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「機械仕掛けの太陽」が照らし出す、医療現場のリアル

とにかく、読んでいて辛い。
なぜなら活字が描く医療現場の風景は、私が仕事で見る風景そのものだったから・・・。

物語は大学病院に勤務するシングルマザーの呼吸器内科医、同じ病院に勤務する20代の女性看護師、引退間近の70代の町医者の3人の視点で語られていく。
それぞれの医療現場で、それぞれの思いで、COVID-19と闘う医療従事者たちの群像劇である。

COVID-19、通称コロナは2019年の野生株に始まり、α(アルファ)、δ(デルタ)、そしてο(オミクロン)へ・・・。
それぞれのフェーズごとに医療従事者がどうCOVID-19と向き合ってきたか、淡々と紡がれていく。これはもはや小説ではなく、医療ノンフィクションである。

コロナ治療の最前線にあたってきた、埼玉医科大学総合医療センター教授の岡秀昭先生に取材されたこと、何より医師本人である知念実希人先生が筆を執ったことで、これまでにないほどリアルな医療描写が実現した。

医療従事者が置かれていた環境、
取り巻く人間関係、
そして渦巻く感情、葛藤・・・。
その内容はコロナ診療に携わった医療従事者なら痛いほど共感できるものばかりだ。だからこそ、厳しい日常が活字の中にまで延長しているように思えて、辛いのだ。

この2年半もの間、私たちの生活の背後には常にコロナが付き纏っていた。
日常生活はもちろん世界情勢も、もはやコロナの影響なくしては語れない。
2019年から2020年春、野生株流行の時は、未知の敵との戦いという緊張と不安。
とにかく恐れるしかなかった。
2020年夏から、α株の時はwithコロナを目指しての試行錯誤の時。
まさに波の如く、感染者数が増えて慎重になり、感染者数が減ると気が緩み、それでまた感染者数が増え・・・の繰り返し。
2021年、δ株の時は重症化しやすくなったという苦境に対して、ワクチンという希望が訪れた。ワクチンとて絶対ではないが、重症化リスクの高いδ株流行でも、重症患者数の増加を抑えることができたのは間違いない。その結果、withコロナの中でも日常を取り戻せる部分も増えてきた。

そして、2022年、現在の主流はο株。感染力の強さは現場にいると身をもってわかる。現在私のいるところは、全国で最も感染拡大している地域となっている。
発熱と酸素飽和度低下による救急要請が後を立たなくなってきた。
私自身も再びコロナによる医療崩壊に巻き込まれているが、自分のやれることに最善を尽くす日々である。

「機械仕掛けの太陽」を読んで、一番心に残っている言葉。
「コロナ病棟に勤めている医者で、ワクチンを打たない方が良いなんて医者は、一人もいない。」(知念実希人「機械仕掛けの太陽」316ページ)

いつか、この「機械仕掛けの太陽」の読んでも、「あの時代はそんな大変なこともあったね」と懐かしむ時が来ることを願っている。
ウイルスと違って人間は、苦境から学び、手を取り合い、成長していくことができるのだから。

#読書の秋2022

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