【インタビュー(1)】今岡光枝さん(多文化コーディネーター)〜臨機応変に 子どもたち支える
*マスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影
【日常編】
住友商事株式会社が創立100周年を機に立ち上げた社会貢献活動プログラム、「100SEED」(ワンハンドレッド シード)。SDGsの目標4「Quality Education (質の高い教育をみんなに)」を共通テーマに、世界各地の住友商事グループ社員が中長期的な教育課題の解決に取り組んでいます。
日本における活動のうち、公益財団法人 日本国際交流センター(JCIE)との提携による「多文化共生社会を目指す教育支援」で、住友商事プロボノチームとYSCグローバルスクールの協働が始まりました。
2020年10月より、社内公募による有志のメンバーの皆さんに、海外ルーツの子ども・若者への学習支援やスクール運営基盤の強化にご協力いただいています。
その一環として、当スクールの先生・コーディネーターへのインタビュー企画を連載中。
多言語・多文化な現場で日々奮闘する先生やコーディネーターたちの姿を、プロボノチームの皆さんの視点から伝えていきます。
今回はインタビュー第三弾です。福生スクールで多文化コーディネーターとして活躍する今岡光枝さん(以下、「みつえさん」)にインタビューします。
※新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、本インタビューはオンラインで実施しました。
2021年12月初旬、みつえさんにはYSCグローバル・スクールの教室(東京都福生市)から参加していただきました。
――まず、みつえさんのお仕事の内容を教えてください。
YSCグローバル・スクールは、東京都福生市と足立区で、海外ルーツの子ども・若者向けに日本語教育や学習支援を行っています。
私は福生教室で多文化コーディネーターとして働いています。コーディネーターの仕事は幅広くて、机に座っているよりも、スクール内をあちこちウロウロしていることが多いですね。
まず、生徒たちのお世話や保護者への対応があります。
たとえば生徒が授業に出席しているのかを確認して、もし来ていなければ保護者や本人に連絡するところから一日が始まり…。各クラスの様子を覗いたり、事務仕事をしたり、毎日違うルーティンで仕事をしています。
当スクールでは基本的に、授業をするのは日本語教師、そして各教科担当の講師たちです。コーディネーターは、それ以外の調整ごと全般を担当しています。生徒・保護者対応に加えて、小・中・高校との連携なども行います。
学習面で個別のフォローアップが必要な子がいたり、必要に応じてクラスが増設されたりする時には、コーディネーターが授業をサポートすることもあります。
たとえば、当スクールで日本語クラスに入る条件は「ひらがなとカタカナが読めること」ですが、ゼロからのスタートで日本語の文字が読めない生徒もいます。
そういう場合は受講開始前にひらがな・カタカナを教えるクラスを開いたりしています。
――なるほど、全体に目を配りながら、いろんな局面で臨機応変に対応していくんですね。
授業はリアルの対面とオンラインの両方があるそうですが、オンライン授業はコロナ禍になってから取り入れたんですか?
オンライン授業は2016年から始めています。コロナ以前の、「ZOOMって何?」と言われていた頃から使い出したと聞きました。
私自身は働き始めて2年経ったところで、当時を詳しくは知らないのですが、最近では遠隔地からオンラインで受講している子どもたちも多いです。これまで北は北海道や岩手、南は京都や島根、佐賀や沖縄から参加がありました。
――まさに全国ネットですね。小・中学校などとの連携とは、どんなことをされているんですか?
たとえば、来日してすぐ「日本語を勉強したいです」と問い合わせて来たご家族がいるとします。
学校との面接もしていないし、市役所での手続きもまだ。「日本に来たばかりで、どうしていいかわかりません」というケースでは、教育委員会や市役所等と連絡を取り、子どもの学籍を作るサポートから始めることもあります。
昼間に学校に通う代わりに、当スクールで日本語を勉強することを希望するケースも多いです。
その場合は、まず当スクールのカリキュラムや、校長先生の判断で出席扱いにできることなどを学校に説明し、承諾をいただけるように働きかけます。
他にも様々なやり取りがあります。学校とグローバルスクールでの生徒の様子を担任の先生と共有したり、出席扱いをいただいている学校には、毎月、学習実績の報告書を提出したりしています。
――今こちらに通っている中学3年の皆さんは、昼間は中学校に通っているんですか?
今年度の高校進学クラスには、もともと中学校に毎日通っていたものの、進学を見据えて、学校と相談のうえで当スクールの昼間のクラスで勉強する生徒が多くいます。やさしい日本語で、高校進学に向けた授業を受けています。
学校と調整し、週1~2日、中学校に登校している生徒もいます。
当スクールに通う生徒たちは、日常会話はできているようでも、勉強に必要な「学習言語」と呼ばれる日本語に困難を抱えているケースも多いです。
――先ほどの「来日していきなり」というケースは、親御さんが探し当てて来るわけですよね。どうやってYSCのことを知るんでしょうか?
外国人保護者のコミュニティや友達を通じて、口コミで「こういうところがあるから行ってみなさい」と勧められた人が多いですね。
同国出身者のネットワークが存在する場合もありますし、出身国に関係なく、たまたま保護者どうしが同じ職場で働いていて、ひとりが当スクールと繋がるとどんどん広めてくれたりもします。
スクールの卒業生が高校生や大学生の年代になっているので、「最近、日本に来て困っている子がいる」と紹介してくることもあります。
――スクール全体では、何名程度の生徒さんがいるんですか?
学期ごとに生徒が入れ替わりますが、現在の在籍者は福生・足立の両教室合わせて約120名です。2011年から運営しているので、累計だと卒業生も含めて千名程度になります。
生徒たちの出身国で、開設当初から多いのは中国とフィリピンです。次にネパールも多いですね。福生教室で最近はアメリカルーツの生徒が増えているなど、その時々で何らかの傾向が見られることもあります。
――日本語のレベル別クラスは何段階に分かれていますか?
初級クラスが3つあります。ほとんどの場合、初級1から勉強を始めます。
日本語クラスでは、テキストを使い約3か月間、集中的に文法学習を積み重ねていきます。そのため、子どもによって習熟度は様々です。ひらがな・カタカナをなかなか覚えることができない生徒もいますし、文法の仕組みを理解すること自体が苦手な生徒もいます。
同じクラスを何回も履修したからといって必ずしも理解が深まるわけではない場合もあるので、より個別授業に近い形で、本人に合ったサポートを工夫するケースもあります。
習熟レベルを推し量るためにテストの点数もモニターしますが、「聞く・話す」は得意でも、テストで「書く」のが苦手な生徒もいます。日頃どれだけ発言しているか、授業中にどんな反応をしているかなども見ながら検討するようにしています。
それから、進路との兼ね合いでタイムリミットがあると、それを考慮して勉強の優先順位をつけていく必要があります。
たとえば間近に高校進学を控えている場合は、日本語だけにじっくり時間をかけるわけにもいかないので、最低限の基礎的な日本語を習得したらすぐに高校進学クラスに移り、高校進学のための学習と準備をしながら、同時に日本語力も伸ばしていこう…といった見通しを立てることが欠かせません。
――たしかに、生徒さんごとに得意・不得意も異なるでしょうから、カスタムメイドにサポート体制を作っていく感じですね。
まずひらがな・カタカナから覚えて、スクールでの勉強を経て、地元の小中学校に通える状態になった生徒さんもいるわけですよね。いったん巣立った生徒さんの事後フォローもされているんですか?
まったく初めて日本語の勉強をスタートした生徒だと、数ヶ月後に日本語の基礎クラスが修了した時点で学校や保護者と相談して、学校に通い始めることが多いです。
でもベーシックな日本語を勉強しただけでは、まだ学校の勉強についていくのは難しいんです。急な環境の変化でつまずかないように、週2〜3回当スクールに通い続けて、残りの曜日に学校に行ってみるといった段階を踏むケースもあります。
あるいは、平日昼間は学校に通って、放課後に当スクールを受講したり。
生徒の性格や日本語の伸び具合などを踏まえて、本人にベストな方法を探しながら、柔軟に対応しています。
学校側の受け入れ態勢もさまざまです。たまたま担任の先生が海外ルーツの子どもの受け入れ経験が豊富だったり、気の合うクラスメイトに出会ったりして、勉強はまだまだこれからだけど楽しく通えている場合もあれば、残念ながら学習の遅れやいじめなどから不登校状態になり、当スクールの昼間のクラスに戻ってくることもあります。
――戻って来た時の受け皿もちゃんとあって、いつでも帰ってきて大丈夫だよという雰囲気だとすごく安心感があるでしょうね。
はい。子どもには、「いつでも遊びにおいで」「たくさん背負って頑張らなくていい、リラックスしていってらっしゃい」って伝えた上で送り出すようにしています。
みつえさんをはじめスクールの皆さんが、生徒それぞれの事情や個性に合わせて、常にベストの対応を考えて行こうという姿勢が強く感じられました。
次回は、みつえさんが今の仕事に就くまでの歴史を紐解く「黎明(れいめい)編」です。お楽しみに!
執筆:住友商事プロボノチーム
(編集:YSCグローバルスクール/写真:森佑一)
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