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「きょうだい」は助け合わないとダメですか? 一緒に考えよう、家族のこと。

40代以降、親の終活や自分の老後も心配なのに、「困った」「厄介な」「頼りにならない」きょうだいの問題がのしかかってきたら・・・・・・?

そんな「ふがいない」きょうだいたちに困っている人たちの実情を取材し、専門家たちの知見とともにレポートした『ふがいないきょうだいに困ってる 「距離を置きたい」「縁を切りたい」家族の悩み』が5月24日に発売されます。

本の取材を進めてみて、著者の吉田潮さんが問題を感じたのが以下の2点です。

1) 「きょうだいは助け合うべき」という思い込み
距離を置きたいきょうだいがいても、世間体や「自分がなんとかしなくては」という責任感に縛られているケースが多かった。特に、“ふがいない兄”に困らされている妹が多く、その背後には「長男は優遇されて当たり前」という家父長制の刷り込みもあった。

2)「家族の恥を表に出さない」傾向
きょうだい間の問題を第三者に相談することなく、家庭内で抱え込んでしまうケースが多かった。身内の恥は身内で、という意識がとても強いように感じられた。

序章より、著者の吉田潮さんの言葉をお届けします。

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私には3歳上の姉がいる。

子供の頃からちょっと変わっていたが、とにかく絵を描くのがうまかった。勉強もできたし、学校の先生からも一目置かれるキャラクターだった。今でも覚えているのが、私が中学校に入学したとき、Tというコワモテの担任から言われた言葉。

「お前が妹か。姉ちゃんは相当面白かったぞ」

え? 面白いってどういうこと? 優等生だったとか人気者だったとかその類(たぐい)の話ではなさそうだが、T先生が姉をほめて認めていることだけはわかった。もしかしたら、似顔絵で漫画を描いたりしていたのかもしれないが、姉の担任でもないのに、何百人もいる生徒の中で姉を覚えているということは、よほど記憶に残ったのだろう。

姉は高校に入ってすぐに海外へ留学したので、お互いが思春期のときに一緒に過ごしていない。その後も姉は20年近くを海外で過ごし、日本に帰ってきたのは今から15年前のことだ。千葉の田舎のログハウスにひとりで住んで、イラストの仕事を始めた。それなりに軌道に乗ったと思っていた。

ところが、一時期収入がなく、積極的に仕事を得ようともせず、ひきこもりのような状態に。初めはログハウスの家賃として親に3万円払っていたが、それも途絶えた。水道光熱費は親が支払っているので、止められることはない。

訪ねた親に聞くと、どうやら一日中パソコンに向かってネットゲームをしているという。ちょうどその頃、姉から連絡がきた。確か「車検代がないからお金を貸してほしい」だったと記憶している。

滅多に弱音を吐かない姉が直談判してきたので、相当困っているのだろうと思い、100万円を貸した。その後も「仕事がない」「国民健康保険と年金が払えない」という話をされて、50万を振り込んだ。そして、姉が乗っていた車がとうとう寿命を迎えたが、買うお金がないと言う。中古車なら80万で買えるというので、出した。

借用書はとらず、「無期限、利子もいらないが、稼いだら返して」と言ったら「必ず返す」と約束した姉。

合計230万を出しているが、姉からは1円も返ってきていない。

別に姉は贅沢三昧をしているわけではない。むしろ、その日食べるものがあればいい、という発想で、食欲以外の欲があまりない。でも、お金に関してはあまりに無計画で無頓着ではないか。才能とセンスはあるのだから、まずは仕事で安定を目指すべきだと説教したのだが、姉はこう言った。

「あんた、あたいのテオになってよ」

テオとは、画家のフィンセント・ファン・ゴッホの弟で、テオドルスのことだ。精神を患った天才画家の兄が絵に専念できるよう、経済的に支援し続けたという。さすがに生活の支援まではできないが、仕事を紹介することはできる。そう思って、編集者と会うたびに、姉のイラストを売り込んだことがあった。ところが、である。姉は気が乗らない仕事は躊躇(ちゅうちょ)なく断った。

は? 生活費にも困っているのに断る!? 金がないと泣きついてきたくせに断る!?

ちょっとよくわからないし、「ふがいない」姉だと思った。

金を返さないこともふがいないが、先々のことを考えようとせず、計画性も貯金もないことがふがいない。才能があるのに、それをお金に変えようとしないこともふがいない。何よりも、生活の基盤を年金暮らしの親に依存していることがふがいないのだ。

父は6年前に特別養護老人ホームに入居した。母は5年前から急に病気がちになり、入院や手術を繰り返している。生活は父の年金のおかげで成立しているし、倹約家の母だからこそうまくやりくりできているが、親が亡くなったらどうするのだろうか。姉がひとりでその生活を維持できるとは思えない。もう、不安しかない。

こうしたふがいないきょうだいにモヤモヤしている人は私だけではないはず。「ふがいない」という言葉がふさわしいかどうかはわからないが、「困った」「厄介な」「頼りにならない」きょうだいに悩んでいる人は、結構いるのではないか。

・自立しておらず、実家の親に依存した生活を送っている
・生活や将来の見通しに危機感がなく、「なんとかなる」と思っている
・お金に困ると親に甘えたり、無心をしてくる


そんなきょうだいに対して、なんとかしてあげたいと思う人もいれば、距離を置くと決めた人もいるだろう。どちらにしてもその心境に至るまでの話を聞けば、共感の先に何かヒントがもらえるような気がした。また、きょうだい間のトラブルや悩みに詳しい専門家の話も聞いて、知識や情報を参考にしたい。それがこの本の始まりである。

ただ、ふがいないと思っている側の人だけに話を聞くので、欠席裁判のようになってしまうのは必至だし、一方的な悪口大会に見える可能性もある。万人が納得のいく有効な対策も、ハッキリ言って、ないと思う。

それでも、家族観やきょうだい観が人それぞれだからこそ、いろいろな考え方や価値観を知って、私のようにモヤモヤしている人が心を整理するきっかけにできれば、と思った。

特に、40代以降は、親が年老いて入院や介護が必要になることもあるし、実家の管理や整理などで面倒臭い手続きや想定外の出費が必要になることもある。家族の老い支度の諸問題が浮上するときに、どんな覚悟をしておくべきか、同じ思いをしている人たちと一緒に探っていきたい。