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日本書紀巻04/綏靖天皇(1)の原文解説   

神渟名川耳天皇 綏靖天皇

神渟名川耳天皇、神日本磐余彥天皇第三子也。母曰媛蹈韛五十鈴媛命、事代主神之大女也。天皇風姿岐嶷、少有雄拔之氣、及壯容貎魁偉、武藝過人、而志尚沈毅。至卌八歲、神日本磐余彥天皇崩。時、神渟名川耳尊、孝性純深、悲慕無已、特留心於喪葬之事焉。其庶兄手硏耳命、行年已長、久歷朝機。故、亦委事而親之。然其王、立操厝懷、本乖仁義、遂以諒闇之際、威福自由、苞藏禍心、圖害二弟。于時也、太歲己卯。

この日本書紀の一節は、綏靖天皇(神渟名川耳天皇)についての記述です。彼は神日本磐余彦天皇の第三子で、母は媛蹈韛五十鈴媛命、事代主神の長女です。綏靖天皇は風格があり、武芸に優れ、志が沈着で毅然としていました。48歳で父が崩御した時、彼は深く悲しみ、葬儀に特に心を留めました。庶兄の手硏耳命は経験豊かで、政務を任されていましたが、内心では仁義に反し、弟たちに危害を加える計画をしていました。この出来事は己卯年に起こりました。


各文毎に説明します。

神渟名川耳天皇 綏靖天皇

「神渟名川耳天皇 綏靖天皇」は、綏靖天皇の別名を示しています。この表記は、綏靖天皇の名前として用いられる古代の呼称です。

  • 神渟名川耳天皇:綏靖天皇として知られる天皇の特定の名称。この名前は、日本古代の天皇に特有の複雑な命名法を反映しています。

  • 綏靖天皇:綏靖天皇として一般的に知られる名称。綏靖天皇は日本の伝説的な天皇の一人で、古代日本の歴史や神話における重要な人物です。

これらの名称は、日本の歴史的記録や文学作品において、特定の天皇を指し示すために用いられています。

神渟名川耳天皇、神日本磐余彥天皇第三子也。

綏靖天皇(神渟名川耳天皇)が神日本磐余彦天皇の第三子であることを述べています。

  • 神渟名川耳天皇:綏靖天皇として知られる天皇の名称。

  • 神日本磐余彦天皇:綏靖天皇の父である天皇の名称。※神武天皇

  • 第三子也:「第三子である」という意味で、綏靖天皇が神日本磐余彦天皇の三男であることを示しています。

この文は、綏靖天皇の家系と彼の父である天皇についての情報を提供しています。

母曰媛蹈韛五十鈴媛命、事代主神之大女也。

綏靖天皇の母について述べています。

  • 母曰:「母は」という意味で、次に母親の名前が続きます。

  • 媛蹈韛五十鈴媛命:綏靖天皇の母の名前です。これは、彼女の名前が「媛蹈韛五十鈴」ということを示しています。

  • 事代主神之大女也:「事代主神の長女である」という意味です。事代主神は日本神話に登場する神で、ここではその神の長女として媛蹈韛五十鈴媛命が特定されています。

この文は、綏靖天皇の母親の名前と、彼女が神話上の重要な神の娘であることを示しています。

天皇風姿岐嶷、少有雄拔之氣、及壯容貎魁偉、武藝過人、而志尚沈毅。

天皇の特徴について説明しています。

  • 天皇風姿岐嶷:「天皇の風姿は岐嶷(険しく峻烈)である」という意味で、天皇の外見や態度が堂々としていて威厳があることを示しています。

  • 少有雄拔之氣:「少年の頃から雄大な気質を有していた」という意味で、幼いころからの卓越した特質を表しています。

  • 及壯容貎魁偉:「壮年になって容貌が魁偉である」という意味で、成人した時の風格や外見の印象的な特徴を述べています。

  • 武藝過人:「武芸が人を超えている」という意味で、武道における卓越した技術や能力を示しています。

  • 而志尚沈毅:「志はなお沈毅(落ち着いていて毅然としている)である」という意味で、決断力と冷静さを兼ね備えた精神性を表しています。

この文は、天皇の風格、能力、性格などの特質を描写しています。

至卌八歲、神日本磐余彥天皇崩。

  • 至卌八歲:「四十八歳に至る」という意味で、年齢を表しています。卌(しよく)は40を意味する古代中国の数詞で、八は8を意味します。したがって、卌八は48を意味します。

  • 神日本磐余彥天皇崩:「神日本磐余彦天皇が崩御した」という意味です。「崩」とは古代中国や日本の歴史文献で天皇や皇帝などの高位の人物が亡くなったことを表す言葉です。

この文は、神日本磐余彦天皇(神武天皇)が48歳で亡くなったことを記述しています。

時、神渟名川耳尊、孝性純深、悲慕無已、特留心於喪葬之事焉。


  • :「その時に」、特定の時間を指しています。

  • 神渟名川耳尊:綏靖天皇の名前です。

  • 孝性純深:「孝行が純粋で深い」という意味で、綏靖天皇が非常に孝行心が強いことを示しています。

  • 悲慕無已:「悲しみや哀悼が尽きない」という意味で、彼が亡くなった父、神日本磐余彦天皇を深く悼んでいることを表しています。

  • 特留心於喪葬之事焉:「特に葬儀の事に心を留めている」という意味で、彼が父の葬儀に特別な注意を払っていることを述べています。

この文は、綏靖天皇(神渟名川耳尊)が非常に孝行心が深く、父である神日本磐余彦天皇の死を深く悼んでいたことを示しています。また、綏靖天皇が父の葬儀の事に特に注意を払い、心を留めていたことを表しており、彼の尊敬と愛情を反映しています。この記述は、綏靖天皇の人柄や家族に対する深い情感を描写していると言えます。

其庶兄手硏耳命、行年已長、久歷朝機。故、亦委事而親之。

  • 然其王:「しかし、その王(手硏耳命)は」と、手硏耳命の行動について述べています。

  • 立操厝懷:「行いを正しく保つ心を立てて」、表面上は正しく振る舞っているが、内面は異なる様子を表しています。

  • 本乖仁義:「本質的に仁義から逸脱している」という意味で、根本的に道徳的な価値観から外れていることを示しています。

  • 遂以諒闇之際:「諒闇(喪中)の期間に」、父の死後の喪中を利用していることを表しています。

  • 威福自由:「自由に威力と福利を振るって」と、自己の利益のために権力を行使していることを示しています。

  • 苞藏禍心:「禍をもたらす心を隠して」と、悪意を内に秘めている様子を表しています。

  • 圖害二弟:「二人の弟を害しようと計画して」と、綏靖天皇を含む自分の弟たちに危害を加えようとしていることを示しています。

この文は、手硏耳命が表向きは正しく見えるが、実際には道徳から外れ、権力を利用して自分の弟たちに危害を加える計画をしていたことを示しています。

于時也、太歲己卯。

  • 于時也:「その時に」という意味で、特定の出来事が起こった時点を指しています。

  • 太歲己卯:中国の伝統的な干支に基づく年の表記です。「己卯」は60年周期の干支の一つで、特定の年を指しています。この表記は、当時の年を特定するために用いられていました。

この文は、述べられている出来事が「己卯」年に起こったことを示しています。


参考文献

国宝:日本書紀神代巻上下(吉田本)

日本書紀原文
https://www.seisaku.bz/nihonshoki/shoki_01.html


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