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赤の他人からの言葉で傷ついているあなたへの処方箋

以前、心理学の専門家に取材した時に印象的だった言葉があります。

「相手があなたを傷つける言葉をぶつけてきた時、『なぜそんなことを言うんだろう?』って思いませんでしたか? でもね、相手がなぜそんなことを言うのか、『理由』を考えてはいけないんです。あなたと相手は別人です。赤の他人です。相手が暴言を吐く理由なんて、絶対にわからないんですよ」

その時の僕は、とある作品のため、暴言を吐く人間の心理についてリサーチしていました。何だそのリサーチは? と思われるかもしれませんが、ドラマやアニメには強烈なインパクトを持つキャラクターが登場し、心に突き刺さる台詞を残すものです。脚本家ならば、言葉と感情の相関について誰もが考えたことがあるでしょう。罪悪感を持たず、相手の心を踏みにじり、残酷な言葉を平気で吐き散らすキャラクターを、僕は過去に何度も書いています。

人間の心理や行動を論理的思考で解釈しようとする傾向にあるのは、脚本家としての職業病かもしれません。その頃の僕は、人間の言動の裏には須く理由があると思いたかったのです。平凡なキャラクターが、何の脈絡もなく、特に事情もなく、いきなり相手の心を蹂躙する台詞を叫び始め、その理由が描かれないままスルーされてしまったら、視聴者は混乱します。それは狂気かもしれないけれど、狂気にも発端や原因があるものです。キャラクターの台詞や行動に何の因果関係もないのだとしたら、こんなに恐ろしいことはありません。

そして、その問題は創作においてだけでなく、自分自身の人間関係にも応用できると思いました。攻撃的な言葉を吐かれた時、相手の暴言の裏にどんな意図があるのか、どんな精神状態なのか、理解したいと思ったのです。どうすれば言わなくなってくれるのか、すなわち、『理由』を解き明かせば、解決できるに違いない。人間関係を良好にして、相手の暴言をなくす方法があるはずだ、と。

でも、専門家の意見は、「相手の事情なんか考えるな。どうせわからないんだから」というあっさりしたものでした。もう少し深い話が聞けると思っていた僕は、がっかりしました。しかし、しばらく時間を置いてからこのアドバイスについて振り返った時、気づいたことがあります。すなわち、「僕は自分を傷つける相手を理解することで、正常な人間へと変えようと考えていなかっただろうか?」ということです。

この専門家の意見に倣えば、どんなに頑張ったところで、相手の言動を変えることはできません。自分の言葉や態度で相手を思い通りにコントロールしたり、反省させたり、更生させようとすること自体、危険な発想なのです。そのようにリアクションを起こしている時点で、すでに相手の土俵に引きずり込まれています。あなたを傷つける人に対しては、関わらないこと、相手にしないこと、背を向けて全力で逃げること。

それでも、あなたに執着し、攻撃し続ける人間が存在する以上、完全に無視することもできないですよね。SNSで有名人の方々が誹謗中傷を受けている問題について、「無視すればいい」とは軽々しく言えません。無視できないから、こんなにも苦しんでいる。そして、無視できずに傷ついている自分の性格を責めて、余計に傷ついてしまうという悪循環。

でも、裏を返せば、それは共感能力が高い証だと思います。特に、有名人の皆さんは「共感」の仕事です。相手を思いやり、気遣いができて、想像力が逞しくて、配慮が行き届く人たちだからこそ、第一線で活躍していられる。だからこそ、赤の他人の言葉にも人一倍敏感で、繊細で、傷つきやすい。そのことは素晴らしい資質であり、誇っていいことです。傷ついているあなたは、それだけ感受性が鋭く、思いやりが深く、人の気持ちを理解できる人なのですから。

僕ら一般人にできることは、赤の他人からの言葉で傷ついた有名人の心に響く優しい励ましの言葉を届けること。感受性の豊かな有名人の皆さんには、励ましの言葉もきっと人一倍深く響くはず。僕も脚本家だから分かりますが、たった一言の「面白かったです!」の言葉で、自己嫌悪から脱出し、消えかけていたモチベーションが復活して、作家生命が何年も延びる感覚があります。

もちろん、100の励ましの言葉があっても、1つの悪意ある中傷の言葉で、それが台無しになってしまうこともあります。ならば、また1から励ましの言葉を積み上げていけばいい。応援し続ければいい。誹謗中傷の嵐をかき消すくらい、心からの声援を送り続ければいい。今、深く傷ついているあなたは、それだけ深く人を愛せる人間なんだから、と。

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