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初詣客を迎える社寺に「今年の1字」を尋ねてみたら、ありがたい言葉がざくざくと

「正月やから、めでたい紙面つくれへんかな」
「『今年の漢字1字』やりますか?」
「初詣の人に聞くやつやろ。ある意味定番やな」
「それならいいのがありますよ。神社側に聞くんですよ。やったことないでしょ」
「おー、おもろそや」
「どうせなら兵庫にとどまらず、全国の有名神社に聞いてみましょう。とりあえず聞き始めてみますね」
「よっしゃ、やろやろ」
そんな年末のやりとりから生まれたのが新年の紙面です。
深くて、ありがたい言葉が集まりました。

播州人3号です。月に数回、本社の泊まりデスクに入ります。
原稿を出す側の責任者として、どんな記事を載せるのかの調整や原稿のチェック、事件・事故があった場合の取材の指示などを担います。

朝刊の締め切り後も仮眠を挟んで翌日まで本社に詰め、記者とともに事件・事故の対応などに当たるので「泊まりデスク」と呼ばれています。

今年は1月3日に当番が回ってきました。
全国で行動制限のない年末年始となり、久々に集まった家族の会話のきっかになるような話題を提供できないか―。そんなことを考えてました。
「得たりやおう」と面白がってきたのが、同じ3日泊まりのO記者です。

漢字を尋ねる取材はそれほど珍しくはありません。

(2015年1月3日付甘朝刊)

自治体トップに1年を振り返ってもらったり、成人式の会場でスケッチブックに書いてもらったりすることもあります。
ただ、初詣客を迎える側に尋ねるのは聞いたことがありません。
「発想の転換」でした。

まずは社寺選びです。O記者が知名度やエリアのバランスを考えて選び、取材の趣旨を説明します。
繁忙を理由に断られたり、「そもそも何で神戸の新聞社が尋ねるのが」と不審がられることもありました。

快諾してもらった社寺も多く、まずは全国版をデジタル配信します。
元日の昼すぎ、電子版「神戸新聞NEXT」で配信した記事です。

初詣客迎える社寺の願いは?
漢字1字に込める今年の展望
全国の人気スポットに聞く

家内安全に商売繁盛、学業成就…。参拝客が、新年の抱負を神仏に託す初詣。では、願いを受ける当の寺社側は、どのような1年を望んでいるのだろうか。北は北海道から南は九州まで、多くの人でにぎわう全国の人気スポットに、漢字1字に思いを込めて2023年の展望を語ってもらった。

■「明」
 134段を駆け上がる1月2日の「騎馬参拝」で有名な北海道の函館八幡宮。川見順春宮司は、コロナ禍が「明」けて、みんな笑顔で「明」るい1年を過ごせるように-との願望を込めた。
 昨夏以降、函館を訪れる観光客は徐々に戻りつつあるそうだが、感染拡大に対する警戒感は根強い。「何の不安もなく肩を組み、わいわい楽しめるような日々が戻ってきてほしい」

■「躍」
 東北一円を中心に三が日で約13万人が参拝するという仙台市の大崎八幡宮は、干支のウサギを絡めた。軽快に跳ねる姿が、向上や成長を連想させて縁起がいいそうだ。
 前回のウサギ年は、東日本大震災があった。浪打佑介権禰宜は「12年前は自然の脅威に、現在はコロナ禍やウクライナ情勢、少子高齢化などに直面している」。さまざまな問題をウサギのように軽やかに跳「躍」し、大きく「躍」進する1年に-と願う。

■「生」
 「生かせいのち」。弘法大師空海の教えから引用したのは、家内安全や商売繁盛の神を祭る真言三宝宗の大本山、清荒神清澄寺(兵庫県宝塚市)だ。
 森藤晃正執行長は、ウクライナの紛争やコロナ禍で最も大きな影響を受けるのは、子どもやお年寄り、障害がある人など弱い立場に置かれている人たちだと指摘。「先が見えにくい社会情勢だからこそ、一人一人が『生』きることの大切さを考えてほしい」と話す。

■「望」
 「こんぴらさん」として親しまれる香川県の金刀比羅宮。三が日は、参拝がてら名物の讃岐うどんを食べに訪れる人が多く、コロナの感染拡大前は約50万人の人出でにぎわっていたという。
 「望」を選んだのは、願う、眺め、見晴らしなど前向きな意味があるため。岸本庄平主典は、希「望」に満ちる、コロナの終息や景気回復を「望」む-などの思いを込めたといい、「世界中の人々が幸せに暮らせるようになってほしい」とする。

■「平」
 福岡市の愛宕山頂にたたずむ愛宕神社は、2000年近い由緒を誇る。福岡タワーや玄界灘が一望でき、パワースポットとしても定着しているそうだが、千代浩二宮司は「近年は、お参りに来る人の切実さが増している」と受け止める。
 物価高が家計を直撃し、ウクライナ情勢に加え、北朝鮮のミサイル発射など不安は増すばかり。2023年こそ、世界が「平」和で、日本が「平」安でありますように-。そんな願いを1字に込めたという。

漢字のバリエーションもさることながら、その1字に込めた意味の説明もなるほどと思えるものばかりです。

兵庫県版は4日付朝刊に掲載しました。
兵庫五国(播磨、摂津、丹波、但馬、淡路)の社寺に尋ねた「1字」です。レイアウトなどを担当する紙面編集部が今年の干支の「うさぎ」をうまく使ってくれました(漢字の背景です)。

願い受け止め良い年に
県内の社寺に聞きました
今年の展望1字で言うと…

 家内安全、商売繁盛、学業成就…。三が日、兵庫県内の社寺は、新年の抱負を神仏に託す初詣客でにぎわった。では、さまざまな願いを受けた当の社寺側は、どのような1年を望んでいるのか。県内各地の人気スポットに、漢字1字に思いを込めて2023年の展望を語ってもらった。
■「咲」
 南あわじ市の諭鶴羽神社は、拝殿に掲げる四字熟語「恵風花咲」から選んだ。諭鶴羽山から吹く恵みの風が野や山に花を咲かせるように、人の心にも花が咲いてほしい-という意味だ。
 奥本憲治宮司が願いを届けたいのは、コロナ禍やウクライナ情勢による物価高などで苦しむ人たち。「力強い自然のメッセージを感じ取ってもらえたら」
■「甦」
 中止が続く祭事や催しが甦るように。ウクライナ情勢などで暗くなった人の気持ちも明るく甦るように。柏原八幡宮(丹波市)の千種正裕宮司が願う。
 国重要文化財の本殿は、改修工事が8月にも完了し、文字通り甦る予定。「閉塞した機運を払拭し、希望を持てる曇りのない1年に」と話す。
■「動」
 コロナ前は、三が日で約35万人が訪れていたという姫路市の播磨国総社。大恵貴之権禰宜は「人が動き、生活が動き、経済が動く年に」との思いを託した。
 真っ先に浮かんだ1字は、感染の終息を願っての平穏の「穏」。だが、穏やかな状態の一歩先まで進んでほしいとの望みを込めて「動」を選んだという。
■「生」
 「生かせいのち」。弘法大師の教えを引用したのは、真言三宝宗の大本山、清荒神清澄寺(宝塚市)だ。
 森藤晃正執行長は、ウクライナ情勢やコロナ禍で、子どもやお年寄りら弱い立場の人たちが特に影響を受けていると指摘。「先が見えにくい社会だからこそ、一人一人が生きる大切さを考えてほしい」と願う。
■「祈」
 「神主としてできるのは、世界の平和や皆さんの幸せを祈ることぐらい」。出石神社(豊岡市)の長尾家典宮司は、日々の勤めである祈りそのものを選んだ。
 神職の役割を、神様と人との間をつなぐことと位置付ける。「祈ったところで、力を及ぼさないかもしれない。それでも、思いが届くものと信じ、繰り返し祈ることが大切だと思う」

(2022年1月4日付朝刊)

今年の1字は―。だれかと話してみたくなりましたか。

<播州人3号>
1997年入社。「自分なら何の字を選ぶ?」と思ってもらえれば、この企画は成功です。月並みだと面白みに欠けるし、奇をてらいすぎても共感を得られません。「1文字」というのも難しく、聞くのは簡単ですが、いざ答えるとなるとかなり苦労しそうです。取材に協力してくださった社寺の皆さん、本当にありがとうございました。

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