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兵庫に宿る水族館DNA

 日本には、およそ110園館の水族館があるとされます。人口比率で水族館の多さは世界トップクラスで、その数はまだ増える見込みです。兵庫はというと…。須磨海浜水族園、姫路市立水族館、城崎マリンワールドはメジャーなところですが、昨今、民間の施設が急増しています。調べてみると、水族館と分類される施設は少なくとも12に上ります。全国の1割超が兵庫にあることになります。
 こんにちはド・ローカルです。最近、神戸市兵庫区の旧湊山小学校の跡地にできた「みなとやま水族館」に行ってきました。廃校の校舎を水族館に変身させる挑戦はとても珍しいことです。関係者に話を聞いているうちに、あることに気付きました。「この地には水族館DNAが宿っている」。というのも、兵庫区は日本で初めて水族館が設置された場所でもあったようです。その歴史もひもときながら、兵庫の水族館事情を見ていきましょう。

日本初の水族館「和楽園」

和田岬に開設された遊園地「和楽園」。園内には日本初の水族館がつくられた

 兵庫区南部を取材中、ある情報を小耳に挟んだ。「日本初の水族館が和田岬にあった」。その出現は明治時代中期。本格的なろ過装置などを備え、日本で最初に海水魚などを展示していたとの記録が残る。営業期間はわずか3カ月間。どんな水族館だったのか。それをひもとくヒントは、須磨海浜水族園(スマスイ)にあった。
 スマスイの一角に6枚のパネルや建物のジオラマが並ぶ。日本初の水族館「和楽園水族館」の展示スペース。だが大半の来館者は見向きもせず、素通りする。
 同館は1897(明治30)年、「第2回水産博覧会」の開催に合わせ、和田岬の南端部にあった遊園地「和楽園」内に建設された。同年9月1日から11月30日まで開かれた博覧会の閉会に合わせて営業を終えた。
 「欧米では水族館が登場していたが、アジアでは類を見ない施設だったはず」。スマスイ飼育教育部の岩村文雄課長は説明する。
 その驚きの技術とは―。

 「二個ノぢをらま(ジオラマ)ト二十九個ノ放養槽及ヒ九個ノ保健槽トアリ」
 博覧会事務局が作った報告書にはこう記されている。建設には神戸の造船技術が応用され、循環ろ過器や水中に酸素を送る送気管を備えていた。館内中央には岩礁を模したジオラマのプールもあった。「大きなジオラマを先に見せることで、細部を切り取る水槽が生きてくる。展示効果を高める素晴らしい仕掛け」と岩村さんは舌を巻く。
 展示用の「放養槽」は海水20個と淡水9個に分かれ、最も大きな物で横幅5メートル、奥行き1・5メートル、高さ1・6メートル。展示数は約100種5千点に上った。海水魚は瀬戸内海で捕れたものが多く、長距離輸送が可能なウミガメやウミヘビは沖縄や台湾から運び込まれた。
 「身近な生き物が多いため、単調な展示だと飽きられやすい。水槽内にレンガや黒い岩、白い砂などを敷き、海の中のさまざまな環境を表現したのでは」と感心する岩村さん。名付けたキャッチコピーは〝陸の上の竜宮城〟だ。「財宝や乙姫はなくとも、来館者は海の中のリアルな情景に心躍らせたはず」と推測する。
 さらに注目するのは、部屋割り。「魚類と、タコ、カニなどの無脊椎(せきつい)動物を別の水槽に分けている点が合理的。魚の方が汚す水の量が多いため、一緒にすると先に無脊椎動物が弱ってしまう」と話す。

 これだけの内容にもかかわらず、「注目を浴びないのはなぜ?」
 すると岩村さんが「いえ、いえ、この展示から1時間離れなかった来館者が1人だけいました」。その人こそ、誰もが知る「さかなクン」だった。「『120年前にこれだけの施設があったなんて』と驚きっぱなしで…」。目の付け所がいかにも通だ。

(2020年1月6日神戸新聞朝刊)


和楽園を再現したジオラマ
和楽園水族館の構造などを紹介するパネル展示=須磨海浜水族園

 水族館には「レクリエーション」「社会教育」「調査研究」「自然保護」と4つの役割が国によって定められています。昨今は指定管理によって民間委託されるケースが増えてきました。その影響の有無は分かりませんが、収益を安定させるためにレクリエーションに重心が傾き過ぎているのではないかと感じることもあります。
 西日本最大級の水族館を目指して全面建て替え工事に入っている須磨海浜水族園もその一つのように感じるのは私だけでしょうか?

一帯を再整備 24年開業へ 新スマスイ 主役はシャチ 民間が全施設建て替え イルカと触れ合えるホテルも


須磨海浜水族園・海浜公園の再整備イメージ(神戸市提供)

 神戸市は12日、市立須磨海浜水族園(同市須磨区)など須磨海浜公園一帯を再整備・運営する民間事業者について、不動産開発会社をはじめ、ホテルや水族館の運営会社など7社で構成する企業グループを優先交渉権者に決めた、と発表した。提案では、全ての施設を建て替え、水族館には西日本唯一のシャチを展示する。新設ホテル内には日本初のイルカとの触れ合いエリアを設ける。工事は2021年度に開始し、23年度末の全面開業を目指す。

 再整備の対象は海浜公園約14ヘクタールのうち約10ヘクタールで、企業グループの代表はサンケイビル(本社・東京都)。建設費などの初期投資は370億円で、年間323億円の経済効果を見込む。
 市は水族園の建て替えを機に公園全体の魅力を向上させようと、民間事業者が園内の収益施設の利益で広場など公共部分も一体的に整備する制度を採用した。2グループが応募。今回選定したグループは、地域住民の憩いの場である公園と、観光集客を目指す都市型リゾートを両立させるコンセプトなどを評価した。
 水族館は「楽しく学ぶ」をテーマに、展示とショーのシャチ棟とイルカ棟、魚類やアシカ・ペンギンがいる棟の3棟を並べる。延べ床面積は現在の1・5倍、総水量は1万4千トンで大阪の海遊館(同1万1千トン)を超え、西日本最大級の施設となる。料金は高校生以上3100円で、事業者側は「見応えのある展示で平均3時間強の滞在時間を想定している」とした。市内の子どもの遠足などは無料。開業の24年は年間250万人、その後は同200万人の集客目標を掲げる。
 また、白砂青松の美景を損なわないよう、松林のクロマツは約7割の540本を保全する。木々の間には親子で楽しめるブック&カフェやグランピング、レストランなど、にぎわい施設3棟を配置する。全室オーシャンビューのホテルは7階建て80室に約270人が宿泊可能。駐車場は立体・平面の3カ所で合計1110台を収容する。

(2019年9月13日神戸新聞朝刊)

大人 1300円→3100円 幼児 無料→1800円 新スマスイ 高過ぎない? 民営化、水量4.5倍に拡大 市民「気軽に行ける施設に」

 神戸市立須磨海浜水族園(スマスイ、同市須磨区)の再整備計画が波紋を広げている。市は新しい水族館に建て替えて運営し、その利益で水族館を含む須磨海浜公園一帯を整備する事業者を公募。しかし、9月に発表された優先交渉権者の提案内容は新水族館の入場料が現スマスイの数倍となり、利用者からは「気軽に行ける施設であり続けてほしい」との声も上がる。
 近隣や類似の水族館と比較した=表。新スマスイは高校生以上3100円、小中学生1800円。現行料金と比べると、高校生は3・9倍、小中学生は3・6倍となる。無料だった未就学児も4歳以上は小中学生と同額。両親と小学生の子2人で行く場合、3600円だったのが、9800円になる。発表直後の市会委員会では、与党議員からも「料金体系が子育て支援のものになっているのか」などの疑問が呈された。
 再整備を所管する市観光企画課の担当者は料金アップの理由を「民設民営になるため」と説明する。財政面の負担や、民間のノウハウ蓄積で、公営水族館の意義が薄れたことから、民営化を決めたという。
 小中学生が提示すれば無料となる「のびのびパスポート」は適用外。現スマスイで年間約7万6千回利用され広く浸透しているが、このまま移行すると、運営事業者が負担することになり「難しい」と判断した。
 一方で、社会教育や地域貢献の観点から市が負担し、市内小中学生の遠足など団体利用はこれまで通り無料、通常の入場も年1回は500円(4~6歳無料)に抑える。海浜公園内には、ピラルクなどを展示する無料コーナーも設置される。
 こうした案を提示し、優先交渉権者となったグループには、千葉県の水族館「鴨川シーワールド」の運営会社も入る。新スマスイは、水族館の規模を測る物差しの一つ「総水量」が約4・5倍。展示の目玉は現在、同館と名古屋港水族館(名古屋市)でのみ飼育されているシャチとなる予定だ。市は「神戸観光の核」と位置付け、入場者数は初年度に250万人、その後も安定し年200万人と、現在の倍近い強気の目標を掲げる。
 関連議案が、27日に市会本会議に提出される。事業計画を認定し、基本協定書締結後、12月には本契約となる見込み。2023年度末の全面開業を目指す。
 料金設定には市民から問い合わせが来ているといい、市の担当者は「理解を得るために何ができるのか、考えていきたい」としている。

(2019年11月22日神戸新聞朝刊)
現在の須磨海浜水族園の玄関


▼「再整備、市民の声聞き再考を」 署名活動で訴え

 神戸市立須磨海浜水族園(神戸市須磨区)の再整備に対し、再考を求める市民団体の動きが活発になっている。
 看護師で3人の子育てをする大竹奈緒子さん=同市垂水区=と、シンガー・ソングライターのリピート山中さん=同区=が代表を務める市民団体「須磨水族園を考える会」は10日、神戸・三宮周辺でパレード。スマスイを利用してきた約40人が参加し、「入場料金が高い。市はもっと市民の声を聞いて」と訴えた。
 同会はほかに、現行施設でも年平均約110万人を集客していることや、豊富な生き物を展示するなどの教育的な貢献を重視し「レジャー施設に特化した施設にする必要はない」と訴える。事業者の決定過程についても「市民に詳しい説明を」と求めている。22日には市に署名を提出する構えだ。
 久元喜造市長は20日の定例会見で「大変悩ましい問題。今までと同じような料金で利用したい気持ちはよく分かる」としつつ「集客力がある施設の整備が課題。しっかり議論し手続きを進めたい」との姿勢だ。

(2019年11月22日神戸新聞朝刊)

 水族館がここまできた―。魚の展示と芸術を融合させた新感覚の劇場型水族館「アトア」が2021年、神戸港の新港突堤西地区でオープンしました。三宮中心部とウオーターフロントとの回遊性を高める鍵を握っているといえます。

新感覚 生き物の世界へ誘う 神戸・水族館「アトア」の魅力

映えスポットの球体水槽

 新型コロナウイルス禍で、神戸港沿岸部にオープンした水族館アトア(神戸市中央区)。鮮やかな「映える」写真を撮影できるスポットが多いこともあって家族連れやカップルの姿は絶えない。インスタグラムで「#アトア」と検索すると、約1万8千件もヒットする。何が人々の心を捉えるのだろう。魅力の秘密を探った。

▼展示支える開館前準備 念入りな清掃で透明感を維持

 午前8時半。開館までまだ1時間半もある。
 「今日は少ないな」「そんなに拾う物ないな」
 しんとした4階建ての建物に、声が響いた。直径5メートル、水深2.4メートル。2階にある館内最大の円柱形水槽の前で男女2人のスタッフが話していた。
 これから水槽を掃除するという。潜水士の資格を持つスタッフが担う。安全のため2人一組で作業する。
 この日は、1人がダイバースーツ姿で小型のサメなどが回遊する水槽へ。1時間以上かけてスポンジでガラスの汚れを落としたり、食べかすなどを取り除いたりし、もう1人が水槽の外側から様子を見守った。
 3階へ上がった。足元の光景に目を見張る。床はガラス張りの水槽で、中を無数のコイが泳いでいた。
 コイが舞うフロア「MIYABI」(みやび)。ライトアップされると、コイが壁に浮かび上がって滝を登り、最後に竜になるプロジェクションマッピングも楽しめる。
 ここでも開館準備は怠りない。床下とガラスパネルとのわずか約50センチの隙間に従業員が器用に体をくぐらせ、パネルを拭いていく。
 呼吸する時は、場所を選ぶ。「拭いていないパネルの下で呼吸をすると、泡が水面で弾けて水滴がパネルに付き、展示が見にくくなるんです」。細やかな気配りを徹底していた。

▼没入感、体で味わう 見る、聞く、撮る…嗅ぐも楽しむ

 もうすぐ午前10時、開館だ。平日にもかかわらず開館前から列ができていた。
 延べ床面積約7200平方メートルの建物は2~4階が展示スペース。1階にフードコートやグッズショップが入る。観察できる生き物は約100種類に上る。
 アトアは、アクアリウム(水槽、水族館)とアート(芸術)から付いた名称。両方を融合した新感覚を味わえる場に、という思いが込められているという。
 2階の入り口から、まず3階へと足を運んだ。
 「以前、ライトで照らされた床下をコイが泳ぐきれいな写真をSNSで見たことがあって。ここだったんですね」といとこと訪れた池田涼華さん(24)。話題の場所に来たことを喜び、文字通り新感覚を満喫している様子だった。
 次は、館内で一番の映えスポットへ。同じ3階にある球体水槽だ。球体では国内最大級の直径3メートル。赤や紫の光と、天井付近から噴射されるミストが幻想的な雰囲気をつくり、写真を撮る来館者は途切れない。
 ふと餌やりが始まった。スタッフが球体水槽の上から人工飼料を入れる。来館者と一緒に見入った。生き物について説明する場面も。スタッフが「サクラダイなどの魚は成長過程で雌が雄になる特徴的な種類です」と伝えると、聞いていた子どもから「えー」と驚きの声が上がった。
 動物の肛門のにおいを嗅ぐコーナーは多くの来館者を「印象的」とうならせてきた。動物のお尻の写真が飾られた額縁に顔を近づけ、鼻で息を吸う。誰もが表情をゆがめる。見る、聞く、撮る以外にも楽しめる。
 午後9時の閉館まで、来館者はひっきりなし。コロナ禍でも来館者数は開館前の想定を達成した。
 「ここでしか体験できない映画や舞台のワンシーンを演出したい」と営業課の新谷正代さん。「その没入感を楽しみながら生き物への関心につながれば」と期待を込めた。

(2022年6月24日神戸新聞朝刊)

 劇場型水族館「アトア」館長 中山寛美さんにお話をききました。

―オープンからの手応えは。
 「一般的な水族館とは異なる展示の仕方をしているので、もっと好き嫌いが分かれるかなと思っていた。予想以上に受け入れられていると感じている。立地も良くはないが、バスだけでなく、歩いて来られる方も多いようでありがたい」
 ―水族館と芸術のコラボという斬新なコンセプトの狙いは。
 「いわゆるインスタ映(ば)えなどのエンターテインメント性を前面に出しているが、それはあくまで入り口。関心のなかった人たちに、生き物の面白さを感じてもらうことが最終目標で、この点は準備段階からぶれていない。さまざまなスタイルの水族館がある中で、アトアでは遊び心をもって、『へえ』と驚いてもらい、生物や自然への学びにつなげられたらと思う」
 ―再整備に伴い、ウオーターフロントの活性化に期待が高まっている。
 「正直に言うと、アトアのためだけに遠くから神戸まで足を運んでもらうのは難しいと思っている。ただ、駅周辺が整備され、ポートループ(連節バス)が走るなどアクセスが向上していく中で、観光客にとって神戸の新たな立ち寄り先の一つになればうれしい。ここの新港町というエリア自体があまり知られていないので、『アトアのある場所やね』と言ってもらえるようになりたい」
 ―須磨海浜水族園での勤務経験もある。姿が変わっていく神戸への思いは。
 「岐阜出身で大阪に住んだこともあるが、神戸は都会と自然が近く、コンパクトで居心地の良いまちだと痛感している。ただ、JR三ノ宮駅周辺は道路で分断されており、駅から港方面へは心理的な遠さもあるように思う。再整備でそういった壁が取り払われ、海の方へ向かう機運が高まってほしい。メリケンパークなどの人気エリアとも近く、一員としてともに神戸を盛り上げたい」
 ―アトアの展望は。
 「新入社員も多くまだ手探り状態だが、研究活動を通してアカデミックな要素をもっと取り入れたい。お客さんには楽しく見えるが、実は学問的背景があるといった仕掛け。また、水族館業界全体の話になるが、新たな入り口を設けたアトアをきっかけに『生き物のいる水族館って面白い』と感じてくれる人が増え、業界全体が盛り上がればうれしい」

(2022年5月19日神戸朝刊)
劇場型水族館「アトア」。無数のコイが泳ぐ水槽の上を歩ける=神戸市中央区新港町

<ド・ローカル>
 1993年入社。明治時代、兵庫区で開催された第2回水産博覧会の開催が、日本初の水族館「和楽園」が生まれるきっかけになりました。それから126年。兵庫県内には少なくとも12もの水族館ができ、アトアのような「劇場型水族館」やみなとやま水族館のように「歴史×魚の展示」のように進化してきました。兵庫に宿る水族館DNA。次はどんな姿を見せてくれるでしょうか。

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