見出し画像

TRPGガイダンス:ハンドアウトの書き方(1)

 公開シナリオを書くときにしばしば頭を悩ませるもの……それが「選ばなくてもいいPC枠のハンドアウト」である。たとえば3~5人のシナリオであれば、PC④とPC⑤は「選ばなくてもいい枠」ということになる。

 あなたが遊ぶ人数を決め打ちにしているのなら、この話は読み飛ばしてくれていい。あなたが「このシナリオは1人専用だ」「このシナリオは4人必要だ」と決めているなら、この話はすかっと忘れていい(注1)。

■いなくてもいいキャラクター

 「雑草などという草はない」とかつて葉隠覚悟(注2)は語ったし、まあそうだよなあ、どんなPCも大事だ、ということにしておきたいわけだが、実際問題として、「選ばなくてもいい枠」に、「必須の枠」と同等の当事者性を与えることは難しい。

 実例を見てみよう。

 このシナリオは3~4人用であるものとする(注3)。つまり、PC④は「選ばなくてもいい枠」ということになる。

PC①用ハンドアウト
コネクション:桜  関係:家族
クィックスタート:流浪の剣客 コンストラクション:剣客
 キミにかつて剣技を授けてくれた江戸は日暮里の剣道場、三枝道場。そこのひとり娘である桜はキミにとって妹(あるいは姉)のような存在だ。ある日、キミに桜から手紙が届いた。三枝道場が危機にあるというのだ。道場といえば故郷も同然。キミはさっそく、三枝道場へと向かうことにした。
PC②用ハンドアウト
コネクション:
高尾太夫  関係:幼子
クィックスタート:人界の守護者 コンストラクション:神霊
 キミは吉原の小さな社に祭られている神だ。高尾太夫はそんなキミを厚く信仰してくれている花魁である。ある日、太夫が深刻そうに祈るには、彼女の見世に代々伝えられていた妖刀“籠釣瓶村正”が盗まれてしまったのだという。どうやら妖異の仕業であるようだ。キミは調査に乗り出した。
PC③用ハンドアウト
コネクション:
骸源九郎  関係:仇敵
クィックスタート:紅蓮の武者 コンストラクション:いくさ人
 キミは戦国の世からこの江戸にタイムスリップしてきたいくさ人だ。流浪の身であるキミは、金田文之進という貧乏旗本の家に世話になっていた。キミが頼まれて酒を買いに出たある夜、金田の屋敷は妖異に襲撃を受け、皆殺しにされてしまう。敵の頭目の名は骸源九郎。この恨みは必ず晴らす。
PC④用ハンドアウト
コネクション:
ロアン・メイソン  関係:友情
クィックスタート:蘭学の探究者 コンストラクション:蘭学者
 旧友であるオランダ人であるロアン・メイソンが、カピタンの江戸参府に合わせて訪ねてきたのは少し前のことだ。キミは彼と大いに最新の蘭学について語り合った。だが、昨日のこと。メイソンはキミに『ネクロノミコン』と書かれた本を託し、そして天からの雷で即死した。これは調査せねばなるまい。

 整理してみよう。

 PC①:三枝道場を救う
 PC②:籠釣瓶村正を追う
 PC③:骸源九郎を殺す
 PC④:ネクロノミコンの謎を追う

 全員の情報が均等になり、それぞれに当事者性がある。

 4人限定のシナリオならこれでいい。

 だが、問題はPC④がいなかった場合である――そう、シナリオのキーアイテムである『ネクロノミコン』と、それを持っていた蘭学者、ロアン・メイソンにアプローチする手段がなくなってしまうのだ。

 もちろん熟練したGMなら、なんとかしてPC①~③をロアンと『ネクロノミコン』につなぎ合わせることは難しくない。だがまあ、公開するシナリオである以上そこの手間は減らしておきたいものだ。

 つまり、PC④が「いてもいなくてもいい」ようにしたいわけである。

 これでどうだろうか。


PC④用ハンドアウト
コネクション:
新門の辰五郎  関係:くされ縁
クィックスタート:蘭学の探究者 コンストラクション:蘭学者
 キミは江戸で暮らす貧乏な蘭学者だ。南町奉行・鳥居耀蔵の蘭学弾圧によって職を追われたキミはすっかりフテくされ、働きもせずに物乞いをして暮らしている。友人の辰五郎からもクズと呼ばれているがいっこう気にしない。まあ江戸がどうなろうといいではないか。他のPCなど知ったことではない。

 どうもこうもない。

 もちろんこれは極端なハンドアウトをあえて書いたわけだが、このハンドアウトは二重にまずい。
 

①そもそも選びたくない
 当事者性が薄いことと、魅力的でないことは違う。

 ハンドアウトはGMからのオファーであり、これからのシナリオについてワクワクさせる想像をさせるためのものだ。(注4)

 であれば、「いてもいなくてもいい」からといって「どうでもいい」「魅力的でない」枠にしてもしょうがないのである。

 いるからには意味がなければならない。選んで嬉しくなければならない。これは大前提である。

②いくらなんでも話に関係がない
 「いてもいなくてもいい」と言ったが、これではそもそもどうシナリオに絡むのか見当がつかない。

 いやもしかしたら、導入で驚天動地の出来事が起きてこのボンクラが大事件に巻き込まれる話なのかもしれないが、それならそうとハンドアウトに書いておかなければならない。

 どういう風にストーリーに絡んでいくのかイメージできなければ、プレイヤーはキャラクターの人格を構築出来ないからだ!

●ではどう対処するか

 というわけでこれではまずい。

①いなくても話が成立する
②しかし彼には物語が確固として存在し魅力的である
③その物語はメインストーリーに関連している

 最低この3点を目指さなければならない(注5)といえるだろう。

 では、その3点を満たすハンドアウトの書き方のパターンを例示してみよう。もちろん、この例示に囚われなくても、3点さえ満たせれば何を書いてもいいことは言うまでもない。

▼NPCの依頼を受ける

PC④用ハンドアウト
コネクション:鳥居耀蔵  関係:憎悪
クィックスタート:蘭学の探究者 コンストラクション:蘭学者
 キミは南町奉行・鳥居耀蔵に飼われている犬だ。蘭学者の大弾圧である“蛮社の獄”によってキミの学友や師匠たちの多くは獄につながれたが、キミは家族のため鳥居に魂を売ったのだ。今日もキミに鳥居から密命が下される。吉原に出現した妖異を追え、というのだ――。

 NPCの依頼を受けて事件に関わるのはもっともわかりやすい。

 依頼人そのものはオープニングにだけ登場すればよいが、ルールブックのNPCを用いることで、「オフィシャルの世界と繋がっている」感覚を容易に与えられるし、プレイヤーに「自分だけの物語だ」という実感を持たせられる。

 このハンドアウトでは、実のところ「吉原の妖異を追う」以上の目的は渡していない(PC②のハンドアウトにつながるわけだ)が、PC④自身は鳥居耀蔵と自分の過去のドラマを演じることができるし、それだけでドラマチックに遊ぶことができるだろう。

▼組織に所属する

PC④用ハンドアウト
コネクション:
御前さま  関係:忠誠
クィックスタート:降魔の鬼神 コンストラクション:鬼神衆 
 キミは鬼神衆、はるか昔からこの日本を妖異から守ってきた人ならざる忍の一族だ。今日も鬼神衆の長である“御前さま”からキミに密命が下される。大坂の地で鬼神衆3人を葬った妖異・骸源九郎が江戸に現れたというのだ。これ以上源九郎の跳梁を許してはおけぬ。キミは急ぎ、江戸に向かった。

 “NPCの依頼を受ける”のバリアントである。

 PCは何らかの組織に所属しており、その組織の一員として事件に関わる。こうした枠では、PCはその組織を代表してセッションに登場する。彼の物語は、“オフィシャルな世界設定の中に存在する組織の代弁者”として機能するわけだ。

 これもまた、手軽に没入感を与えることができるよい手法である。

▼超人度を上げてみる

PC④用ハンドアウト
コネクション:
地蔵菩薩  関係:くされ縁
クィックスタート:まつろわぬ鬼 コンストラクション:
 キミは鬼――闇に潜み人血を啜る妖異の一族だ。天下を放浪するキミは、今日も富士の暴れ龍を打ち倒し、その肉を喰らっているところ。そこに現れたのは地獄の管理者、地蔵菩薩その人だった。ヤツはキミに、江戸に現れた骸源九郎という鬼と戦え、という。退屈凌ぎには悪くなさそうだ。

 突然ムチャクチャにリアリティレベルの低い、超人度の高いキャラクターにしてしまうのである。

 言ってることは「依頼人が骸源九郎を倒してくれ」と言っているだけなのだが、依頼人が地蔵菩薩、依頼を受ける場所が富士の裾野で龍を殺しているところ、というホラで、「なんかPC④はすごいやつだぞ」という持ち上げ方をし、存分にプレイヤーに超人演出をしてもらうことで、当事者性が低くても問題にならない、いやむしろ当事者性が高かったら許されないだろう、という方向に持って行くワザだ。

▼金で釣る

PC④用ハンドアウト
コネクション:
新門の辰五郎  関係:友情
クィックスタート:蘭学の探究者 コンストラクション:指定なし
 キミは江戸の長屋で貧乏暮らしをしているしがない町人だ。キミには長患いで寝込んでいる家族(関係は自由にせよ)がいる。長崎渡りの薬があれば治してやれるがそんな金はない。そんな時、友人の辰五郎が儲け話を持ってきた。盗まれた妖刀・籠釣瓶を取り戻せば、百両もらえるというのだ!

 金はほとんどあらゆるTRPG世界で(注6)キャラクターの動機として機能する。金を手にいれるために事件に関わる、というのは、NPCや組織と結びつけられなくてもとにかく有用だ。

 とにかく事件に飛び込ませてしまえばなんとかなるし、事件を解決することが金になるのなら、当事者性はある意味では担保されているといえる。

 先ほどの超人とは逆で、リアリティレベルを上げることで当事者性を担保し、没入しやすくするアプローチだ。また、PCにドラマチックな背景やNPCとの縁が強くつくことを好まないプレイヤーに対しても適している。

▼バディにしてしまう

PC④用ハンドアウト
コネクション:
PC②  関係:忠誠
クィックスタート:おぼろの君 コンストラクション:妖怪 
 キミは吉原の稲荷明神に住み着いたお使い狐だ。普段は花魁や客をからかって日々を楽しく過ごしているキミにも使命がある。吉原の社を守護する神、PC②に仕えることだ。偉大な神は世間知らずで、キミのサポートを必要としている。今日もどうやら、新しい事件のようだ。

 他のPCの弟子、師匠、部下、同僚、上司、相棒、恋人、家族などにしてしまうのである。

 当事者性は相方のPCが確保してくれるし、事件に関わるモチベーションや登場人物を増やさなくてすむ。

 この時重要なのは、「どうでもいい相棒」にしないことである。関係性に関わるような面白いフックを用意したり、ふたりで事件に挑むことの意味を強調しておくと楽しく遊ぶことができるはずだ。

▼NPCの別側面を掘り下げてみる

PC④用ハンドアウト
コネクション:
骸源九郎  関係:友情
クィックスタート:まつろわぬ鬼 コンストラクション:
 キミは鬼――闇に潜み人血を啜る妖異の一族だ。そんなキミが人間の味方をしているのは、さて、何故なのだろうか? 少なくとも、旧友だった骸源九郎はそうは思わなかったようだ。そして源九郎が江戸の地に現れた。再会した彼にはかつての面影はない。そろそろ殺してやるのが慈悲であるようだ。

 メインキャラクターのサブエピソードを語る枠である。

 PC①~③の視点からは、骸源九郎は邪悪な鬼であり、それを滅ぼすことでシナリオが終わる。しかし、PC④だけはかつて彼が友だった頃のことを覚えており、一抹の哀しみ、あるいは友情のようなものを覚えている、とする。

 こうすることで、余計な登場人物を増やすことなく別の当事者性を加味することができる。

 あるキャラクターからは見えなくても、別のキャラクターから見えてくるNPCの深掘り、という形にすることで、当事者性を増やすことができるのだ。

▼被害者を増やす

PC④用ハンドアウト
コネクション:
骸源九郎  関係:仇敵
クィックスタート:蘭学の探究者 コンストラクション:指定なし
 二年前、キミのささやかな幸福は終わりを告げた。キミの祝言の席を、鬼が襲ったのだ。鬼は骸源九郎と名乗り、キミの配偶者の血をキミの眼前で啜って見せた。ヤツがキミを生かしたのは、ただ嬲るため、苦しめるためだ。ヤツを殺すため、キミは人としての幸せを捨てた。そしてついにこの江戸で、ヤツの痕跡を見いだしたのだ。

 別側面の掘り下げのよりソリッドな形である。BOSSキャラクター、あるいはそれに準じる仇敵の被害者を単に増やし、その被害者の縁者とするのである。

 この手法は、当事者性の高いキャラクターを不自然でなく増やせ、かつそのキャラクターが登場しなかった時のシナリオの変更が最小限で済むというメリットがある。赤穂浪士は何人いてもいいのだ。

 ただし、増やしすぎると誰がその仇にとどめを刺すか、といういわゆるトロフィー問題が発生することがある。筆者の私見だが、2名に留めておくとよい。また、「現在の被害者」と「過去の被害者」のように時期を分けておくと、ロールプレイの傾向がかぶらなくてすむ。

▼とにかく面白い出オチ

PC④用ハンドアウト
コネクション:
桜  関係:幼子
クィックスタート:天下のご老公 コンストラクション:天下人
 あなたは気ままな諸国漫遊の旅をしている天下人、水戸のちりめん問屋と名乗っておりますが実は天下の副将軍でございます。今日は江戸の外れにやって参りますと、小さな街道場が騒がしい様子。そこの桜という少女に話を聞いてみますと、どうやら、妖異によって苦しめられている様子。これはいけません。ひとつ、こらしめてやらなければならないでしょう。

 見ての通りである。

 実のところ、何ひとつ当事者性はない。

 ただの『水戸黄門漫遊記』である。それ以上でも以下でもない。そしてこれは時代劇TRPGなので、もはやそれでいい。なぜならこのハンドアウトを選んだプレイヤーは水戸黄門(あるいはそれに類いするやつしものの時代劇)をやりたくてたまらないはずなので、この導入でやりたいことができればそれでいいのだ。

 あとはこのプレイヤーが「お困りですかな」とPC①と桜に話しかけ、情報収集のたびに「私もちょっと調べてみましょう」と助さん角さんを動員し(そういう特技があるのだ)、クライマックスフェイズになれば印籠を取り出して「これにて一件落着」と言い出せばよいのである。

 まるでこのシナリオが彼のために回っているように見えるが、実はこの水戸黄門、完全にゲストで、何ひとつ他のPCのドラマのような当事者性を持っていない。

 ただひたすら、プレイヤーのやりたいことをオープニングとエンディングでやらせる――それだけでも導入は成立する。

 このもっとも有名なパターンが、『ナイトウィザード』のロンギヌス枠であろう。

 世界の守護者である少女アンゼロットに呼び出されたこの「最強の魔術師」枠は、毎度毎度「はいかイエスで答えてください」というお決まりのギャグを言われては、事件に放り出されていく。よく見ると当事者性などないに等しいのだが、アンゼロットとこのギャグをやる、というのが『ナイトウィザード』でやりたいこと、なので成立するのである。

 特にベテランのプレイヤーにはおすすめだ。「この枠は当事者性はないけどその分面白い導入で投げっぱなしなので」と言ってしまっていい――彼らは勝手に面白く演出するだろう。あなたは、PC①やPC②の演出に専念できるというわけだ。

■おわりに

 繰り返すが、“雑草という草はない”。

 すべてのハンドアウトにプレイする魅力的な理由をつけることができれば、あなたのシナリオはかならず面白くなるはずだ。


 よいTRPGを!


注1:もちろんセッションハンドアウトを使わない、あるいはハンドアウトの意味合いが『異界戦記カオスフレア』や『天下繚乱』とは違うTRPGを遊んでいる場合も読み飛ばしていい。
 その上で、PC枠の範囲内で「この枠にそこまで強烈な当事者性を与えたくない」「しかしながら一定の当事者性は担保したい」ということはあるわけで、そうした場合の参考くらいにはなると思われる。他山の石としていただければ幸いである。

注2:『覚悟のススメ(山口貴由/秋田書店)』。もし未読ならまず先にこっちを読んで欲しい。それはともかく、このセリフ自体のさらなる元ネタは昭和天皇である。

注3:とかいいつつ、実際にプレイ当日になったらプレイヤーが6人いたり、3人どころか2人しかいなかったりすることもある。そういう時はとりあえずシナリオを改造するか、さもなければ別のシナリオをやろう。

注4:ついでにいえば、近日発売の『天下繚乱RPG』の宣伝でもある。掲載されているシナリオはもちろんどれも面白いので是非遊んでいただきたい。
 なお、本稿の用語などは開発中のものであり、製品では予告なく変更される可能性がある。

注5:他の要素を満たせるならジャンジャン満たすべきだが、とりあえずややこしくなるのでこの3つを最低限のものとして進める。

注6:PCの所持金を抽象的に管理するTRPGでも、金という概念が存在しないことは珍しい。導入として「金がもらえる」はそうしたRPGでも機能する。ただし、「金を得てパワーアップだ」という方向にはなりづらいので、例示のように家族のためなどで金が必要だ、という切迫した雰囲気を出すとやりやすい。

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?