伊藤詩織さん民事訴訟勝訴

ジャーナリスト・伊藤詩織さんの事件はこれまでずっと注目してきて、その著書『Black Box』(文芸春秋)も読んで続報が気になっていたので、今回の民事訴訟勝訴のニュースは本当に喜ばしいことです。

「レイプされた側にも落ち度があったはずだ」「被害者ならばそんな笑顔を見せるはずがない」といった理不尽な非難が押し寄せる問題については、人間の「認知バイアス」の問題に拠るところが大きいと思っています。

私たちは、何の罪もない人間が信頼していた人間からいきなりレイプされたり暴行されたり尊厳を踏みにじられたりすることが起こり得るなんて、信じたくないのです。そんなことが起こり得るとしたら、いつか自分も被害者になるかもしれないし、逆に、いつか自分も無意識のうちに加害者になってしまうかもしれない。

そんな地獄のような可能性を認めたくないために、脳は認知バイアスを働かせ、「被害者にも落ち度があったはずだ」と思い込もうとします。自業自得だ、因果応報だ、死ぬ気になれば防げたに違いない、と信じようとします。すなわち、世の中の事象はすべて正常に機能しているのであり、この事件は落ち度のある特殊な人間に降りかかった特殊な事例である、と認知を歪め、精神のバランスを取ろうとします。

しかし残念ながら、こういった事件は何の落ち度もない人間にも無慈悲に降りかかるリスクがあるわけです。人間は自分が信じたいもののために自分の認知を歪ませてしまいます。伊藤詩織さんは当初より主張がぶれず、その主張の正当性が民事裁判で認められたわけで、そのことが、同じ被害を被ってきた多くの人々にとっても救いになったことでしょう。

『この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に降りかかってくるか、誰にも予測はできないのだ。』
Black Box(文芸春秋 伊藤詩織:著)より

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