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THE HIGH BERTS こぼれ話〜Cyuuが見たもの〜

私たちの活動の場としては、年中どこかで何かの形で行われているダンスパーティー、ダンスホール、ビヤガーデン、変わったところでは結婚式場とやくざの主催する夏祭りなどでした。

1965年2月のこと。
後輩たち(といっても、神戸で演奏をしたときに色々手伝ってくれたポンの後輩です)が大学受験で上京し、当時西荻窪から移り住んだ池袋の私の部屋も受験の宿として提供しました。長い廊下と小さな部屋がいっぱいあったその古いアパートの三畳間が私の部屋でした。

そのアパートには雑多な人々が大勢住んでいて、私の学部の事務員も家族で住んでいました。大勢住んでいる割には静かで、私のお付き合いも向かいの部屋の家族のみでした。
受験のときは春休みになるので、たいていは部屋の主が帰省している間、受験生の一人であるCyuu(ニックネーム、チュウ)が部屋を使うのですが、私は帰省する気がなかったので狭い部屋に二人で住みました。
彼も同級生とバンドを組んでいて、やはり音楽のことなどを夜遅くまで話し込んでいたように思います。

そんな数日の間のある夜のことです。
Cyuuが深夜になってトイレへ行ったのです。トイレは曲がった階段を一階へ降りて、玄関とは反対方向の長い廊下の突き当りでした。
用を済ませたCyuuが廊下を歩いて戻ってくると、正面に見える玄関に誰か立っているのが見えたのです。
Cyuuは途中誰とも会わず、トイレを出たあと長い廊下の先の玄関に人が居るのは見えていて、アパートの住人だと思ったそうです。
外のほうを向いた後姿は、長い髪を腰までたらして、白っぽい浴衣のような着物(真冬に?)を着た女性で、Cyuuが歩いていっても振り向きもせず、ほの暗い裸電球の下でじっと立っていたというのです。
Cyuuはなぜかぞっとするものを感じて、慌てふためいて階段を駆け上がり、部屋へ転がり込んできました。
私はもう半分夢の中に居たので、ワイヤワイヤと大騒ぎをするCyuuに
「そらぁ向かいの部屋のおねえちゃんや。どっか出かけるか、帰ってきたとこやで」
と寝ぼけつつ返事をして寝てしまおうとしました。
「ほんでもセンパ~イ!僕が歩いていっても振り向かなかったんですよ~。動かなかったんですよぅ」
半泣きで訴えるCyuuにうるさいのでとどめを刺しました。
「それはあるかもしれんなぁ、ここは元病院やったから。振り向かんで良かったやないか」

元病院だったのは本当です。だから小さな部屋がいくつもあったのです。
数日後、向かいの部屋のおねえさんに確かめました。
しかしその日は友達の家へ遊びに行っていて、そのまま泊まったのだそうです。

Cyuuは今でもその話をします。