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未成年者のためのTRPGガイド

この記事は、あなたが13才より年上だろうと考えて書かれています。

もしあなたが、まだ小学生なら、この記事をまわりの大人の人に読んでもらって、わからないところを説明してもらうとよいかもしれません。

あなたが成人しているなら、あなたが未成年者と遊ぶ場合のガイダンスとして機能することを想定して書きました。何かのお役に立てばと思います。

■とても大切なこと

 まず最初に。
 私は小学5年生でTRPGの存在を知り、それがどこで売っているかわからなかったので友達を相手に自作して遊んでいました。
 最初に販売されているTRPGに出あったのは中学1年生の時で、それから30年以上、同じ気持ちで(そして驚くべきことに同じメンバーで)遊び続けています。
 そして今、TRPGのデザイナーとしてみなさんに話しかけています。
 TRPGは、大人でも子供でも楽しく遊ぶことができます。
 世界中でたくさんの未成年者が友達や家族と一緒にTRPGをプレイしています。
 ですから、TRPGをみなさんが遊ぶのは、とてもよいことだと思っています。ぜひ遊んでください。
 この話は終わりです。

 ……そういうわけにもいきません。

■まわりから見たTRPG

 TRPGというのは、はっきり言ってしまえば、ぶっそうなことばかり言う遊びです。
 あなたがキーパーならもちろん、プレイヤーであったとしても、
「向こうを歩いている警官は〈深きもの〉だろうから、棍棒で後頭部をカチ割るよ」
「いあ! よぐ=そとーす! 我が前の生贄を受け取り、この赤子の心臓より流れ出る血によりて復活したまえ!」
「オーク鬼の砦に火を付けて、逃げるやつは片っ端から矢で射殺そう」
「私のキャラクターは破壊神シヴァを信仰しているから、天空の果てにある雷鳴の槍カイラス=ギリを呼び出すことができる。この力があれば、さらわれたヒロインを救い出すことができるはずだ!」

 などというセリフを日常的に口にしているはずです。
 少なくともぼくは、これに類いすることを3分に1回、いやもしかしたら30秒に1回くらい口走っています。
 なぜならこれはゲームだからです!
 ゲームの中で、剣や、魔法や、神々の力や、モビルスーツや、まあとにかくそういうものを振るうのはとても楽しいことですし、間違ったことだとも思いません。
 わたしたちは、TRPGの架空の冒険の中で、間違ったことに立ち向かう勇気や、誰かを助ける気高さを学び、学校や家庭でのストレスを思うさま発散することができるからです。
 TRPGの楽しみは、野球や、サッカーや、料理や、映画や、プラモデルや、まあ上げているとキリがありませんが、他のたくさんの趣味の楽しさと同じことなのです。

 ですが。
 問題は、あなたのご家族がそんな会話を聞いてしまったらどう思うか、あるいは学校でプレイしているなら他のクラスメートや先生はどう思うのか、ということにあります。
 あなたがカルト宗教にかぶれてしまったり、何やら犯罪をたくらんでいると考えても、そうおかしなことではないでしょう。
 心配されてしまうのも当然です。
 


●TRPGを隠さない

 大切なことは、TRPGを遊んでいることそのものを隠さないことです。
 あなたは何も悪いことをしているわけではないのですから――学校の課題をやっている限りにおいて――まわりの人にちゃんと説明したほうがよいでしょう。
 これはあなたが自卓でオンラインセッションをボイスチャットで遊んでいる場合、とくに重要なことになります。あなたは何時間もの間、“不穏な会話”を家族に漏れ聞こえるようにすることになるからです。
 もちろんそれは、家族にTRPGのルールブックを読ませろ、という意味ではありません。これくらいの説明でよいでしょう。

「●時から●時まで、TRPGという遊びをします。これはネットを通して遊ぶボードゲームや『ドラクエ』のようなもので、ボイスチャット(あるいはチャット)を通じて行ないます。多少うるさくするかもしれません。うるさかったら、音量を絞ります。ゲームの中で、殺すとか魔物とか邪神とかいう単語が出てきますが、これはゲームの中に登場するお話の言葉で、実際にそんなものを信じているわけではありません。ルールブックはお小ずかいで買いましたが(あるいはネット上で無料配布されているものをダウンロードしましたが)、プレイそのものに課金要素はありません」

 大事なことは、ウソをつかないことです。
 ご家族が心配することは「変な友達ではないか」「お金を取られはしないか」「カルト教団ではないか」「学校の勉強がおろそかにならないか」の4つに絞られると思います。
 最後についてはどうか頑張ってくださいとしか言えませんが、ほかの3つは大丈夫です。
 ですから、ちゃんとご家族に「これは遊びで、何も危険はない」「現実とフィクションの区別は付いている」「約束した時間になったらおしまいにする」ことを説明して、それを守るようにしてください。
 公民館や学校の部室などで遊ぶ場合は、「これは遊びである」「サイコロやカードを使うが賭け事ではない」「セリフを口にするが演劇のようなものである」ということを説明するとよいでしょう。
 もしあなたのプレイグループに成人しているメンバーがいるなら、その人の連絡先をご家族に(そのメンバーの許可を得て)伝えておいてもよいでしょう。
▼TRPGを知っていた
 TRPGには50年近い歴史があります。
 ですから、あなたのご家族、親御さんやことによればお爺さんお婆さんがTRPGを知っていたとしても驚くことではありません。
 その場合は、「昔のTRPGは対面でしかプレイできなかったが、インターネットの進化でオンラインでも遊べるようになった」「対面でのプレイと同じように楽しいし、昔のタイトルも変わらずに遊ばれている」ことを説明するとよいでしょう。
 なんでしたら、ご家族をセッションに誘ってみる手もあるかもしれません。お父さんの操る伝説のエルフ、お母さんが20年前から愛用しているオーヴァードと出逢うのも楽しいものです。

●それでも反対されたら

 何がご家族にとってネガティブなことなのかを確認してみましょう。
 あなたが長時間ボイスチャットをすることが問題なら、チャットではダメでしょうか。
 あなたが不穏な会話をすることが心配なら、そういうものではないのだ、と話すか、なるべく「●●するよ」という形の非演劇的なロールプレイを心がける形ではどうでしょうか。
 あなたが見知らぬ大人と遊んでいることが問題なのであれば、学校の友達を誘って遊ぶ、という形をとってみてはどうでしょうか。
 あなたがTRPGにハマって学校の成績が落ちていることが問題なら――ええと、頑張ってください。他に言えることは何もありません。

 ご家庭の事情はそれぞれにあると思いますが、まずは一度話し合うのがよいでしょう。そして本当にあなたの家がそれを許す環境にないのなら――TRPGは逃げません。あなたが独立してからでも、TRPGは遊べます。わたしたちは、あなたを待っています。

●プレイする仲間と話そう


 あなたがオンラインセッションに参加している場合、あなたが未成年者であること、家族と同居していることを話すのはとても大事なことです。
 大学生や社会人なら深夜まで延々と遊ぶこともできますが、あなたはそうはいかないこともあるでしょう。また、あなたが扱うにはどぎついテーマを扱われても困ることもあるでしょう。
 ですから、自分が未成年で家族と同居しており、プレイ時間などに制限があるのだ、と話しておくのは大切なことです。



■未成年者向けではないテーマ

 TRPGのセッションには、セックスや、とても残虐な暴力、現実の戦争や差別といった、未成年者が扱うには適当ではないテーマが含まれることがあります。
 そうしたセッションでは、キーパー(GM)が「このシナリオは18禁だよ」と宣言していることもあるでしょう。システムによっては、システムそのものが成人向けと書かれていることがあります。
 あなたがそうしたセッションに興味があるのはわかります――私は中学生のとき大変興味がありました。しかし、そういうテーブルに年齢を偽って参加するのはよくないことです。やめておきましょう。大丈夫です。大人になれば飽きるほどやれます。
 どんなものかは、大人になったときの楽しみにしておいてください。

●よくない大人について


 それはそれとして、世の中にはよくない大人がいます。
 ゲーマーなら、オタクなら大丈夫だ、というのはウソです。
 TRPGを通して、マルチまがい商法や、カルト宗教や、詐欺に引き込もうとする大人は存在します。
 変なことを言ってあなたからお金を取ろうとしたり、個人情報を抜き取ろうとしたり、ふたりで会おうとしてくる大人には注意してください。オンラインの輪を通じて友達ができるのはとても素敵なことですが、ネットで知り合った他者とうっかり会うことはあなたを犯罪に巻き込む危険性があります。どうしても会いたい場合は、ゲームイベントなどの第三者がいる場所で会うようにするとよいでしょう。
 学校の先生や保護者の方に耳にタコができるほど言われていると思いますが、これはとても大切なことです。
 まずいと思ったら、すぐに逃げてください。

■あとがき~いいわけ~


 ところで、普段のぼくの記事は、もっと漢字が多くて、むずかしい言い回しが多いものです。
 これは、みなさんが読むのを考えていないわけではありません。
 ぼくが子供のころ、ぼくは難しくて漢字がたくさんあって、本気で読者のために書かれている文章がとても好きでした。
 だから、普段はみなさんが小学生でも、きっと読んでくれるはずだ、と思ってああいう文章を書いています。
 ですが今回の文章は、なるべく誰にでもわかる必要があると思いました。
 ですから、漢字をすくなめにして、言い方もやさしいものにしています。
 みなさんをばかにしているわけではないのです。
 そこのところを、書いておきたく思いました。

 いつかみなさんと遊べることを、心から楽しみにしています。

■加筆~保護者の方へ~

 もしこの文章をお読みのあなたが、「TRPGという得体の知れないものに子供がハマってしまった」ことに不安をお持ちの保護者の方である場合のために。

 ご不安はわかります。TRPGにはMMO(ネットで遊ぶコンピュータRPGです)のように、絶対的な管理者はいません。元々ボードゲームから発展したものですから、数人の集まりという形を取らざるを得ないのです。

 それをオンラインでプレイするようになった今、TRPGがどのように遊ばれているか、どのようなコミュニティであるか、ということは、作り手である私たちにもわからなくなりつつあります。

 もちろん、プレイングマナーについての啓発活動は行なっていますし、目に余る事例への声かけも極力行なっているつもりではありますが、氷山の一角であることを認めざるを得ません。

 ですが、僕がそうだったように、多くの未成年者のユーザーにとって、TRPGは学校や、地域や、家庭や、自分の身体的な性から解き放たれて、自分らしくいられる場所です。

 これは、“逃避”ではありません。彼らは物語の世界に旅立つことによって、現実の世界に対して立ち向かう勇気を得ているのです。学校や社会で傷ついた心を癒やすことができるのです。

 これを読んでいる未成年者のあなたは「いやそんなつもりは別になくて毎日楽しくやってるよ」と思われるかもしれません。それはとても素晴らしいことなので、ここでは他の友達のことなのだな、と思って聞き流してください。

 お子さんが遊んでいるのは、『ドラクエ』や『FF』、あるいは『人生ゲーム』同様の無害なホビーです。そのホビーを提供している私たちは、お子さんが私たちの作ったTRPGを選んでくれたことを誇りに思っていますし、大切にしたいと思っています。

 他のゲームがそうであるように、お子さんとご家庭の間でどのように“ゲーム”に取り組むかはそれぞれだと思いますが、どうかなるべくお子さんの自主性を尊重した上で、お互いに納得のいく形を選んでいただければと思います。

 ですから、お子さんが「邪神が」「正気度が」「狂気が」「世界を裏から操る秘密結社が」と熱っぽく話していたとしても、それは私たちが子供のころ、スーパーマリオやウルトラマンについて親に熱弁していたのと同じようなものなのだ、と笑って受けとめてくださると幸いです。それらはすべてフィクションで、実在しません。大丈夫です。

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