TRPGガイダンス:プレイヤーキャラクターの“欠落”

ドラマチックなTRPGを求めるうえで、GMであってもプレイヤーであっても有益なテクニックは、意図的に解決すべき“欠落”をPCに設定し、これを解決することでテーマを提示することである。本稿では、脚本家としてのいくつかの知見から、そうした“欠落”の設定について述べてみたい。

■本記事について

 この記事は「なんとなくnoteに慣れてみよう」という新年の書き初め的なものであると御理解いただければ幸いである。そのため、本記事については適宜加筆ないし修正、あるいは突然の公開中止という可能性もあることを先んじてお断りしておきたい。

 初出は『ゲーマーズ・フィールド』誌に『フルメタル・パニック! TRPG』用に執筆したものだが、内容を同作に限定しないものとして改稿し、これを改めた。

 本記事が想定しているシステムは『異界戦記カオスフレア Second Chapter』や『天下繚乱RPG』のような、オープニングフェイズ、ミドルフェイズ(リサーチフェイズ)、クライマックスフェイズ、エンディングフェイズ、の型式(フェイズプロセッション)を有するものである。

 もちろんそうでないシステム、たとえば『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『蓬莱学園の冒険!!』などにも容易に援用可能であると筆者は信じるが、そうでないTRPGもあろう。それについてはご容赦いただきたい――TRPGは多様なのだ。

■成長

 多くの場合、ドラマとは成長そのものである。経験点をもらってレベルアップする話をしているのではない。

 旅立つにせよ、新しい場所を訪れるにせよ、新しい出会いがあるにせよ、ドラマの中で我々の主人公は、何らかの成長をする。

 では成長とは何か?

 それは、彼の心の欠けている部分、つまり“欠落”が埋まることである。

 欠落とは、たとえば「多忙な親が誕生日を祝ってくれなかったので家庭の幸福を理解できない」「手ひどい失恋をしたために男性を信じられない」「貧困がトラウマになっていて金がすべてだと思っている」……といったものだ。

 もちろん、これらの欠落があるのは、人間ならば普通のことだ。あなたにも私にも、そういう要素はあるだろう。

 だから、欠落を抱えたキャラクターが欠落を抱えたまま物語を進めても、もちろん構わない。それはそれでいい。

 しかし、エンタテインメントとして考えた場合、我々がカタルシスを感じるのは、まさにそうした人間的な欠落を解決し、ひとつ成長した時なのである。それゆえに、ドラマの軸に成長のカタルシスを用意しておこうとするならば、まず欠落を用意しておくべきだ。

 偶発的にロールプレイの流れによって、偶然欠落が発見され、それがセッションの流れによって解決し、成長する、というのは、偶然頼り過ぎる。それを計算してハンドアウトやPC設定の中に配置しておくことで、より意図的にドラマを構成しよう、というのが本稿の意図なのである。

 GMであればハンドアウトやサンプルキャラクターの選択時に、プレイヤーであれば自分のPCの設定構築時に、これらの事項を心に留めておくことは役に立つはずだ。

●成長とは?

 では、たとえば「自分を大切にすることができず、いつも誰かのために危険な戦場に飛び込んでしまい、その結果として自分を愛している人のことを気遣えない」欠落を持つ少女がどのようになるのが成長なのであろうか。
 多様な解釈があるが、ここでは「自分の大切さに気が付き、自分を愛し気遣ってくれている人の気持ちをいたわれるようになること」だとする。

 彼女はその過程で武器を取り、戦い、幾多の強敵を打ち破るが、それはその成長の一側面に過ぎない。最終的なゴールは、彼女が自分を愛せるようになることなのだ。

 では、彼女がオープニングで自分を見つめ直して「今日からはちゃんと健康診断を受けよう」と言えば成長したことになるのだろうか?

 いや、それも違う。まず彼女の欠落が描写されなければならない。彼女が欠落を有している人間であること(たとえば自分が撃たれることをまったく気にせずに人質を助けようとする)ことが提示され、我々が「なるほどこいつはこういうやつなのだ」と分かってから、次にその成長が行われるのである。

 であるから、まず欠落はオープニングか、あるいは彼女が描写されるミドルの前半において説明されることが望ましい。

●ターニングポイント

 欠落を抱いたキャラクターは、自分自身の意志で事件に関わるべきだ。
 たとえ巻き込まれたのであっても、あるいは命令されたのであっても、「巻き込まれたから事件に乗り出す」「命令されたからやる」という形で、事件に入っていくべきなのである。そうでなければ、感情移入出来る物語にはなりづらい。
 たとえば、こうである。

・気になる相手が事件に巻き込まれたので、解決したいと思う。
・自分の目的を果たすために、何かが必要になったので、それを探しに行く。
・まったく無関係なトラブルに巻き込まれたので、生きるため/解決するために行動を開始する。
・依頼や命令を受けたので、それを承諾し、乗り出すことにする。

 多くの場合、このターニングポイントはハンドアウトで与えられるはずである。つまり、欠落があるキャラクターがハンドアウトの事件に関わる……という仕込みを、プレイヤーの側が、PCをハンドアウトを見ながら想定することで、あなたのプレイはぐっとドラマチックになるはずだ!

 また、コンベンションプレイなどでも、ライフパスを見ながら、キャラクターの欠落をGMとプレイヤーで想定しつつ、それに絡んだオープニングをハンドアウトをベースに創作することで、やはり同じような効果を得ることが出来るはずだ。

・オープニング(欠落が描写される)
・ターニングポイント(事件に関わる)
・ミドルフェイズ(その過程で成長する)
・エンディングフェイズ(成長したことがわかる)

 という構造を意識するとよいだろう。

●偽りの勝利と第二ターニングポイント

 さらに凝るなら、欠落者には話の中間で、「あれっ、これで話が終わりではないか」というところにたどり着かせたい。

 これが“偽りの勝利”である。ここでは、欠落者は目的を果たしたかのように見える。あるいは完全に絶望したかのように見える。

 たとえば、自分を大切にしないまま活躍する我らのヒロインは、命を捨てて戦場に飛び込んでいき、そのスタイルを変えないまま大活躍し、自分を案じてくれている人の言葉を「杞憂だったじゃないか」と笑いとばす。

 しかし、そうではない。彼女が我が身を省みなかったことで、致命的な何かが起きてしまう。たとえば、彼女をかばおうとした大切な人が、重傷を追ってしまうのかもしれない。

 そこでようやく彼女は、自分の過ちに気が付く。自分を大切にしなかったことで、自分が大切にしている人々を無意味に危険にさらしてしまったのだと。そこで始めて、今度こそどう生きるべきかについて考えるようになるわけだ。

 この構造をミドルフェイズに持ちこむと、あなたのシナリオはドラマチックになる。つまり、これでクライマックスか、と思われたらそれは単なるフリにすぎず、そこからもう一度ドラマが急展開するのである。そうすることで、「なんだ、セッショントレーラーとハンドアウトで予想された通りのことが起きるだけじゃないか」という構造が回避できるはずだ。

 そして、その後に第二のターニングポイントを用意しよう。つまり、我らのヒロインは今度こそ自分のミスを精算するため、失意から立ち直って悪と対決することを決意するのである。

 この第二ターニングポイントにおける決意が、彼女の欠落の解消につながっているのが望ましい。そして、そこからクライマックスフェイズに至ることで、彼女の欠落が解消されたことが描写されればベストだといえるだろう! この例でいえば、彼女は今度は自分を大切にする戦い方をして、周りの人々を護り、悪役を倒すのである。

■メンター

 成長のきっかけとなるキャラクターを、メンター(導師)と呼ぶ。彼の言葉は、それと意図していなくても、欠落を埋める働きを示す。

 最初に欠落者がそのことを理解している必要はない。反発していてもよい。しかし、最終的にその言葉を理解することが、彼の成長につながる――とよりドラマチックになる。

 ただし、これはTRPGでやるのは極めて難しい。当たり前だが、PCとPC、PCとNPCでも、打合せが必要になってしまうからである。

 したがって、これは「こうするとこの欠落への答えになるかな?」くらいのセリフを欠落者に対して投げかけ、うまく行かなかったらこだわらない、くらいがよい。

 間違っても「これはメンターの言葉なんだから従え」と言ったり、一度メンターの言葉に従ったんだから、と果てしなく説教してしまってはいけない。欠落しているのはPCであってプレイヤーではないのである!

■アンタゴニスト~テーマの反対者~

 こうしたテーマをハンドアウト段階でPCに仕込んでおくなら、BOSSはそのテーマの否定者であるとよりよい。

 「誰かと一緒でいれば強くなれる」がテーマなら、BOSSは「ひとりのほうが強い」と信じているべきだし、「正々堂々努力することが武道で一番大切なことだ」というテーマなら、敵は「努力なんかするよりズルをしたほうがずっといいに決まってる」という主張を掲げているべきなのである。

 もちろん、プレイヤーが実際にどういうテーマを掲げるかは実セッションによって大きく異なってくる。しかし、アンタゴニストを登場させることを意識することであなたのシナリオはよりテーマを浮き彫りにしやすくなるだろう。

 ミドルフェイズが半ばに入ったあたりで、PCたちのロールプレイに対してどのような「逆の主張」をぶつけると、PCたちが映えるかについて意識するのは悪くない。

 注意するのは、アンタゴニストはPCたちを論破するための存在ではなく、論破されるための存在だということである。あくまでPCたちの成長や活躍を描くためのものだ。論理は穴だらけでも、稚拙でも構わない。そういうものである。

 そのうえでプレイヤーは、アンタゴニストを登場させてきちんと負けてくれたGM本人を悪く言わないこと。「愚かなNPC」を登場させてくれているGMは、クレバーで親切なあなたの友人なのだ。まちがっても「こんなバカなNPCを出すんだからGMはバカじゃないのか」という態度を取るべきではないのだ。


■オレのPCには欠落なんてないよ

 もちろん、欠落を持たず、変化しないキャラクターが主人公のドラマも存在する。有名なのは『ゴルゴ13(さいとう・たかを)』であろう。

 こうしたキャラクターをやるのはもちろん大変に素晴らしいことだ。だが、そのような場合でも、これまで述べてきたノウハウを用いることができる。

 この場合はNPCが何らかの欠落を抱えており、PCがメンターとなる。つまり、欠落を抱えたNPCがPCと出逢うことがターニングポイントとなり、彼が偽りの勝利を経て、何らかの葛藤を突きつけられ、メンターたるPCたちの言葉によって決意(第二ターニングポイント)し、PCたちの協力を得て事件を解決することで成長する、という型式である。

 こちらのほうが、多くのGMには応用しやすいだろう。NPCの欠落を解消することがドラマになる、ということだ。

 コツはふたつある。

 ひとつは、「どうやったら欠落が解消するか」を決めておくことだ。つまり、「この欠落を抱えたNPCを、プレイヤーの予想もしない言葉が解決する」という奇蹟に夢を見るな、ということである。我々は自分が解決できる葛藤しか解決できない。どうやったら解消するかわからない欠落をNPCに設定しないことだ!

 いまひとつは、NPCを主人公にしないことである。当たり前だが、事件を実際に解決し、調査し、活躍し、決断するのはPCだということだ。あなたの主人公の欠落を解決したいなら、その設定を持ったPCをハンドアウトで作らせよう!

 その上で、NPCが欠落を解消して成長したことが、PCたちの活躍を後押ししてやればよい。たとえば、欠落者のNPCが勇気を出して犯人の顔を証言してくれたからPCたちが犯人を突き止められたり、船を出すことを怖がっていた船長が船を出してくれたからPCたちが邪龍の住む島にたどり着けたりするのである。


■参考資料

SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術(ブレイク・スナイダー/フィルムアート社)ゴルゴ13(さいとう・たかを/リイド社)

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