電子処方箋について考えてみる
国家戦略として医療におけるICT化が進められています。ちょっとトラブっているところですがオンライン資格確認がこの春からスタートしました。新型コロナウイルス感染症により「0410特例措置」が発動し、オンライン診療・服薬指導の普及が進んでいます。次のステップは処方箋の電化です。今回は「電子処方箋」についてまとめてみたいと思います。
処方箋の電子化??
2022年夏ごろを目途に電子処方箋の本格的な運用を始めるとビジョンが示されていますが、電子処方箋については2016年まで年をさかぼります。この年「e分処方施行規則」というもので、処方箋の電磁的記録による作成及び交付及び保存が可能となっています。同時に「電子処方箋の運用ガイドライン」が作成されています。
すなわち、「電子処方箋」はすでに存在しているということです!
しかしながら、ご存じの通り今現在、存在していることを知っている方はほとんどいません。ですので、2019年より改めて「電子処方箋の円滑な運用に関する検討会」を開催し、本格運用に向けた議論をしています。
電子処方箋とは
処方箋の電子化、すなわち「電子処方箋」ですが、字のごとく紙ベースではなくデータによる処方箋になります。処方箋については医師法によって定められており、医師法施行規則第21条にはこう記載されています。
医師法施行規則第21条
医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。
処方箋には医師の住所、記名押印または署名をしなければいけないとしています。電子データの処方箋にどう「記名押印」「署名」をしたらいいのだろうか!ここが大きなポイントになっています。
電子化されたデータの所在を証明するのに「電子証明」という方法があります。作成した文書に登録を行った方法により「○○が作成しました」と所在を証明する方法です。
厚生労働省では医療向け電子証明として「HPKI」(Healthcare Public Key Infrastructure)という推奨しています。医師は自ら作成した処方データにHPKIによる電子証明を付与することで、規則にある記名押印の代用をなすとしています。こうして作成された処方箋データが「電子処方箋」となります。
電子処方箋を使った仕組みとは
こちらは「電子処方箋の運用ガイドライン第2版」に示されている電子処方箋の運用事例です。
電子処方箋はこれから始まる「オンライン資格確認システム」と連動して構築されるとのことです。医療機関は電子処方箋を作成し発行すると、そのデータは「電子処方箋管理サービス(サーバー)」に保管されます。クラウドに保管されるという考え方がイメージしやすいでしょうか。
次にこの処方箋をどのように受け取るかですが、2つのパターンが考えられます。(国の提示しているモデルも含む)
1つ目は、シンプルにオンライン資格確認同様に、マイナンバーカードを活用して、薬局に到着した際にデータを取り込む方法。
2つ目は、患者が保有する電子おくすり手帳などのアプリを活用しモバイル端末にダウンロードし任意の薬局に送付をする方法。
が、考えられます。オンライン資格確認にマイナンバーカードが必要なのはご存じのことかと思いますが、実はマイナンバーが必要なのではなく、ICチップに含まれている「電子証明書」が大事ということはご存じでしょうか?
電子処方箋の課題は「誰が発行する」「誰が受け取る」という所です。受け手側に間違いがないように本人確認をどうするかというと、そこでマイナンバーカードに付随している電子証明を利用した本人確認が必要になります。
携帯アプリを活用した方法も同様のことが考えられます。すでにマイナポータルを活用している人も多いと思いますが、マイナポータルと電子おくすり手帳アプリを連動することで、ここでも電子証明の活用(本人確認)をすることができます。
携帯端末とデータを連動させることで、これまでの処方箋送信アプリ同様に任意の薬局にデータを送ることができれば、待ち時間の解消などにも役立ちます。また「オンライン服薬指導」においても原本データを送ることができるので、課題となる「FAX後の原本郵送」という作業もいらなくなります。
電子処方箋化の意義
電子処方箋を運用する意味はいくつかありますが、大きなポイントは医師の処方時における突合・縦覧の実施です。電子処方箋の仕組みは「オンライン資格確認システム」と連動すると説明しました。オンライン資格確認とはレセプト情報を基にしたデータの集合体です。今後医師は「薬剤情報」(レセプトベース)を事前に確認した上で処方決定をすることができるようになりますが、当然ながら確認したのに重複投薬や禁忌処方があってはいけません。
現在薬局で行われている他の服用薬とのチェックが、処方時点で「処方データ」と「過去の薬剤情報」と突合できるようになります。
もうすこし簡単にいうと、今回の処方内容と既往薬との間に、禁忌や重複投薬がある場合にはアラートがなり、処方の時点で修正を掛けれるようになるということです。
そして処方のデータは薬局からの調剤完了のデータ登録をもって、そのまま個人の利用薬剤して登録されます。すなわち「お薬手帳の機能」、「重複投薬相互作用等防止加算」の機能の代用をしてくれることになります。
まとめ
電子処方箋についてなんとなくイメージがついたでしょうか?普及に向けては正直かなりのハードルを感じています。オンライン資格確認のスタート失敗のようにシステム構築がきちんとできるのかという問題も抱えています。
電子処方箋の作成には電子証明が必要です。薬剤師の調剤済み印・署名の代わりにも電子証明が必要と考えられます。しかし厚生労働省が推奨しているHPKIは決して安いものではなく、現場医療従事者への負担が大きいです。
(日本医師会参考)
ただ、その先にある医療費抑制など効果、オンライン医療の流通を考えると時間が掛かってでも普及していきますし、国としては普及させる!となります。活用による「医療費抑制効果」は計り知れないものであり、付随して調剤医療費も抑制できます。対物から対人と言われる中、システム化に置き換えられる業務も今後増えてくるのではないでしょうか。
始まるのかどうかは、来年の夏を待つばかりです。しかしながら変化する環境に対して理解を進めていくことも大事なのではないでしょうか。