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「朝ドラ」に描かれた兵庫県。舞台やロケ地がこんなにあります。

 NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」が、4月8日で最終回を迎えます。朝ドラ史上初めて3世代のヒロインが登場。初代ヒロイン安子(上白石萌音さん)の岡山編、安子の娘・るい(深津絵里さん)の大阪編、るいの娘・ひなた(川栄李奈さん)の京都編と、ヒロインも舞台も移り変わりながら、100年の物語を展開しました。

 劇中で「兵庫県」が舞台になることはありませんでしたが、ロケ地としては何度か登場していたことをご存じですか?

 岡山編で、安子の幼なじみが活躍する野球シーンでは、洲本市民球場(洲本市)などがロケ地に。大阪編で、るいが後に夫となる錠一郎(オダギリジョーさん)らとドライブに出掛けるシーンは、淡路島の南海岸で撮影され、美しい海岸沿いの道路や砂浜が、重要なシーンを彩りました。

 今回は、早くも「カムカム」ロスになりそうな記者きんぎょばちが、歴代の朝ドラの中から、兵庫県を舞台にした作品、兵庫県内で撮影された作品について紹介します。

「風見鶏」(1977~1978年)

風見鶏の館(神戸市中央区北野町)

 窓を開ければ、そこに風見鶏があった。1977年10月から半年間放送されたNHKの連続テレビ小説「風見鶏」。ヒロインの松浦ぎん役を務めた女優新井晴みは今も、ロケのそのシーンを鮮明に覚えている。
 物語は明治にさかのぼる。主人公ぎんが神戸で下宿するのが、風見鶏の見える北野の異人館だった。ぎんが結婚するドイツ人パン職人には、モデルとなる実在の人物がいた。ハインリヒ・フロインドリーブ。老舗「フロインドリーブ」の創業者の父だ。
 新井は東京の生まれ。女優になるつもりはなかったが、朝ドラの大ファンで、オーディションを受けた。有名な女優も集う中、ぎん役を射止めた。「絶対に、こいつにやらせて良かったと思わせてやる」。パン作りを習い、おぼれた男を助ける場面のために着物のまま泳ぐ練習もした。
 ドラマは大ヒットし、どこへ行っても「ぎんちゃん」と声を掛けられた。心を打たれたのは、手の不自由なファンが足で書いたという手紙。〈毎日ぎんちゃんに励まされています〉。女性の一生を演じて、人の心に強く残る。素晴らしい仕事と思った。「あのとき、女優としてやっていこうと決めた。『風見鶏』は私の人生を変えた」
 放送終了後も旅番組などで神戸を訪れる機会は多い。阪神・淡路大震災の2年後、仮設住宅や教会で、人の世話をする人たちや、子どもの勉強を見る姿を目にした。神戸の人たちの強さが心に染みた。(敬称略)

(2008年12月21日朝刊より)

 40年以上前に放送された「風見鶏」。朝ドラの放送開始後、閑静な住宅街だった北野の異人館街には、観光客が押し寄せたそうです。

「甘辛しゃん」(1997~1998年)

多紀連山の愛染窟(丹波篠山市栗柄)

 灘の酒造りといえば、篠山の丹波杜氏(とうじ)を抜きには語れない。その篠山の農家に生まれ、母の再婚で神戸・灘の酒造家に入り、のちに当主となる女性の半生を描いた「甘辛しゃん」は、篠山から始まり、篠山でラストシーンを迎えた。
 中でも篠山市栗柄の「愛染窟(あいぜんくつ)」は、ヒロイン泉と、血のつながりのない弟で後に淡い恋の相手となる拓也との出会いの場所となった。滴る水をすくってのどを潤し、見詰め合う小学生の2人。その回想シーンは、ドラマの中で繰り返し使われた。
 ロケは市内のほぼ全域で行われたが、愛染窟だけは実名で登場した。修験道の行場であり、愛染明王が奉られている洞穴。「神秘的な雰囲気が、ドラマの幕開けとしてぴったりだったのでしょう」と、ロケの窓口を務めた篠山市職員の穴瀬雅彰さんは語る。
 洞穴のしずくを演出するため、水200リットルを人海戦術で山まで運んだ。手伝ったのは地元の住民。他のロケ地でも、エキストラとして子ども約100人が髪を切って出演した。また、出演者が泥まみれになるシーンでは、近くの住民が風呂を提供するなど、地域ぐるみの協力を惜しまなかった。

(2006年5月12日朝刊より)

 篠山(現・丹波篠山市)と神戸の灘五郷が舞台となった「甘辛しゃん」。作中では、阪神・淡路大震災も描かれます。

 記事に登場する「愛染窟(あいぜんくつ)」は、現・丹波篠山市の多紀連山にあります。多紀連山には市内最高峰の御嶽(793メートル)があり、かつて修験道が栄えた場所。今はクリンソウの群生地としても知られます。ロケ時は、そんな山に地域の人たちが集って撮影に協力したんですね。

「わかば」(2004~2005年)

兵庫県立淡路景観園芸学校(淡路市野島常盤)

 阪神・淡路大震災で父親を失ったヒロイン・高原若葉。神戸を舞台に造園家を目指し、明るくたくましく生きる主人公が、就職、結婚、出産を経験し、夢を実現していく―。NHK朝の連続テレビ小説「わかば」の企画を耳にし、県立淡路景観園芸学校(淡路市野島常盤)の石原憲一郎校長はすぐに行動を開始した。
 「うちには若葉みたいな学生がいっぱいいる。彼女が学校の存在を知らないのはうそになる」
 早速、NHK大阪放送局へ向かった。番組のチーフプロデューサーと面会。ロケ地誘致を直訴したが、当初の反応は良くなかった。次は自ら考えたシナリオを持参し、熱心にプロデューサーを説得した。
 熱意は通じた。番組制作に協力していた神戸市造園協力会からの働きかけもあり、ある日、NHKから正式にロケの申し込みがあった。すでに番組がスタートし2カ月が経過していた。石原校長はその驚きを、昨日のことのように覚えている。
 「最大限の協力をする」との約束通り、学校として学生と修了生らエキストラ百人を集めた。2日間のロケは2005年1月中旬。四季折々の花が咲き、鳥たちが歌うゆったりとした校舎は、一転熱気に包まれた。
 テレビの波及効果は大きかった。同校の2005年度の見学者は前年比3千人増の約2万4千人。園芸、造園の知識が学べる「まちづくりガーデナー本科コース」も、応募者多数で、抽選となった。

(2006年5月5日朝刊より)

 こちらは、阪神・淡路大震災から10年の節目に合わせて放送された「わかば」。ヒロインは震災遺族でした。

 観光客だけでなく、園芸を学びたい生徒まで増えるとは、朝ドラの影響力はすごいですね。ロケを引き寄せた淡路景観園芸学校の熱意にも驚きです。

「べっぴんさん」(2016~2017)

異人館「萌黄の館」(神戸市中央区北野町)での撮影後、庭で会見する(左から)蓮仏美沙子さん、芳根京子さん、谷村美月さん

 NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」のヒロイン坂東すみれは、子ども服メーカー「ファミリア」(神戸市中央区)の創業者の一人、坂野惇子(ばんのあつこ)さんがモデル。芳根京子さん演じるすみれが、戦前から高度成長期にかけ、神戸で子ども服作りに情熱を燃やす姿を描く。神戸や淡路島でロケが行われた。
 ロケを支援した神戸フィルムオフィスによると、放送初期は萌黄の館ジェームス邸神戸大学などで撮影が行われた。年明けからは三宮の「クラブ月世界」や六甲アイランド・神戸ファッションマートの広場が登場。相楽園会館はドラマで社長室、ホテルなどの設定で幾度も映った。
 また、幼少のヒロインが描かれた初期と、最終週に登場した「神戸の高台」は、実は淡路島。淡路島フィルムオフィス(洲本市)によると淡路市佐野の私有地の丘で、CG合成の街並みと実際の海や島影を組み合わせ、昭和20~30年代の神戸の風景が再現された。

(2017年4月2日朝刊より)

 神戸でおなじみの「ファミリア」ゆかりの朝ドラ。神戸市内各地で撮影がありました。また放送中、JR三ノ宮駅構内にある神戸市総合インフォメーションセンターには1日あたり数件、「ロケ地に使われた場所に行きたい」「ファミリアの本社はどこか」などの問い合わせがあったそうです。

 物語の舞台そのものが兵庫県でなくても、「カムカムエヴリバディ」にように、兵庫県がロケ地になった朝ドラもたくさんあります。

▲吹上浜(南あわじ市阿万吹上町)。「まんぷく」(2018~2019年)のオープニング、安藤サクラさん演じるヒロイン福子が海辺を歩くシーンなどが撮影されました。

▲あわじ花さじき(淡路市楠本)。「あさが来た」(2015~2016年)。最終回、波瑠さん演じるヒロインあさたちが、菜の花畑でピクニックするシーンが撮影された。

近年、朝ドラや映画のロケ地として多く採用される淡路島については、淡路フィルムオフィスを取り上げたこちらの記事どうぞ。

▲八徳山八葉寺(姫路市香寺町)。「ごちそうさん」(2013~2014年)で、杏さん演じるヒロインめ以子の少女時代のロケ地です。子役の豊嶋花さんが、お供え物のイチゴを食べるシーンなどが撮影されました。

 昨年20周年となった「姫路フィルムコミッション」についてはこちらの記事をご覧になってください。

 そして朝ドラの次回作「ちむどんどん」は、沖縄出身のヒロインが東京で料理人を目指す物語…だそうですが、兵庫県がロケ地として登場することはあるのでしょうか? 楽しみですね。

<きんぎょばち>2008年入社、大阪市出身。初めて見通した朝ドラは「ふたりっ子」(1996~1997年)でした。近所にある普通の公園がドラマに登場して興奮したのを覚えています。最近では「ごちそうさん」が好き、と思ったけど、もう8年も前の作品だとは…。

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