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【インタビュー(3)】今岡光枝さん(多文化コーディネーター)〜居場所と出口とアンテナ

*マスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影

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【未来編】

住友商事株式会社が創立100周年を機に立ち上げた社会貢献活動プログラム、「100SEED」(ワンハンドレッド シード)。SDGsの目標4「Quality Education (質の高い教育をみんなに)」を共通テーマに、世界各地の住友商事グループ社員が中長期的な教育課題の解決に取り組んでいます。

日本における活動のうち、公益財団法人 日本国際交流センター(JCIE)との提携による「多文化共生社会を目指す教育支援」で、住友商事プロボノチームとYSCグローバルスクールの協働が始まりました。
2020年10月より、社内公募による有志のメンバーの皆さんに、海外ルーツの子ども・若者への学習支援やスクール運営基盤の強化にご協力いただいています。

その一環として、当スクールの先生・コーディネーターへのインタビュー企画を連載中。
多言語・多文化な現場で日々奮闘する先生やコーディネーターたちの姿を、プロボノチームの皆さんの視点から伝えていきます。

今回はインタビュー第三弾です。福生スクールで多文化コーディネーターとして活躍する今岡光枝さん(以下、「みつえさん」)にインタビューします。

※新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、本インタビューはオンラインで実施しました。

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――これまでお仕事をされてきて、特にうれしかったことは何でしたか?

「高校に合格して良かった」みたいな、その季節のうれしさもあるんですけど、基本、毎日が楽しくて。子どもたちと他愛のない雑談をしたり、けん玉やカードゲームをしたり…。

スクールの帰り道にみんなで肩を組んで帰って行ったりする姿を見ると、すごく幸せな気持ちになります。楽しそうに過ごしてくれてよかったなぁって。毎日がそんな感じですね。

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――なるほど。人が楽しそうにしているところを見て、それが幸福感になるっていうのはすごくいいことですね。

それから、このスクールではそれぞれの日本語力や背景が多様なので、「非言語で何とかコミュニケーションを取らなきゃいけない場」でもあり、興味深いことがいろいろ起きます。

たとえば子どもたちを見ていて、「言葉が通じないのに、なんでこんなに仲がいいの?」と不思議になることがあるんですね。
ひとりは英語とネパール語、もうひとりは中国語しか話せない、とか。でもなぜか、大の仲よしになっていたりするんです。
言葉を超えた、人としての相性ってあるんでしょうね。

そういえば高校受験に向かう時期に、あるクラスの生徒たちが、いい意味でひとつの生き物みたいになって。中国出身で、漢字から多少は日本語の意味を想像できる子がいたり、逆に読むのは苦手だけど、会話でのコミュニケーションがうまい子もいたり…。

全員で同じ高校を受験したんですが、当日は道中で掲示を見てわかる生徒が会場まで先導し、何か問題が起きれば、会話が得意な子が「すみませ〜ん」と大人をつかまえて聞いたりして。お互いの足りないところを補い合って、チームとして受験を乗り切りました。

――素晴らしいですね、ワンチームになっている。では、ちょっと大変だったなあということは?

日々あわただしくて、すぐ出てこないんですが…。

すごく心が沈むのは、保護者から相談を受けて明確な答えを出せない時でしょうか。
たとえば特別支援学級を勧められたお子さんのケースで、保護者は「いや、うちの子には必要ないです」という認識だったりして。学校側が対応に困り、保護者もどうしたらいいかわからなくなって、子どもが行き場を失ったような状況がありました。

そういう時に何がベストかなかなかわからないし、心が重くなりますね。
絶対これだという答えは出なくて、その時々でできる限りのことをして、地道に声をかけて対応を重ねていくしかないです。

私たちのスクールでは、いったん子どもと繋がったら、その子にとっての「出口」をみんなで探すことをゴールのひとつにしています。そのために、自分たちが何をしたらいいんだろうと考えることに必死で…。日々勉強です。

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――先ほど「居場所」を求めている生徒さんが多いという話がありました。
生徒さんたちの居場所をつくるという点で、特に意識していることがあったら教えてください。

ここに来たからには、毎日ハッピーな気持ちで過ごして、ハッピーに帰ってほしいなって思っています。

最初はみんな友達いないじゃないですか。でも、私がすぐ出ていくんじゃなくて、いろんな子に「新しい友達が来たよ」と声をかけて、パイプ役になってもらったりします。そこでいろんな化学反応が生まれてきます。

きっと気が合うんじゃないかと思っていた子ども同士で仲良くなることもあるし、逆になかなか合う子が見つからなくてどうしようって時に、新しい生徒が来て友達になって、そこから輪が広がることもあります。

スクールに来てホッとするとか、「この子に会えるから行こうかな」と思えればいいなと。

特に昼間のクラスは長時間座って勉強していて、本当によく頑張っているなと思います。
同時に、そういう勉強が得意な子どもばかりではないので、特にそういう子たちには、ちょっとリラックスできる友達との時間を過ごせてもらえたらといつも思っています。

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――最初はひとりになりがちなお子さんに、マッチングを考えてあげる役割もされているんですね。

もちろんクラスの中で、みんなが仲良くなれればいいんですが。
初級クラスだと、みんな母語や使える言語が違って、日本語もこれから習う状態で共通言語がない。もう緊張してシーンとしてしまい、昼休みもシーン…っていう状況から始まることもよくあります。

最近は、スマホの自動翻訳機能で子ども同士でやり取りをして、クスクス笑っているなんて場面も出てきましたが。
同じ出身の生徒を紹介したり、ムードメーカーを連れて行ったりすることもしますね。授業の回数を重ねるにつれて、クラスとして団結していって、和気あいあいとした雰囲気が生まれてきます。

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――江戸時代の日本人が中国に行って、筆談でコミュニケーションしていた話の現代版みたいです。それが複数言語でできてしまうところが、テクノロジーの威力ですね。
日本語を学ぶうちに、日本語が共通言語になっていくんでしょうか?

そうです。もう楽しそうに、なんだか不思議な日本語が飛び交ってることもありますけど、それもまた「あーよかったなー」って思いますね。

――なるほど。違うルーツを持つ人たちが、日本語を使ってコミュニケーションを取ってくれるっていうのは楽しいことじゃないかなと思えてきますね。
今後、どんな活動に力を入れたいかについても教えていただけますか?

子どもたちとのイベント関連でしょうか。私が働き出してからは、コロナ禍でほとんどできていないんです。

以前はスクールの年間行事として、6月に運動会、8月の福生七夕まつりの市民模擬店に参加、秋に文化祭で生徒がダンス・歌・武道などを披露して、3月には卒業式という流れがあったそうですが、最近では近場に遠足や見学に行けたぐらいですね。

コロナが落ち着いたら、今後は子どもたち主体でイベントがしたいと思います。
子どもたち自身で計画を立てて、それに向かってじゃあどうするっていう議論も、実行のプロセスも全部やってみる。
来年度は、制限がある中でも、子どもたちとできることを最大限やりたいなと思っています。

――では、今後の課題として感じていることは何でしょうか?

私自身がもっと勉強しないと。それが本当に課題です。

保護者からの相談を受けて、じゃあどうしようって時に、自分たちだけでは対応できないから外部に繋げる方向を考えて、いろいろ調べたり電話したりするんですが。
そういう時、日頃の知識や視野の広さが大切だと痛感します。

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――保護者の方やお子さんから相談が来て、外部に繋ぐための引き出しの多さや人脈などを持っていたいということですね。
我々もいろいろ関わらせていただいていますが、今後プロボノチームとしてできることはどんなことがあるとお考えでしょうか?

プロボノの方々に週一回、学習支援に入っていただいていますが、子どもたちとの雑談で、皆さんのお仕事についての話が出てくることがあります。
商社という存在を初めて知る子どもがほとんどで、「へえ、こんな仕事あるんだ!」と興味を持って聞いていますね。

普段の生活では限られた大人との関わりだけになりがちなので、学習支援でもそれ以外でも、「新しい世界を見せてくれる人」として、子どもの視野を広げてもらえたらうれしいです。

――最後に、当社に限らず、このスクールを知った方々にどんなことができるか、またどんなことをしてほしいなと思いますか?

海外ルーツの子どもたちの存在を知ること自体が、その人に新しい気づきを与えてくれると思っています。

ひとつ例を挙げると、私の母は脳出血で体の右側が麻痺しているんですが。
母が今の状態になって、体が不自由な人や杖をついてる人を意識的に見るようになりました。この人はどういう状況なんだろう?と。

そして私が何にいちばんびっくりしたかというと、杖をついた人がこんなに多いのかということです。きっと今まで見ていた景色と同じなんですが、意識するだけで全く見え方が違ってきて。

意識するだけで、今まで見えなかったことが見えるようになり、ひとつ二つと新たな発見が出てくる。意識するだけで、アンテナが立ち、行動も変わってくる。そんなことを、母を通して強く思うようになりました。

――身近に海外ルーツの人がいて、その人の立場に自分の身を置いて考えられるようになると意識が変わる。そして、今度はそこから行動が変わっていけばいいですね。
今日は本当に長い時間、ありがとうございました。

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子どもたちのようすを見ながら「仲良くなってくれて良かったなぁ」とうれしさに浸るみつえさん。人を尊重し、人の立場に立って思いを馳せる「利他の心」や「無償の愛」といったものを強く感じました。

御自分では「ふわふわしてるんです」とおっしゃるのですが、いやいやむしろ本当にしっかりした方だと思いました。長時間インタビューにお付き合い頂き感謝です。

執筆:住友商事プロボノチーム
(編集:YSCグローバルスクール​​/写真:森佑一)

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