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観覧車の季節

春はスタートの季節。
住み慣れた街を離れて新たな場所で一歩を踏み出す人もいるのではないでしょうか。
買い立てのカーテンもそうですが、キラキラと輝く真っ白な心は汚れやすく、ちょっとした傷やほつれも、気になって仕方がありません。
そんな時はぜひ、観覧車のことを思い出してください。
華やかな光を放ちながら仁王立ちする姿の裏には、さまざまな物語があります。
そんな兵庫の観覧車のいくつかを、スパイス坊やが紹介します。


再起-モザイク大観覧車(神戸ハーバーランド)

ライトアップされたモザイク大観覧車(2020年10月13日撮影)
1993年7月17日夕刊、AOIA(アオイア)全面開業を伝える記事

~中略~
海辺に面した娯楽施設は、六甲アイランドにもあった。
 「AOIA(アオイア)」
 九一年の開業。広さ十三万五千平方メートル。工夫を凝らしたプールが人気を呼び、震災前(九四年)には年間二百二十万人が訪れた。
 震災で液状化の被害を受けたのを理由に閉鎖。「休園中」のまま、四度目の夏を迎えた。
 六甲ライナーの終点・マリンパーク駅からの連絡通路は途中で切れている。かすかに潮の香りがする、行き止まりの右手に、雑草の生い茂る更地が広がる。
 ここに観覧車があった。日没とともに、華麗なイルミネーションが幻想的な世界へといざなった。
 その観覧車は今、神戸で最も若者を吸い寄せる街、ハーバーランドへ移った。以前と変わらぬ姿で、潮風を浴び、ゆっくりと時を刻む。街の繁栄と、移り気な人々を見下ろしながら。

1998年8月11日朝刊より

ミナト神戸のシンボル的存在「モザイク大観覧車」。
バブル期に計画され、1991年に開業した娯楽施設「AOIA(アオイア)」で、93年に動き始めました。
95年1月、阪神・淡路大震災で被災。
同年12月、現在の神戸ハーバーランドに移設されました。
アオイアでの稼働は、わずか1年半ほど。
移設先での時間が圧倒的に長い観覧車は、珍しいかもしれません。
「モザイク大観覧車」はきょうも、古里・六甲アイランドを遠くに見つめて回り続けています。


余生-ひめじ手柄山遊園(姫路市)

2016年1月11日に運行を終えた「ひめじ手柄山遊園」の観覧車
移設・保存された手柄山遊園の観覧車

 旧姫路市民プール・ひめじ手柄山遊園(姫路市西延末)のシンボルだった観覧車のゴンドラ1台が、手柄山中央公園内にある緑の相談所前に移設された=写真。市民らに親しまれた施設の〝遺産〟として保存され、そばには歴史を紹介する案内板も設置された。
 プールは1974年、遊園は77年に開業し、身近なレジャー施設として人気を集めたが、市が手柄山一帯の再整備を計画。昨年9月、長い歴史にそろって幕を下ろした。閉園時にあった観覧車は88年に設置された2代目で、高さは32メートル。レトロな姿を記憶にとどめる市民は多く、市は「思い出の象徴」としてゴンドラ1台の保存を決めた。
 見学や撮影は自由。安全のため中に入ることはできない。

2021年4月14日朝刊より

姫路市民のオアシス「ひめじ手柄山遊園」。
観覧車はその象徴的存在として、親子2代に渡って1周7分間の非日常を案内してきました。
2代目は88年に動き始め、勤続33年。
サラリーマンで言えば、少し早めの退職ですね。
2020年9月、時代の流れとともに、その役割を終えました。
全国から観光客が集まる派手なテーマパークではありませんでしたが、地元に愛され、立派に勤め上げました。
現在はその功績の一部を公園内に残し、静かに余生を過ごしています。

新天地-赤穂海浜公園(赤穂市)

地域のランドマークとして親しまれた大観覧車
撤去が進み、支柱部分を残すだけになった大観覧車

 1月で営業運転を終えた県立赤穂海浜公園(赤穂市御崎)の大観覧車が、フィリピンの遊園地で再利用されることになった。撤去工事の完了後、高さ50メートル、総重量約180トンの設備一式が同国に出荷される。地域の象徴的存在として約33年間にわたって親しまれた観覧車は海を越え、新天地で家族連れらを楽しませることになる。
 大観覧車は公園内の遊戯施設「わくわくランド」の開業に合わせ、1989年4月に運転が始まった。約12分でゴンドラが1周し、かつて塩田が広がっていた千種川河口や瀬戸内海の島々を一望できた。
 ただ、利用者の減少に加えて年間約1千万円の経費が負担となり、営業を終えることに。運転終了を前に1月前半には6日間の無料開放日が設けられ、利用した約1万5400人が名残を惜しんだ。開設からの通算利用者数は約145万5千人に上った。
 解体・運搬業務を請け負ったシーキュー・アメニック(高松市)が既に大型クレーン車などで撤去を進めており、2月中旬に工事を終える予定。支柱や鉄骨、ゴンドラなど設備一式はコンテナ船でフィリピンに運ばれる。
 同社によると、納入先となるフィリピンの遊園地では同じ規模の観覧車が老朽化したため、中古の観覧車を購入して入れ替えることになったという。担当者は「日本の観覧車は『中古でも安全』と海外でも信頼性が高い。鉄骨なので維持管理を続ければ、50年を超えても持つ。新天地でも活躍してほしい」と話した。同国の遊園地で稼働するのは2023年の見込みだ。

2022年2月9日朝刊より

解体され、海を渡る-。
記事にもあるように、日本製の観覧車は、海外で第二の人生を送るケースがあります。
赤穂海浜公園の大観覧車は22年1月、日本での役目を終えました。
1周およそ12分間。
春の瀬戸内海のように穏やかな時間を、145万人以上に提供してきました。
33年間、時代を超えて海を、街を、人を見守り続けてきました。
そして新たに、自分を必要としてくれる場所へ。
「50年を超えても持つ」丈夫さを武器に、遠くフィリピンで時を刻みます。

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いかがでしたか。
人間も、観覧車も、最後は同じ所へ行きます。
戻りの観覧車が少しさみしいのは、そんな理由かもしれませんね。

〈スパイス坊や〉
2009年入社。神戸市須磨区出身。
人生で初めてのデートめいたものは、地下鉄西神南駅近くにあった遊園地「アリバシティ」でした。男女2対2で遊びましたが、終始どうしたら良いか分からず、楽しめなかった思い出があります。

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