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4/10「ハナミズキ」 花言葉:私の思いを受け入れて


「ハナミズキ」




花言葉:私の思いを受け入れて




「恋をしてから、世界が薔薇色だよ」
そう言って、遼(りょう)は照れ臭そうに微笑む。
ある日の放課後、いつものように遼との帰り道。
君の顔が薄紅色をしているのは、世界が一日の終わりへ向かう時刻だからか、それとも。
「それはそれは、うらやましいことですねぇ」
「うらやましいって言うくらいなら、瑞稀(みずき)も早いとこ好きな人見つければいいのに」
「そんな簡単なことじゃないでしょ」
私は君に微笑み返す。
うらやましい、といったのは本心だ。
でも、それは君に対してじゃない。
君に想いを向けてもらえる人のことだ。
「えぇ~? なんか少しでも気になる人とかいないの?」
君の姿が眩しく見えるのは、君の頭の向こうに落ちていく夕日が輝いているからか、それとも。
「・・・・・・いるよ」
「えっ、嘘!? マジで!? 初めて聞いた!」
しまった。余計なことを言ってしまった。
「だって、初めて言ったから」
「水臭いなぁ、長い付き合いなのに。それで、その相手ってだ」
「言わない」
「まだ言い終わってないのに・・・」
私は顔を見られないように少しだけ、ほんの少しだけ歩くのを早くする。
歩くのを早くしたことを、顔を見られたくないことを悟られないように。
「いいじゃんかよ~、瑞稀は俺の好きな人知ってるのに、不公平だ~」
私の小細工は、遼なんかには必要なかったかもしれない。
遼が私の気持ちに気付かないことは、今に始まったことじゃない。
「遼が『相談に乗ってくれ!』って自分から勝手に言ってきたんでしょ」
あの日、私がどれだけ辛くて、苦しかったか。
世界が薔薇色? そんなわけない。
私の世界は、私の恋はずっと重苦しい濃紺だ。
ちょうど太陽のある君とは反対側の、私の上にある空の色みたいに。
「ほら、俺も相談に乗るからさ! 教えてくれよ!」
遼の、そういう鈍いところが嫌いだ。
「・・・そういうしつこいとこ、直さないとあの子に嫌われちゃうわよ」
「えぇ!? それは困る。わかった、気をつけるよ」
遼の、そういう単純なところが嫌いだ。
「うぅ~、でも気になる・・・。けど、いつでも言ってくれよ! 全力で応援するから!」
「・・・っ!」
遼の、そういう優しいところが、


「遼のことだよ」


「え?」
「遼だよ。私の気になる人」
「・・・そ、それってどういう」
目が四方八方へと泳いでいる。やっぱり、気付いていないんだろう。
遼は、鈍いから。
私は鼻から一息吐くと、目をつむって言う。
「あの子への恋心を、毎日毎日幼馴染に垂れ流してるばかりで、この先大丈夫かどうか気になるの」
「・・・あ、あぁ~、そういうことか! びっくりした~!」
遼は、単純だから。今私が言ったこともそのまま信じるのだろう。そして、
「大切な幼馴染にあまり心配かけないように頑張るよ!」
遼は、優しいから。
「あの子と、うまくいくといいね」
だから、たとえ君の想いが私に向いていなくても。
私の想いが受け入れられることなど、この先ないのだとしても。
「うん! ありがとう!」
君を諦めることもできず、君を欲しがることさえできず、この想いはずっと続いていくのだろう。
もしも、私の願いが叶うなら。
願わくば、私がこの先も君の想いを邪魔することなく、耐え続けることができますように。
そして、君が、君の好きな人と幸せな時間を送れますように。



別の花言葉:永続性、逆境にも耐える愛






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