TRPGガイダンス:褒める

 TRPGにはコツが無数にある。そのコツの中でも、間違いなく有益なものがある。それは、一緒に遊んでいる相手を褒める(注1)ことだ。

 称賛することには、大きく分けてふたつのポジティブな効用がある。

 ひとつは、場が盛り上がることである。自分のやっていることを褒められて嬉しくない人間はまずいない。そして、今遊んでいるゲームが、ただの自己満足ではなく、一緒に遊んでいる人間を喜ばせているのだという実感は、場を盛り上げる。

 次に、自分が何をよいと思っているかを周囲にスムーズに伝えることができることだ。あなたが褒めていることは、つまりあなたにとって心地の良いことなのだから、「この人はこういうことをして欲しいのだな」と暗黙のうちに伝達できる。これは大きなメリットだ。

 今回の記事では、よりスマートな褒め方を目指してガイダンスを行なう。あなたのゲームライフがより豊かになれば幸いである。

(ところで、今回から試験的に課金記事/ただし無課金ですべて読めるにしてみました。どうでしょう)

●的確に褒める

 褒める時に何を褒めるべきか。まず言うまでもないが、あなたが嬉しいことを褒めるべきである。

 よいプレイングでもいいし、大ダメージや支援特技などの使用でもよい。ロールプレイを褒めてもいいし、飲み物を取ってくれたことを褒めたっていいのだ。

 長々と褒める必要はない。「ありがとう」「いいね」「格好いい」程度でもいいし、アイコンタクトで微笑んだり、小さく拍手するのでも構わない。

 重要なのは、わざとらしくならないこと、プレイを阻害しないことである。アフタープレイで「ほかのプレイヤーを助けた」にチェックを入れるときに褒める、という手もある。

●アシストを褒める

 派手な活躍(わかりやすいのはダメージやロマンス、長ゼリフ)は褒められやすいが、渋い行動や支援行動はどうしても褒められにくい傾向にある。

 意識的にそうしたプレイを褒めるようにすると、あなたの周囲からの評価は上がることだろう。意識して損はない。

●GMを褒める


 GMはプレイヤーであるあなたを楽しませてくれる最大の功労者である。プレイヤーより負担が大きいのだから、そう言い切ってしまってよいだろう。

 プレイヤーはGMをなるべく意識的に褒めるとよい。

 単にGMしてくれたことについてはもちろん、上手くやられてくれる敵役や可愛いヒロイン、シナリオのギミックなど、GMが気を配ってくれた点については、折りに触れてポジティブな感想を返すとよい。

 無能で間の抜けたNPCやポンコツなザコキャラを出しているGMの頭が悪いわけではなく、あなたたちに負けてくれているのだ、ということを忘れないことだ。GMは敵ではない。敵を嘲笑する時に、楽しませてくれるGMへの称賛を惜しまないようにしよう。

 最低でも、セッションが終わった後に、「今日のセッション(注2)は面白かった。GMしてくれてありがとう」と言うこと。当たり前のことだが、これだけで全然違う。

●GMが褒める

 同様に、GMはプレイヤーを褒めるべきである。

 しばしば、「人を褒めると甘やかすことになるから、褒めるべきではない」と主張する人がいる。

 完全に間違いである。

 TRPGは趣味である。精神修行をやってるわけでもなければ、海兵隊の訓練でもない。

 褒めて悪いことは何もない。楽しくて悪いことは何もない。

 また、“上達”(定義が難しいが)の妨げになるというのも誤りである。他人と楽しく遊ぶホビーなのだから、他人の楽しさを伝えられることで、的確なプレイテクニックを身につけることができるのである。

 何より、人を的確に褒められるゲーマーは、間違いなく「上手い」のである。その場にいる人間を楽しく盛り上げられ、テクニックを伝えられるのだから。

■具体的なフレーズ

 そう言われてもどう褒めていいかわからない、何を発話していいかわからない……という人もいるだろう。筆者がよく使うフレーズをまとめてみた。

・「面白い!」
 いつでも使用できる。あらゆることに使える。ロールプレイ、シナリオのアイデア、冴えたPCのデータ組み、変なダイス目。

 ただし、判定の失敗について使う場合は、「落ち込まなくていいよ。そのプレイを私は迷惑に思っていないし、ゲームのうちとして楽しんでいる」というニュアンスを加味するとよい。「笑いものにしている」と思われても損だからだ。


・「●●してくれてありがとう」
 具体的に何に対して感謝しているのか、がミソだ。落とした筆記具を拾ってもらったことでも、適切なタイミングでカバーアップや回復をもらったことでもよい。

 お礼を言うだけでもいいが、対象があったほうがぐっと締まる。データ的に強力な行動宣言でも褒めにいけるので(例:「すごいダメージソースだ! ありがとう!」)、活用幅が広い。

・「それは思いつかなかった! すごい!」

 冴えたアイデア、GMの裏をかいた行動、やたらと強いPC……驚いた時に、とにかく大げさに驚き、そして「すごい」とつけよう。思いつかなかった、という事実を強調してから褒めると、多少あなたの対応がその後まごついても、相手のうまくやった感が強調されてゲームが盛り下がらないのでおすすめだ。

 特にあなたがGMの場合「やられたなあ! なんてクールな行動なんだ! いやすごい。ちょっと考える時間をください」と繋ぐことで、破綻しかかったシナリオを修復したり、敵の崩壊したプランを練り直すことができる(プレイヤーが「GMがオタついている」ではなく「我々はうまくやったのだ」と思ってくれているほうが、卓が安定する)


・「いいなあ、今度真似しよう」

 面白いロールプレイやPCのアイデアに。素敵なアイデアを真似するのは悪いことではない。素直にうらやましがってもいい。言われたほうはたいてい機嫌がよい。

・「さすが! GMに協力的だ!」

 イヤミではない。GMに協力的で素直に言うことを聞く人は、「冴えたアイデアを出して裏をかく人」より褒められにくい。なので、GMに協力的なこと、たとえばサンプルキャラを使ってキャラメイクをスムーズにしたり、ハンドアウトを素直に受け取ったり、セッションを円滑に進めてくれる人は素敵だ! 褒めよう!

・「そのNPCいいなあ!」

 GMのロールプレイに。憎い敵、可愛いヒロイン、間抜けな三枚目、単に強いエネミー。そうしたものを用意してくれたGMは惜しみなく褒めよう。

・「今日は楽しかったよ! ありがとう、みんなのおかげだ!」

 最後はこれでしめよう! 今日は楽しかった、ということを確認しあうことで、その日の思い出は素敵なものになる! 綺麗に終わろう!

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■称賛を返す

 ひとつだけ覚えておいて欲しいのは、あなたがそういう人に褒められて嬉しくなった時、あなたもその人を褒めて欲しい、ということである。

 褒める人の回りに、褒められて嬉しい人が集まり、最終的に褒める人が「自分は褒められない」「依存されている」と感じて場を離れる、という事故を筆者は散見している。

 褒められたら、「ありがとうございます」と返し、ちゃんとその人の良いところを見つけて褒めること。きっとそれが、あなたの人間関係を円滑にしてくれるはずだ。

■そこまでしなくてもいいのでは?

 さて、ここまで読んだところで、あなたはこう思ったかもしれない。

「なんだかここまで言語化されると、打算的に褒めてるようで嫌だなあ」

 まあ、そうなのである。

 褒めることをガイダンスにわざわざすると、どうしてもそうなってしまう。筆者も「面白かったら褒めよう」で止めておきたい部分はある。

 が、それでもガイダンスを書くのは、筆者がこのテクニックを有効なものだと思っているからだ。

 何より大切なことは、「別に面白くないことを褒めなくていい」ということである。不平を口にすべきかどうかはタイミングによる(注3)が、別にあなたにとって面白くもないことにおべっかを使う必要はない。

 あくまで大事なのは、「面白いと感じた気持ちを伝える」「伝えることであなたも褒められる」というキャッチボールである。

 それでも「褒められること、自分が得をするのを目的にして褒めるのは利己的でよくないことだ」とあなたは考えてしまうかもしれない。それはもちろんひとつの立派な考え方だ(注4)。

 そう考えてしまう場合は、「他の人に喜んでもらうのはいいことだ」「褒めることによって、他の人がよいプレイをしたときに褒められやすくなり、場が盛り上がるのはいいことだ」と、あくまで利他に徹した考え方をするとよい。

 その上で、あなたがそう考えることは大変貴いことだ、と私は考えるが、それはまた別のことであろう。


■あなたから始めよう

 最後に。

 あなたの周囲に誰も褒める習慣がない場合、あなたは「自分が褒めてもらえないのにこっちから褒めるのは損だなあ」と考えるかもしれない。

 そう考えてしまうのはしょうがない。人間にはそういう部分がある(考えない読者の方も多いだろうが)。

 だが、その場合でも、自分から勇気を持って褒めることで、場はかならず盛り上がるし、賑やかになる。これは本当だ。

注1:他者を褒めることがシステムに組み込まれているTRPGも多い。筆者が関わったものだと、『異界戦記カオスフレア Second Chapter』、『天使大戦エンゼルギアTRPG』『天羅WAR』などがそれに当たる。

 こうしたTRPGは、いわゆるチットを投げることによって、スピーディに他のプレイヤーやGMを褒めることができる(カオスフレアのように観客が褒めるシステムが搭載されているTRPGも多い)。

 どうやって褒めたらいいのかな、と思っている方は、この中で一番手にいれやすい『異界戦記カオスフレア』から初めて見るのもよろしかろうと思う(宣伝)

注2:“セッション”と言うのには訳がある。シナリオはGMが作ったとは限らないからだ。だが、今回のセッションの楽しさはGMの運営によるものだから、そこを褒めておこう。もちろん、シナリオライター=GMの場合は、シナリオを褒めた上で、セッションハンドリングも褒めておくとよい。

注3:セッション後に指摘すればよいことも、とりあえず流したほうがよいことも、その場で制止するしかないこともある。ケースバイケースである。これについては別項で触れたい。

注4:もちろん「いや、是非褒められたいし褒めたい」というのも立派な考え方だ。このふたつは、どちらが上だ下だというものではない。

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