていました。そこまでは自分はできなかったから、せめてものお金で助けたいと思ってくれる優しい人たちです。(日本もまだまだ捨てたもんじゃありません。)
これは、クラファンに近いようです。ドネーション。真心。

多様性と叫ばれている現代において、そういう繊細な問題を真剣に考えるきっかけを与えてくれるのがこの本だって思いました。
人によっては、重いテーマなのかもしれません。
この施設を築いた下村さんのようなバイタリティを持った人なんて身近にいない人の方が多いでしょう。詩人の谷川俊太郎さんを脱がせながら巻き込んで開拓してく人なんて。(詳しくは本編でどうぞ)

「ぼけ」た人も「赤ちゃん」も愛される社会なら、それこそ全員が生きやすい場所になるのでしょう。もちろん理想ってわかっています。
でも、罵詈雑言、文句ばかりの世界じゃなくて、金子みすゞが語るような「みんなちがって みんないい」そんな世界が実現したら、世界はもっともっと幸せに満ちた、あったかい場所になるのでしょうね。ぽかぽかの陽だまりで、ゆっくりと昼寝をしていても、誰にも怒られたりしない。
そんな世界が、日本のどこかにあってもいいのではないでしょうか。

あぁ、私は知っていました。
そういう場所が、かつて身近にあったことを。
我が息子は、デイサービスの一角で遊ばせてもらっていました。赤ちゃんとお年寄りとの交流しつつ、人生の先輩たちの話を聞けたあの場所。あの時に出会った同じ年の子どもたちは、今は同級生。ママ同士も仲良くさせてもらっています。でも、今は経営の面とか、コロナの対策とかであの場所は消えました。じゃあ、今まさに子育てしているお母さんたちはどうなっているのかな?

身近な所から、助けを求めている人は案外多いものです。
私は、私が力を貸せる範囲で、協力していきたいなって思います。
やっぱり、最後はヒューマンパワーしかないですからね。
そんなことを、考えさせられた本でした。

きっと、人によって感じることは違うと思います。でも、必ず何かは心に残る本です。あなたの心の奥底に爪痕が。


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