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研修医に伝えたいこと〜救急外来を生き抜く〜⑤「ERで鑑別疾患に困ったら考えたいIE・TB」

今回はレッドフラッグサイン集番外編です。
テーマは「ERで鑑別疾患に困ったら」。
今回は多彩な症状を呈して、ERでも鑑別疾患には必ず入れておきたい2疾患
・感染性心内膜炎(IE)
・結核(TB)

を疑うポイントについてまとめていきます。

<注意>
本noteはあくまでERで鑑別疾患で困った時のまとめです。
一般内科外来、総合内科病棟で必要な考え方はあえてここでは触れていないことがございますので、何卒ご了承ください。
もし本noteでお気づきのことがありましたが、ぜひご教示をお願いいたします。


感染性心内膜炎(IE)

リスク因子(問診で聞いておこう!)

侵入門戸菌血症のリスク因子
例)歯科処置(抜歯)や口腔内衛生不良、デバイス留置(血管カテーテル検査後、中心静脈カテーテル留置、人工透析、ペースメーカー、ICD)、手術、皮膚バリア機能破綻(外傷、熱傷、アトピー性皮膚炎)など

心臓疾患心内膜炎のリスク因子
例)弁膜症、先天性心疾患、人工弁置換後感染性心内膜炎の既往など

(出典:参考文献1より引用・改変)
特に、人工弁置換後や感染性心内膜炎の既往がある人の発熱では、IEの可能性は高いと考えるべきです。


症状(多彩!⇨病態で分けて理解せよ!)

IEの症状は多彩です。ですが、以下の病態で考えると理解しやすくなります(出典:参考文献2, 3より引用・改変)。
注意!)多くの本で3つの病態に分けて解説されていますが、こちらでは理解しやすいように、あえて4つに分けて書いています

感染症
⇨発熱、菌血症 
疣贅による弁破壊
⇨心雑音、心不全
塞栓症
⇨脳梗塞、肺塞栓、腎梗塞、脾梗塞などの塞栓所見、Janeway病変(塞栓によるため無痛性)、眼瞼結膜点状出血、爪下線上出血
全身の免疫反応
⇨Osler結節(免疫複合体によるため有痛性)、脾腫、糸球体腎炎など


診断基準(病態に基づいて理解せよ!)

IEの診断基準はDuke Criteriaが有名です。それも2023年5月に、23年ぶりにアップデートされたばかりです(出典:参考文献4)。

アップデートされましたが、IEの診断において大事なことは、
<大基準>
⭐️菌血症の証明⇨まずは血液培養3セット以上(前述の①の病態の証明)
⭐️心内膜障害の証明⇨まずは心エコー(前述の②の病態の証明)
に変わりありません。

さらにそこに、
<小基準>
⭐️血管病変(播種病巣)がある(前述の③の病態の証明)
⭐️免疫学的異常がある(前述の④の病態の証明)
を組み合わせることで、IEの診断に迫ることができます。


IEを疑うポイント、やるべきこと

IEの患者で最も多い主訴は、発熱です。
そのため、前述の病態で①発熱+②心不全や、①発熱+③塞栓症に当てはまるときが、ERでIEを積極的に疑うべき時です

例えば、ERでは脳梗塞を疑って頭部MRIを撮像したり、熱源検索目的に全身造影CTが撮像されることが多いと思います。
発熱患者で上記画像検査で脳梗塞、肺塞栓、腎梗塞、脾梗塞など塞栓所見がある⇨血管病変(播種病巣)がある場合、IEを積極的に疑いましょう。
特に上記リスク因子に当てはまるのであれば、より強く、IEが疑われます。

IEを疑ったらやることは下記の二つが鉄則です。
⭐️菌血症の証明⇨まずは血液培養3セット以上(前述の①の病態の証明)
⭐️心内膜障害の証明⇨まずは心エコー(前述の②の病態の証明)

IEの可能性が高いならば、原則入院の上抗菌薬静注による治療が検討されます。IEの治療経験が豊富な循環器内科や感染症科にコンサルトしましょう。


結核(TB)

TBを疑うヒント(問診で聞いておこう!)

遷延する咳嗽(※3~8週間で遷延性咳嗽、8週間以上は慢性咳嗽)
長引く発熱
原因不明の体重減少(食欲は保たれる)
繰り返す肺炎通常の抗菌薬で治らない肺炎
結核高蔓延国出身 例)フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、中国、ミャンマーなど
免疫不全背景あり

(出典:参考文献5, 6, 7)
結核の有病率は、日本でも地域によって様々かと思います。
地域毎の有病率も意識しながら、問診で疑いがある人を抽出する必要があります。


症状(これまた多彩!)

TBには特徴的な臨床像がないということを、肝に銘じておく必要があります(出典:参考文献7)。その症状は非常に多彩です。

・肺結核⇨遷延する呼吸器症状で疑う
・リンパ節結核⇨全身性のリンパ節腫脹で疑う
・結核性胸膜炎・膿胸⇨胸水貯留で疑う
・結核性心膜炎⇨心嚢液貯留で疑う
・結核性髄膜炎⇨髄膜炎を疑った時点で、抗酸菌培養も
・腸結核、結核性腹膜炎⇨腹痛、腹水貯留などで疑う
・骨・関節結核⇨腰痛・関節痛などで疑う
・泌尿器・生殖器結核⇨尿路症状・無菌性膿尿などで疑う
・副腎結核⇨低Na血症などで疑う

本当に、TBは「なんでもありの疾患」ということがわかります。


TBを疑うポイント、やるべきこと

前述の通り、TBは呼吸器症状以外にも、肺外病変で多彩な症状を示すことがあります。
⭐️出身国や接触歴などの結核曝露歴の聴取を行う
⭐️多彩な症状を一元的に説明できるものとして結核を疑う
が非常に重要です。

結核曝露歴があり、なんらかの症状がある患者は、個室隔離して三連痰や血液培養などの検体提出をしましょう
(出典:参考文献5, 7)
可能な限りの検体を採取しておくことが、結核菌の検出頻度を高めます。

<最低限提出すべき検体>
喀痰塗沫検査(通称・三連痰:8〜24時間あけての3回連続での塗沫検査)
まずは自己排痰での検体提出にトライ。ダメなら3%食塩水ネブライザー吸引誘発で。それでもダメなら早朝胃液か気管支肺胞洗浄液の提出を検討しましょう。隔離解除のためにも重要な検査です。
血液培養
特に、多臓器にまたがる多彩な症状を呈している場合は、粟粒結核を想定する必要があります。オーダーする際には「抗酸菌培養」と検査室に伝えるようにしましょう。
・症状のある臓器特異的な検体(尿、便、髄液、腹水など)


最低限これだけは!(ER setting)

発熱に加えて、以下のいずれかがある
・人工弁置換後ないしIEの既往がある
心不全
塞栓症(特に脳梗塞、肺塞栓、腎梗塞、脾梗塞など
IEを疑って血液培養3セットと心エコーを

結核曝露歴ありに加えて、以下の症状のいずれかがある
・遷延する呼吸器症状
多臓器にまたがる多彩な病態
患者を個室隔離して三連痰・血液培養などの検体提出を!


最後に

今回は、あくまでER settingにおいて、鑑別疾患に困ったときに考えるべきことについてまとめました。
IEも、TBも、症状が多彩かつcriticalなので、ERでの鑑別疾患にぜひ入れておきたい疾患です。
特にTBは、感染管理上の問題もあるので、疑ったら病歴聴取をしっかりと行いましょう。
そのため、3週間以上発熱が持続し、1週間の入院精査しても原因不明の発熱である「不明熱」については、あえて言及していません
しかしながらIE、TBともに不明熱で考えるべき疾患ツートップでもあると思うので、この機会にぜひ勉強してみてください。


参考文献
<感染性心内膜炎パート>
1)石井義洋「卒後15年目総合内科医の診断術」3 入院診療編 Case 4「 不明熱①感染性心内膜炎」 p.695-702
2)塩尻俊明,杉田陽一郎「内科診療ことはじめ」第1章 感染症パート 6 「感染性心内膜炎」p.34-35
3)青木眞「レジデントのための感染症診療マニュアル第4版」第10章 血管内感染症 A 「感染性心内膜炎」p. 685-p.704
4)Vance G Fowler, et al. The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria, Clinical Infectious Diseases, Volume 77, Issue 8, 15 October 2023, Page 1222, https://doi.org/10.1093/cid/ciad510

<結核パート>
5)塩尻俊明,杉田陽一郎「内科診療ことはじめ」 第1章 感染症パート 17 「結核」p.86-87
6)内村和広「結核の統計2023を読む」 https://jata.or.jp/rit/rj/412-03.pdf
7)青木眞「レジデントのための感染症診療マニュアル第4版」重要な微生物とその臨床像 D 「潜在性結核と活動性結核」p.1179-1207


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