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TRPGガイダンス:よいプレイヤー

 今回の記事では、あなたがTRPGにおける“よいプレイヤー”になるためのガイダンスを行なう。

 では、“よい”とは何か?

 もちろん、最終的には人それぞれ、プレイグループそれぞれである。そのテーブルの参加者全員が笑顔でいられるのなら、本質的には、それが“よい”プレイヤーだと言えるだろう。

 それでいい。

 だが、それではノウハウとしては意味をなさない。

 そこで本稿では、「なるべく多くの参加者に、また次も遊びたい、と思われるプレイヤー」を“よいプレイヤー”であると定義して話を進めるものとする。

 なお、“個々のタイトルにおけるよいプレイング”については触れない。ほぼすべてのTRPGに適用出来る、広いノウハウについて語っているつもりである。

 また、ここで触れたプレイングに反する、相矛盾するようなスタイルが“悪い”という価値判断を行なっているつもりもないことを述べておく。繰り返すが、「その場の全員が笑顔でいられる」なら、それでいいのである。そこにいない人間のことなど、気にしなくていい。

■“よい”話し方

 さて、まずTRPGが会話によって行なわれているゲームである以上、会話そのもののテクニックは非常に重要であることは論を待たないだろう。

 ではどうした話し方をすると、よい会話だと認識されやすいだろうか。

 もっとも好印象を抱かれやすいのは、『伝わる』ことである。

 TRPGはコンサートのようなものではない。誰かが一方的に語り、もう片方が聞き続けるわけではない。

 お互いの会話のキャッチボールで進行する以上、相手の言っていることがわかることが大前提である。

 つまり、他者にとって聞き取りやすい発言をするのが大切なのだ。

●聞き取りやすいしゃべり方

 まず大切なのは、口を大きく開けて喋ることである。

 声が通りにくい人は、口がきちんと開いていないことがほとんどだ。

 プレイする前に、身だしなみを調える(注1)ついでに、鏡の前で口を開いてみよう。「あいうえお」と発言して、口がちゃんと開いているか確認するのだ。

 そして、その口が開いている感触を覚えて、なるべく開くように意識するとよい。顔の筋肉をこわばらせず、ストレッチして緩めておくのだ。

 可能なら、笑顔を作ってみるといい。人間は笑っている時に、筋肉を動かす。その動きの感じを覚えて、楽しいときにその顔になれるようにするのである。

 あなたが一番チャーミングになれる笑顔を見つけよう。大丈夫。あなたは素敵だ。

 次に、話す相手のほうを見て(複数人なら、交互に見るとよい)、背筋を伸ばして発言することだ。

 照れくさくて相手の目を見れないばあいでも、目線をキャラクターシートやルールブックではなく、意識して相手のほうを向いて話そう。そのほうが印象もよいし、相手に対して声が通りやすくなる。

 最後に、ゆっくり話すことだ。

 TVのアナウンサーくらいの速度で話すとよい。ゆっくり話せば周りにまどろっこしいと思われるのではないか、あるいは遮られてしまうのではないか、と思うかもしれないし、その焦りは大変よくわかる。だが、ダマされたと思って一度試して欲しい。ゆっくり話して通りのよい声のほうが、はるかに聞き取ってもらいやすくなる。

●ヒット確認

 発言している時に、相手の顔を見て話すほうがよいことはすでに述べた。

 これはまず、「あなたに伝えているんですよ」というメッセージ性を持つからである。また、姿勢がよくなる、という効果もある(その結果、発声が綺麗になる)。

 が、それだけではない。相手の顔を見て話すことは、相手の言外の反応を読み取ることにつながっている。

 あなたの発言に対して、相手は喜んでいるだろうか? 喜んでいるとしたら、それはどの部分についてだろうか?

 この「ヒット確認」と呼ばれる作業は、発言内容以上に重要だ。

 あなたの仕掛けた“ワザ”は当たっているか? 届いているか? 効いているか? ヒットを確認せずに闇雲にコンボを撃ち続けても意味がない。当たっているワザを的確に分析するのだ。

 別に、他人の顔色を伺って卑屈になれ、という話ではない。受けているポイントを的確に分析し、その場にあった発言をするのだ。

●上品に喋ろう

 プレイ中は、大変楽しくなり、ついネットスラングを使ったり汚い言葉遣いをしたくなってしまうものだ。

 だが、気心の知れた仲間うちならそれでよくても、さほど親しくない知人や、コンベンションや公募オンラインセッションの相手の場合、そうした言葉遣いはやめたほうがよい。

 人間は、攻撃的な相手に対しては不信感を抱くからだ。不信感を抱かれてしまっては、そもそもプレイがうまく行くはずもない。

 であるから、あなたはなるべく上品な言葉遣いを心がけるべきである。別に、過剰に「ダイスロールをするんでございますわ」とかそういうことを言っているのではない。普通に丁寧語を使って会話せよ、ということだ。

 特に、相手が年下であった場合、「目下」という意識が発生してぞんざいになりやすい。ゲームの場では、年齢にこだわらず、相手を尊重して話す(注2)とよい。

▼TRPGと方言

 方言の使用には注意が必要である。ある地方では一般的な会話――たとえば筆者の出身地である大阪の「おまえほんまにアホやなあ」というのは、筆者としては「君をリスペクトしている」くらいの意味合いに使っていても、他府県在住者からするとなかなかそうは聞こえないものである。

 あなたが普通に話しているつもりなのに、相手が怪訝な顔をしている場合は、自分の方言に注意してみるとよい。ただ、これは逆もまたしかりで、相手が方言メインの生活を送っている時にこちらが標準語だと、ニュアンスを取り違えられるようなこともある。

 これに対する完璧な対策はない。誤解を招いたら謝罪して意図を説明する、相手の発言をなるべく好意的に解釈するよう努め、意味がわからなければ聞く……くらいのものであろう。

 特にオンライン上では、自分の居住地域からはるかに離れた人と遊ぶこともあるので、誤解が生じないように注意を払うことだ。

●身振り手振り

 ジェスチャーや表情を加えることは、あなたの行動宣言の意図の理解を助ける。慣れてきたら、意識するとよいだろう。

 鏡の前で笑顔の練習をしたり、手を広げる、肩をすくめるなどの動作を加えるのだ。あなたのキャラクターの活躍を、ちょっとしたパントマイムで表現するのもいい。

 ただし、ここで重要なのは、人に指を突きつけたり大声をあげたり、あるいはモデルガンの銃口を向けるような、威圧と取られる行動は行なわないことだ。

 あなたにとって迫真の演技であっても、周囲を怯えさせては意味がない。臨場感もほどほどにしておこう。あなたは一昔前の訓練軍曹ではない(注3)のだから。

▼オンラインセッション

 オンラインでプレイしている場合――チャットかボイスかTV電話かそれらの併用か、などにもよるが――さらに話し方は重要になる。

 なぜならば、オンラインでは情報の欠損が発生するからだ。

 人間は、ただ話している言葉の「意味」だけから内容を判断しているわけではない。先ほども述べたが、あなたの表情や口調、身振りなどから、言葉の裏にある意図を読み取っているのである。

 ネットワークを介した場合、これらの情報はオフラインよりも減少することは避けられない(オンラインの手段によって変化はする)。

 もちろん、オンラインであることによって獲得できる情報もある。たとえば、長ゼリフをテキストに書いたり、複数のチャットウィンドウで会話出来たりと(今回の趣旨ではないため詳述は避けるが)、オンラインならではのメリットはある。

 しかし、あなたの情報は顔を合わせている時よりも基本的には減衰している。この事実は踏まえておくべきだ。

 たとえば、あなたにとって軽いツッコミであるものが、聞く人にとっては胸を刺す言葉になるかもしれないし、あなたのちょっとした提案が譲れない言動に聞こえるかもしれない。

 オンラインでは、オフライン以上に、その言葉がどう受け取られるかについての重みを考えて発言すべきだということだ。

 もし、伝わらないようなら、雑談用のチャットウィンドウなどを活用して、「あれはこういう意図で」とあなた自身の言葉で語るようにするとよいだろう。

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■行動を宣言する

 TRPGにおいて、ほぼPCのアクションは、あなたが行動を宣言しない限り始まらない。

 もちろん、「あなたは幽霊屋敷のホールにいる」のように、GMが最初の行動を指定することもあるだろう。だが、その後に「武装を確認する」「周囲を観察する」などと、行動を宣言するのはやはり、あなただ。

 であるから、あなたの行動宣言は明瞭で理解しやすいものであるべきだ。

 コツは、指示語や代名詞をなるべく避け、「どこで(Where)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」を明確にすることである。

「周囲に敵がいるかもしれないので(Why)、ホールの物陰から(Where)、身を乗り出して(How)、観察します(What)」、という具合だ。

 このほうが、単に「周囲を観察します」と言われるよりも、周りは意図を理解しやすいし、情景をイメージしやすくなる。

●他人を罠にかけない

 しばしば「クレバー」なプレイヤーがハマる罠として、意図を説明せず行動宣言を行なうことで、GM(はなはだしい場合は他のプレイヤー)を罠にかけようとする、というものがある(注4)。

 たとえばこうだ。

プレイヤー:GM、部屋に小麦粉を撒いて、相手が来るのを待つよ。
GM:何のために?
プレイヤー:いいから。入って来た? じゃあ、火を付けるよ。ほら、相手は粉塵爆発でおだぶつだ!

 こうした“罠”は、科学技術や社会構造を使って、相手をクレバーに罠にかけるキャラクターをロールプレイしようとする時に頻出する。

 だが、罠にかける相手が敵対するNPCであっても、担当しているGMはあなたの敵ではない。

 同様にわざと曖昧な行動宣言をしたり、まくしたてることでGMを威圧したりして、GMの発言を戸惑わせ、その描写の揚げ足を取って、自分の行動を有利にするようなこともすべきではない。

 何より、GMが意図を理解していない行動に対して、正しい裁定を下すことはできない。これは、あなたの行動が科学的に正しいか、軍事的に正当かどうか、とは関係ない。いわば、GMというコンピュータをバグらせようとするチートのようなものだ。

 GMに対して不確かな情報を与えて、相手の反応が「誤っている」ところをついて自分を有利にしようという行動はゲームとしてフェアではない。

 TRPGはGMとプレイヤーが対立する遊びでは無く、GMを罠にかけるのはよくないことだ、ということを理解すべきだ。

 これは他のプレイヤーに対しても同じである。あなたの意図は、きちんと説明しよう。それがあなたが信頼されるコツだ。大丈夫。あなたの友人たちは、あなたが意図を説明したとしても裏切ったりはしない。

 先にも述べたが、GMとNPCは別の人間だからだ。GMに「こうして罠にかけたいのだ」と説明すれば、GMは「ではこのような判定を行ない、これに成功すれば相手は罠にかかるよ」と裁定してくれるはずである。

 もちろん、不可能なこともあるだろうし、あなたの望んだ結果ではないかもしれない(たとえば、粉塵爆発に巻き込まれた敵は即死せず、HPが減った状態で怒りに燃えてあなたに銃を向けるかもしれない)。その上で、GMの裁定には従うのだ。

●他人の発言を遮らない

 他人が話している時には、話し終えるまで待つ。簡単なことだが、大切なことだ。

 逆に、果てしなく話し続けず、ひとつの発言をしたら区切りを設けて、他人に発言の機会を与えることが望ましい。

 もし、誰が発言するかお見合いになった場合はシーンプレイヤーを優先するようにするとよいだろう。

■ルールの把握

 ルールを把握することは、TRPGがゲームである以上、大切なことだ。

 特に、GMや他のプレイヤーがルールに不慣れな場合、あなたがサポートできるならば、それに越したことはない。

 このとき重要なことはみっつある。

①GMの裁定に従う
 ひとつは、GMの裁定には従うことだ。あなたのルールの解釈が、あとで確認したFAQやルールブックなどに従えば「正しい」ものだったとしても、ゴールデンルールにのっとり、常にGMの裁定が正しい。

 常にだ。

 例外はない。たとえテーブルに筆者が参加していたとしても、GMの裁定が正しいのである。これに例外はない。

 しばしば、「ゴールデンルールは伝家の宝刀、使わないのがよいGM」と吹聴している人がいる。これは間違いである。何らかの裁定を下している限り、つまり、マスタリングをしている限り、GMはゴールデンルールに則っており、その裁定は常に正しいのだ。あなたがよいプレイヤーでありたいなら、GMの裁定権を尊重することである。
 どうしても今のGMの裁定に不服があるのなら? もちろん、あなたが次は面白いゲームマスターをやることだ!


②過剰な説明をしない
 今ひとつは、過剰な説明をしないことだ。たとえば、判定方法をGMが説明している時に、戦闘ルールまで説明する必要はない。

 サンプルキャラクターを選んでいる時に、コンストラクションの話はしなくていい。ファイターの特技の解説で、ブラックマジシャンの8レベル特技について考える必要はない。

 要するに、人間が把握できる情報量には限度があるということだ。

 その場において必要であること以上については、過剰に説明するべきではない。

 また、GMはしばしばルールをレクチャーする折に、「今は説明しない」という手法を用いる。GMはあなたが理解していることを理解していないのではなく、後で説明するために割愛しているのかもしれない。GMに対するヒット確認は忘れないことだ。

 また、GM自身がルールに不慣れな場合、あなたが行なっているアドバイスが、あなたがテーブルそのものを掌握することにつながることがある。

 あくまで、GMが困っていたら解答する、という範囲に留めたほうがよいだろう。もちろん、GMからオファーがあるなら、その限りではない。

 筆者は自分よりルールに詳しいプレイヤーがいる場合、「説明は任せた」で割と投げてしまうことがある。加納(仮名)いつもありがとう。『ウォーハンマーFRP』の細かい戦闘オプションよく忘れるので……

③ルールブックを所持する
 自分のルールブックを一人一冊(注5)持っておくと、ルールの把握は楽になる。

 もちろん、GMだけがルールブックを所持している、という状況でもTRPGのプレイは可能だ。だが、コンストラクションでキャラクターを作成したい場合などは、自分のルールブックを買っておこう。

■他人をフォローする

 プレイに参加する他のGMやプレイヤーをフォローすることは、大変に素晴らしい。

 というよりも、これこそが“よい”プレイヤーの絶対条件だ。

 フォローには様々なものが考えられる。

●GMを助ける

 先ほども述べたルールのフォローがそうだし、GMの準備に協力することなどがあげられる。たとえば、NPCのイラストを用意したり、日程調整を手伝ったり、オンラインセッションのプレイルーム作成を補助したりするのである。

 他にも、GMの進行を助ける、というものがある。

 たとえば、GMのハンドアウトや描写からGMの意図を先読みして、それを妨害するのではなく、GMが物語りたいストーリーテリングを助ける、というのがそうだ。

 また、GMは困っていたら助け船を出したり、GMが面白いことをしたらきちんと褒めたり、というものもそうである。

 GMは、セッションの運営において、プレイヤーよりも重い責任と負担を負っている。そんなGMを助けてあげることは、あなたの評価を高めることになるだろう。

●他のプレイヤーを助ける

 同様に、他のプレイヤーを助けるのは大切なことだ。これまでに述べたような思いやりもそうだし、単純にお菓子を買ってきたり、部屋を提供したりするようなことも(これはGMにもありがたい)上げられるだろう。

 また、他のプレイヤーのロールプレイを助けることも大切だ。お互いにやりたいキャラクターというものがある。他人のやりたいプレイングをなるべく尊重することは、あなたがよいプレイヤーになるための第一歩である。

■最後に

 さて、もちろん本稿は絶対の正解ではない。ここに書かれていないノウハウ、紙幅の都合で語れなかったノウハウ、筆者がまだ知らないノウハウは無数に存在する。

 あなたが大切に思っている技術がここに書かれていなかったとしても、それはあなたが下手だ、ということではなく、あなたが私より上手なゲーマーだ、というだけである。

 また、中にはあなたにとって当然の常識である事項も含まれているかもしれず、一々言われるのはまるであなたが非常識な人間だ、と弾劾されているような気になったかもしれない。これはそういう意図ではない。

 あなたにとって常識的なことであっても、それがわからない人はいるし、そういう人を「非常識だ」と攻撃するだけでは、話は前に進まないからである。「なるほど、こういう人もいるのだな。そういう人にはどうすればよいのかな」と立ち止まって考えていただければ、と思う。

 そして、あらゆるガイダンスがそうであるように、この記事もまた、万能の銀の弾丸(シルヴァ・バレト)(注6)ではない。この記事にすべて従っていたからといって、あなたが他のプレイヤーに対して優れている、という話でもない。

 最後にお説教くさくなってしまったが、要するにガイダンス記事に囚われることなく、楽しんでプレイすることが一番大切なテクニックなのだ。

注1:風呂に入って、顔を洗う程度の話である。もちろん必要ならメイクをしてもよい。人に会うつもりになろう、ということだ。

注2:性別、国籍、民族などについても同様であることは今さら言うまでもない。

注3:元の原稿が『フルメタ』だったときは「あなたは訓練軍曹ではないのだから」と書いていたのだが、最近の米軍では『フルメタルジャケット』式の訓練は行なわれていないようなのでこのように改めた。

注4:前の記事でも同じ趣旨の話を読んだ、という人もいると思うのだが、記事単体でノウハウを完結させたいのでご容赦いただきたい。

注5:オンラインセッションの場合、プレイヤーも含めてひとり一冊ルールブックがある、という環境が一般的である。もちろん、オンライン上でフリーのルールが読めるタイトルもあるし、『異界戦記カオスフレア』のようにサマリーとサンプルキャラクターが公開されており、サンプルで遊ぶ分にはプレイヤーがルールブック非所持で遊べることを想定したゲームもある。ただし、最終的にはGMの裁定に従うこと。

注6:ARX-014。『機動戦士ガンダムUC』に登場。連邦軍が接収したドーベン・ウルフをベースにアナハイムのグラナダ工場が改修した試作機。開発チームはオーガスタ研究所出身者ということらしいのだが、元々自分とこが開発したガンダムMk-Vが流出した機体であるドーベン・ウルフの改修をジオン系バリバリのアナハイムグラナダ工場にやらされた彼らの心情やいかに。

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