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薬機法改正「ガバナンスの構築」スタート

2021年8月1日薬機法改正により全ての薬局にガバナンスの構築が求められます。同時に始まる「認定薬局制度」ばかりが注目され、話題に上がらないガバナンスですが、「義務化」されるというポイントを理解し、取り組んでおくことが重要です。経営者だけではなく店舗の責任者である管理薬剤師も理解しておきたい項目です。

ガバナンスの構築とは

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「コンプライアンス」は法令遵守と訳されますが、テレビ業界などで最近耳にする言葉です。皆さんもなんとなくは意味を理解していると思います。薬局は医薬品医療機器等法(薬機法)に定められた施設であり、保険事業は健康保険法によって定められた特定ビジネスです。これらの法に則って運営をして行かなければいけません。保険事業は厚生労働省令である「保険薬局療養担当規則」というルールがあります。
これらを守ることは当然ではありますが、多くの薬局は2人以上が集う組織であり企業です。個々単位ではなく、会社としてどのように守っていくのかが求められます。

この会社としてどう守っていくのか、体制やルールを作るのかが「ガバナンス」になります。

今回の薬機法では「薬事に関する」となっていますが、ガバナンスに範囲はなく企業運営に関わる法律やルールをどのように守っていくよう会社として勤めていくのかということが求められます。

多くの方は「法律を守ることは当然だ」と思うかもしれません。しかしながら昨今続いた不祥事はその当然を覆すものでした。また法律をきちんと理解していないことから法令違反に繋がった事例もあります。

当然ではあるのだが、出来ていない!だからこそ法律に組み込まれたのですが、これって2020年9月に始まった「服薬フォロー」と同じ流れで、国からの「ある」メッセージではないでしょうか。

薬機法改正の目的

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大体の問題はこの3つに分類できるかと思います。

①現場管理者(部長やエリアマネジャー)による指示
「○○が会社のためにやった」「目標をクリアするためにやった」というコメントはよく見る弁明です。決まって「経営者は把握していない」というおまけもついていると思います。
「付け替え請求」や「薬歴改ざん」などでよく見られました。

②経営者による指示
最も悪質なものですが、最近の出来事では個別指導による返戻額を抑えるために経営者の指示による「薬歴改ざん」という不祥事がありました。中小薬局単位では、現場と経営者が近いこともあり、現場での不祥事はここに該当するケースが多いです。

③そもそもの知識がない
小規模薬局でありがちですが、そもそもの知識がないというものです。全国を回っているとこのような薬局は実に多いです。知識があっても解釈が間違っているものはここに該当します。
法律は判断が難しいことがよくありますが、「おれはこう思っている」というものは残念ながら通じません。最近では非薬剤師による無資格調剤で業務停止の処分を受けた薬局もありました。

現場レベルで勝手に薬を横流しするなどの問題もよく聞きますが、主なケースはこの3つではないでしょうか。このようなことをどのように会社として防ぐのか、そして起きないように管理監督していくのかが今回の法律で求められるところです。

法律改正のポイント

今回色々な通知やガイドラインが出ています。また法律のことなのでかなり難しいです。少し整理をしますが、

①医薬品医療機器等法 (法律)
②医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性を確保等に関する法律施行規則 (省令)
③薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン

こんな感じの立て付けになっています。法律に記載されていることは罰則の対象となります。省令で定められていることは原則罰則の対象外ではありますが、「厚生労働省令で定める」という一文がある場合は、罰則の対象となります。
ガイドラインは指針のようなもので、これ自体に法的拘束力はありません。

そんなわけで、「法律」の改正文書を読み、「厚生労働省令で定める」という一文は線を引き、施行規則を確認する。そのうえで解説をしているガイドラインを見て、理解を深めることが重要です。

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今回改正された部分は「法律第9条、7条、8条」の3箇所です。(主たる部分)

第9条の2の1「薬局開設者の法令順守体制」(新設)
第7条の3  「薬局の管理」(新設)
第8条の2   「管理者の義務」(一部追加)
   の3   「管理者の義務」(新設)

詳しくはご自身で確認されてみてください。

簡単に説明をすると新しい薬機法では
「開設者(会社)は法令遵守たのためのルール作り、研修、評価、監督をしっかりとしましょう」
「管理者(管理薬剤師)はきちんと能力があり責任が持てる方を選びましょう」
「管理者(管理薬剤師)は店舗管理者として、不適切な指示は拒否し、文書によって開設者(会社)に意見陳情をしましょう」
「併せて開設者(会社)はその意見を尊重し、繰り返さないような改善をしましょう」

ということです。

求められるもの

・薬事に関する業務に責任を有する役員の選定
・業務を遂行できる能力と経験を有する管理者の選定
・ガバナンス(コンプライアンス遵守)の指針の策定と伝達
・各担当者の業務の範疇と権限の明確化
・コンプライアンス確保のための規定の作成
・コンプライアンス確保のための研修体制と評価
など

法律改正で何が変わるのか

今回の改正で考えなければいけないことは

・管理薬剤師の任命責任が問われる
薬機法7条により開設者は適切な人員の配置が求められます。
ガイドラインや日本薬剤師会の手引きでは管理薬剤師の能力として

・5年以上の経験
・認定薬剤師などの資格

を求めています。
一方、JACDS(日本チェーンドラッグストア協会)は5年は長いとし、3年以上と独自のガイドラインを出しています。

大事なことは「何年」「資格」ではなく、きちんと求められていることを理解しているのかという問題だと私は個人的に思います。

・管理薬剤師のアクションが問われる
いくら管理薬剤師が薬局の責任者と言われても、多く場合、いち企業人です。会社等の不法な指示に対して、アクションが取れるかがポイントになります。また、管理薬剤師による意見陳情は法律に定められた責務なので、問題があったときに、どう行動をとったのかが問われます。
企業としても管理薬剤師による陳情(内部通報)を真摯に受け止め改善をするという責務があります。そのためには、風通しのよい環境づくりが求められます。
昨今、内部通報に対する環境整備が企業に要求されています。それが「公益通報者保護法」です。ガバナンスのためには「NO」といえる環境づくりが大前提です。通報者が通報により不利益を被らない体制づくりと、その周知が必要です。

・責任逃れの脱却
「現場の指示です」「会社は知りませんでした」がもう通用しません。先ほど説明したように開設者には任命責任があります。今回は触れませんでしたが、新たに「薬事に関する業務に責任を有する役員」(責任役員)の配置が義務付けられます。当然ながら、責任役員も処罰の対象になりますし、やはり経営者にも責任が行くように、責任の紐づけが行われています。

昨今大手企業による不祥事が報道されることが多かったのですが、残念ながら今回の責任はHD化してしまうと効力を失ってしまいます。HD化は親会社、子会社の関係になりますがよほど悪質であるケースを除き、子会社の責任が母体(HD)に及ぶことはないそうです。

そうはいっても中小薬局が多数を占める現状ですので、こうならないような体制づくり(ガバナンス)が求められます。

まとめ

テーマにあげておきながら、ガバナンスはきちんとした説明と理解が必要です。「規定を作ればいい」という問題ではなく、継続的な法令遵守体制を作ることが本質です。そして、「みんな理解している」という定性的なものではダメで、定量化していることが重要です。

管理薬剤師による陳情は従業員にとって自らの身を守る武器ではありますが、なんでもかんでも意見陳情すればよいというものでもないです。
(理解が足りないと、合法的なものであっても陳情し、会社が取り組まないと無視されたとネガティブな気持ちを抱きます)
かといって、仕組みだけを文書で作り、通報を抑制しようという行為は大きな間違いです。

コンプライアンス・ガバナンナンスに企業規模は関係なく、どのように取り組むのかが求められています。

書き入れない、説明しきれないことも多々ありますが、こういう取組が本当に広がれば薬局における不祥事は少なくなり、それと共に業界のモラルが向上すると考えています。

私も必死に関係先のガバナンス構築を経営者とディスカッションを繰り返し整備しています。

なにかあればお気軽に声を掛けてください。

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