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TRPGガイダンス:ドラマと情報収集

 今回の記事では、ゲームの中枢をなす情報収集が、どのような形でドラマを実現するかについて、またどのようにして情報収集を無味乾燥にしないかについて触れる。

■なぜ情報収集ルールがあるのか?

 しばしば、情報収集判定があることによってゲームが無味乾燥になる、という感想を抱く人がいる。

 筆者が知る限りにおいては98年頃に『トーキョーN◎VA』で情報収集周りが整備されたころから、続いている不満である。

 無論、当時に比べて情報収集周りのルールや記述は大きな進歩を遂げた。遊び続けてくれた皆さんのおかげだ。ありがとう。だが、そうした感想は(当時よりもはるかに少ないとはいえ)存在している。

 そこで、改めて「なぜ情報収集判定が無味乾燥に感じられるか、なぜドラマチックではないと思えるか」について、正面から向き合っていくことにしよう。

 もちろん読者のほとんどは、そのような不満など抱いていないことだろう。が、多様な意見や感想に向き合うことは、あなたのセッションを必ずや豊かにするはずであると信じて、この記事を書く。

●自販機シナリオ

 情報収集判定によって情報が得られ、得られた情報によってPCが行動を決定し、それによってシナリオが解決される。

 これを、「ダイスを振って達成値を出せば、自動的に情報が得られる無味乾燥なものだ」と、「自販機」「ベルトコンベア」などと揶揄する表現が見られる。いやいや自販機はありがたいものだよ、と缶コーヒーを飲みながら筆者などは考えるわけだが、そこは話の主題ではない。

 なぜ、このような感想が生まれるのだろう?

 ここで、あるシナリオの類型を考えてみることにしよう。

①ヒロインが誘拐され、PCたちはヒロインの捜索を開始する

②情報収集判定(難易度10)を行い、PCのひとりが成功する。ヒロインが埋め立て地の廃工場にいるとわかった

③PCたち、廃工場に突入しBOSSと戦い、ヒロインを救出する

 まず最初に書いておくことがある。

 このシナリオでも、十分に面白いのだ、ということは踏まえておいていただきたい。

 筆者が初心者相手のインストとして二時間程度の体験卓をプレイする場合は、だいたいこの程度のイベント量である(廃工場の入り口に地雷くらい仕掛けておくかもしれないが)。

 お試し卓だとこれくらいしか入らないし、これで大変に楽しいのである。

 では、ここにどのような不満が生まれるのだろうか。

 このシナリオを、情報収集判定を使わずに記述してみる。情報収集のプロセスをプレイヤーの提案とGMの応答で行うので、流れは一例である。

①ヒロインが誘拐される

②PC①、ヒロインの家を訪ね、動機を聞く。家族に心当たりはない

③PC②、ヒロインの足取りを追い、誘拐された現場を突き止める

④PC③、誘拐現場を調査するため警察に要請する

⑤PC④、警察と協力して誘拐現場を調査。歩行戦車の足跡を発見し、機種を特定

⑥PC⑤、特定した機種と足跡から〈ネフィリム社〉のデータベースを使用し、逃走経路の割り出しを行う

⑦PC①、割り出された逃走経路から廃工場を特定。偵察を行い、内部の敵戦力および配置を確認。〈宿命管理局〉に戦力の展開を要請

⑧PCたち、廃工場に突入しBOSSと戦い、ヒロインを救出する

 おおむねこのようなことになるのではないだろうか。

 もちろんこれはテキパキやっている場合の話で、実際にはプレイヤーはどうしたものか、と相談したり、見当違いの場所に出かけたりするのである。

 大事なことだが、これはこれで大変に楽しいプレイスタイルである。別に情報収集ルールを使わなければならないわけではないので、完全に使わないスタイルでやってみるのも、実に楽しいものである。

 閑話休題。

 「無味乾燥だ」と感じてしまう人の多くは、この②~⑦の手続きを大事にしたい人である。

 判定だけで処理するのではなく、プロセスの中で自分が考えて行動し、そのインタラクティブな反応が得られるのが楽しいのだ。

 だから、②~⑦の例とは違い、「いやいや、僕は〈ネオTOKYO〉にコネクションがあるから〈ネオTOKYO〉に行くね」「自分なら〈VF団〉の線から洗うな」と考えるのは大変に楽しいものであり、それを「情報収集判定に成功したので過程がよくわからないまま結果だけが得られた」とすることに、不満を抱くのである。

 そうしたプレイヤーたちにとって、推理やNPCとの交渉がTRPGの醍醐味なのだ。

●その必要性

 そこまでわかっているなら、なぜ情報収集判定があるのか?

 これは言うまでもなく、利便性の問題である。架空世界の社会を理解するのは、たとえそれが現実世界ベースだったとしても複雑にすぎるし、主観の相違が大きい。

 先ほどの例ではすらすらとセッションが進んでいるように見えるが、これは筆者が単にSFミリタリーを延々書いているから出てくるだけの話だ。

 無論、つきあいの長いプレイヤーとGMの場合、「だいたいこのGMならこんなものだろう」というのが暗黙のうちに共有されており、問題にならないことも多い。

 だが、その暗黙の共有がずれた結果、何をすれば情報が集まるのかまるでわからず手詰まりになる、ということは多いに発生し、それを解決するために、「何らかの判定を行って、その判定の成否に演出を行う」というプレイテクニックが編み出され、やがてルール化された……というのが情報収集判定の流れだ(現在でも、情報収集判定を持たないTRPGをプレイする上手いGMはたいてい、「とりあえず判定してみよう」というワザを使う)。

 なんならこういってもいい。

 すべての情報収集判定は〈目星〉と〈図書館〉と〈アイデア〉の遠い子孫なのだ。

 PCはプロの冒険者であっても、プレイヤーはそうではない。

 新型〈歩行戦車〉についてどこに行けば正確な情報が得られるのか、髭小人族の七人の長老のうちで誰が真の権力を握っているのか、どのようにすれば警察の秘匿データにアクセスできるのか、知っているプレイヤーはそう多くはないだろう。そうした、「PCは知っているがプレイヤーは知らないノウハウ」を、判定という形にまるめこんであるわけだ。

 つまりこれが歴史上の必然だ。複雑な諜報戦を戦うには、ルールの補助がいる。それに、あるルールを使わないことはできるが、ないルールを創造するのはとても大変なことだからね!

●ではどうすればいいのか?

 情報収集判定“だけで”情報が得られてしまうことによる味気なさをカバーするもっとも簡単な方法は、すべてを伝えてしまわないことだ。

 つまり、PCが必要としている情報そのものではなく、情報を得られる場所の情報を与えるのだ。

 ・目撃者の所在
・必要な情報を記した書物などの在処
・情報を有しているNPCの居場所
・事件の発生した現場

 このあたりが代表的ではないだろうか。

 たとえば、【ヒロイン誘拐事件】について情報収集判定を行った結果、「誘拐されたと思われる場所」「目撃者の住所」「ヒロインの家の場所」の3つが判明し、プレイヤーたちはどこに行ってもよい、というマスタリングである。

 それぞれの場所では、PCたちは判定や交渉を行い、情報を引き出さなければならない。時として、PCたちが分散して行動しなければならないこともあるだろう。

 先ほども述べたが、情報収集判定が存在しているのは、複雑な諜報活動の中でプレイヤーが何をしていいかわからなくならないための道標だ。つまり、判定の結果としてPCに選択肢が示されるのなら、結論がすべて見える必要はない。

 もちろん、情報収集判定で得られた情報はメタ的なものなので裏が取れているが、ロールプレイを通して出てきた情報が裏が取れていないので不安だとして、こうした処理を嫌うプレイヤーもいる。そうしたプレイヤーには、GMが「この情報は判定を通して得られたものなのでシナリオ上は真実だよ」とぶっちゃけてしまって構わないだろう。

▼行為判定と組み合わせる

 一般行為判定と組み合わせることで、情報収集の没入度はさらに高めることができる。

 PCたちは情報収集の結果、ヒロインが誘拐された現場を特定することに成功した。

 現場に向かったPCたちは、【技術】判定に成功した結果、〈宿命管理局〉の保有する最新型の探知装置を用い、警察が見落としていた〈歩行戦車〉の痕跡を発見し、それを手がかりにさらなる情報収集判定を行う……という具合だ。



 つまり、
①情報収集判定による目標の絞り込み
②絞り込んだ目標にPCたちが赴き、シーンが発生する
③シーン内でPCが判定(もしくはロールプレイや戦闘)を行い、必要な情報を得る
④その情報を元にさらに①が発生
 というサイクルを用いることで、さほどの手間なく、情報収集にさらなる没入度を与えることができるはずだ。

●トリガーイベント

 もうひとつの方法は、情報収集判定の結果、ある情報を手にいれたことをトリガーにして発生するシーンを仕込んでおくことである。

 たとえば、【ヒロインの誘拐】について調査し、「ヒロインが廃工場に〈VF団〉によって拉致された」ことを知ったとする。

 次のシーンで、PC①のところに脅迫電話がかかってくる。「あんた、余計なことに興味を持っているらしいな。この件から手を引け」もちろんPCはノーというだろう。すると電話はこう続く。「なるほどな。あんたはタフなヤツだ。二時間後、●●埠頭に来い。こなければヒロインがどうなるかについては想像にお任せするぜ」

 かくして、我らのヒーローたちは廃工場に向かう前に、●●埠頭へと赴く。そこにはもちろん、〈VF団〉が待ち構えており、PCたちに最後の警告を行う。そして、警告を聞かなかったPCたちに怪ロボットで襲撃を仕掛けてくるのだ。まずはこの遭遇を切り抜けなければならない!

 だが、切り抜けることで、PCたちは相手の捕虜を得ることができる。さあ、今度は捕虜から必要な情報を聞き出す時間だ。彼らの企みはなんなのか? そもそも何者なのか?

 聞き出した情報をさらに調査するためには、さらなる情報収集判定が必要になるだろう……。

 このように、情報収集判定の結果を受けて、即座に判定が発生する流れにしてしまえば、情報収集の作業感を大きく減じることができる。どの情報からオープンにするべきなのか? オープンにした情報は何をもたらすのか?

 そうしたインタラクティブ性を追加することで、物語はさらにエキサイティングなものになるだろう! 自分たちの行動に世界が応答してくれる感覚が、TRPGの醍醐味なのだから。

●項目にないことでも調べられるか?

 プレイヤーは、GMの(そして遺憾ながらシナリオライターの)予想の上をいくことについてはまったく天才的な存在だ。

 プレイヤーたちが、当初GMが考えていたのとは別のことに興味を持ち、「ところでGMこれについて調べられるかな」と聞くのは、まったく珍しいことではない。

 これは、歓迎すべきことである。なぜならプレイヤーたちが真面目に物語に取り組み、その世界に没入している証拠だからだ。

 その場合、GMは慌てず騒がず、「その情報なら難易度●●で調べられるよ」と言うか、「それについて調べたが、現在のところめぼしい手がかりはないようだった」と答えるとよいだろう。前者の回答が帰ってきた場合、プレイヤーの側は「あっここアドリブだな」というのはあまり気にせず(少なくとも指摘せず)、ほがからにシナリオを進めていくといい。

 「それについては調べられない」と言うのは簡単だが、その言い方は没入感を削ぐ。「調べる」行動はPCには可能なはずだからだ。

 「調べたがダメだった」と言われたほうが、ロールプレイはブレないものだ。もちろん、プレイヤーがこだわりすぎた場合は、「この情報はこのシナリオではもう出ない」とぶっちゃけてもいい。だが、とにかく、「調べられない」とは言わないほうがいい。表現の問題だ。わかるだろう?

 その結果、シナリオに記述されていなかった情報が次々と増え、本来の方向性とまるで違うことになってしまう場合もあるだろう! 心配ご無用! 君は大仰な動作でシナリオを投げ捨てて、「盛り上がってきたぞ! よしここからは臨機応変に行こう!」と叫んでもいいし、ニヤリと笑って「なるほど、そうなったんだね。では次のシーンだ」と冒険を続けても構わない。

 大切なことは、ゲームマスターが慌てないことだ。

●判定のお仕着せ感

 今ひとつ、プレイヤーが情報収集判定に不満を抱くのは、「結局のところこのダイスロールはただの儀式で、我々はGMがその気になるまでの間、クライマックスフェイズまで、ひたすらGMの話を聞かされるだけなのではないか」と思った時である。

 あなたがうまくやっているならそんなことはもちろんないわけだが、とはいえ、常に情報収集判定の成功率が100%だったなら、プレイヤーたちがその判定に意味を見いだせなくなったとしても無理からぬことである。

 判定をお仕着せの茶番にしないためには、先に述べたようなテクニックはもちろん、成功や失敗に意味を持たせることも大事である。

 たとえば、あと半日しか作戦の時間がない状況で、誰かが一度判定するごとに二時間が経過するとしたらどうだろうか。とりあえず振ってみてダメなら成功するまでやろう、とはならないはずである。

 また、ファンブルにより強力なペナルティを持たせることもできる。敵にPC側の動きが漏れたり、時間が余計に経過したりするのだ。

 難易度にメリハリをつけるのもよい。PC側がリソースを突っ込まない限り、なかなかクリアできない難易度を設定するのである。

 情報は出さなければならないが、常に情報を与えてやる必要もない。冒険の難易度にメリハリをつけることで、あなたは「口を開けたヒナに情報を流し込んでいる」状態から解放されるはずだ。

●見通しと予定調和

 今ひとつ、これは厳密には情報収集に限った話ではないのだが、ドラマがベルトコンベアの予定調和のように見えてしまう理由を解説しよう。

 それは、ゲームの見通しである。

 多くのセッションはセッショントレーラーで大筋が解説され、ハンドアウトで人間関係が提示される。そして、情報収集ルールによって整理された形で情報が与えられる。その結果としてプレイヤーはこの先に何が起きるかを混乱せず受け入れることができ、スムーズにセッションが進む。

 まさに良いことずくめであり、もちろん有効だから採用されているシステムなのであるが、とはいえ、見通しが良すぎることによって、物語の予想がつきすぎる、という問題がしばしば発生する。

 たとえば、このようなものだ。

■セッショントレーラー
 美酒町に、同じ日にふたりの転校生がやってきた。ひとりは少女、天才的な頭脳と人を寄せ付けぬ美貌を持つ緑子さなえ。いまひとりは、彼女を護衛するよう〈宿命管理局〉より命じられたエージェント。つまりキミたちのPCだ。
 PCの態度を怪しむさなえだが、ひょんなきっかけからPCたちと仲良くなる。そんなある日、彼女は自分の秘密を打ち明けようとする。しかし、まさにその日、彼女は誘拐されてしまったのだ――

 どうであろうか。

 だいたいどういうシナリオかイメージ出来たのではないか。そして、これで「じゃあ彼女の居場所を調べるよ」と言って調べて結果がわかったら、あまりにも単純すぎるのではあるまいか。

 もちろん、前述したような2~4時間程度のシナリオならばそれで十分楽しい。だが、それ以上に長いのであれば、確かに物語が単純すぎる。

 長めのシナリオでメリハリをつけるには、セッショントレーラーとハンドアウトで提示された物語を半分だけ裏切るのが肝要だ。

 裏切るといっても、嘘をついてはいけない。一切嘘をつかず、ひとつ予想外の展開を加えるのだ。たとえば、ヒロインは確かに狙われている。そして誘拐されたのは事実だ。

 だが、誘拐した犯人と、元々ヒロインを狙っていた連中が違ったら? PCたちは廃工場に突入し、たむろしていたヤクザをたたきのめし、そして〈VF団〉に誘拐されたヒロインと、震え上がるヤクザたちを発見するのだ。

 予想は裏切り、期待を裏切らないのが大事だ。突然無関係な宇宙人がヒロインを拉致するようなことはすべきではない。一ひねりするのであって、別の話が始まってはいけない。

 意外な展開は1~2回でよい。情報収集で得られた結果で事件が解決できると見せて、実はもう一度事件が展開し、そこから今一度情報収集がある、という構造にするだけで、物語は驚くほど予定調和に感じられなくなるものだ。よいTRPGを!

●あとがき

 今回で『フルメタル・パニック! RPG』をリライトした原稿は最後となる。更新頻度は落ちるが、今後も同様の記事をアップして行きたいと思っているので、皆様のご声援を期待したい。

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