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迷子のペットを飼い主のもとへ

ペットに関わる様々な分野のトップランナーの皆さまにお話を伺うAnimal Professional対談。第4弾は、ペット探偵の藤原博史さんをお迎えしました。これまで約25年間で4000件ものペット失踪事件を解決、発見率なんと8割を誇る藤原さんの強さの秘密、そして仕事にかける想いとは・・・?


■有馬記念がつないだ縁!?

小林:藤原さんとは、FM世田谷の「ペットワンダーランド」にゲストで出てもらったのがきっかけで、ずっと仲良くさせてもらっています。事前に番組の担当者から「次回のゲストはペット探偵です」って聞いたときは、正直、「ペット探偵?なんだそれ、あやしいな~」って思っていたんですが(笑)、実際お会いしたら、一目見た瞬間に「こっち側の人(=プロとして本気でやっている人)だ」ってわかりました。

藤原:僕も、すぐに「あ、この人は普通の獣医師とは違う」ってわかりましたよ(笑)。

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小林:以来、一緒に飲みに行ったり仕事の相談に乗ったりして交流を続けていたんですが、藤原さんとの距離が近くなったのは、藤原さんからの、「お願い」がきっかけでした。
数年前のある日、藤原さんから「相談があるから会いたい」と電話をもらったので、居酒屋で待ち合わせをしたところ、単刀直入に「探偵の仕事に役に立つので、僕にマイクロスコープカメラを買ってください。すごく高価なので自分では買えないので、小林先生に買っていただきたい!」と頼まれたんです。「お金を貸してくれ」とか「投資してくれ」とかいう遠回しな言い方ではなくて、ずばり「買ってくれ」と、家族以外の人に言われたのは初めてだったので、びっくりすると同時に、「あ、犬や猫を探す仕事のために本当に必要なカメラなんだな」ということがストンと胸に落ちたんですよね。気づいたら「よし、わかった!買おう!」と即答していました。ま、正直言うと、ちょうどその日は有馬記念で大勝して、珍しく余裕資金が手元にあったというのもありますが・・・(笑)。このタイミングを見計らったかのように連絡をしてくる藤原さんの野生の勘みたいなものも感じて、もう、カメラを買うしかないって思っちゃったんですよね。

藤原:当然ながら、有馬記念のことは全然知りませんでした。小林先生なら、あのカメラの必要性を絶対理解してくれると確信して、電話した日が、たまたま、あの日だったんですよ。

小林:いや、絶対、藤原さんには動物的な勘がありますよね(笑)。だからこそ、ペット探偵ができると思うんだけど、その勘は、どこでどうやって身に付けたんですか?

■中学時代の野宿生活、不思議な夢に導かれて

藤原:小さい頃から動物は好きでしたが、動物の行動パターンとか考えそうなことがわかるようになったのは、中学生のときですね。当時は神戸に住んでいたのですが、いろいろあって家にいるのが嫌になって、家出をしたんですよ。お金もないので、夜は野良犬や野良猫と一緒に閉店後のホームセンターに入り込んで展示中の物置や犬小屋の中で眠ったり、公園で野宿したりしているうちに、犬や猫の習性とか性格の違いの見分け方が自然とわかるようになったんですよね。

小林:なるほど。それでペット探偵になろうと思ったのですか?

藤原:いいえ、違うんです。結局、中学卒業後はあちこちに出かけていろんな仕事をしていたのですが、20代半ばには沖縄で漁業関係の仕事に就いていました。そのときに、すごく不思議な夢を見たんですよ。自分が「ペット探偵」になって迷子の猫や犬を探し出し、飼い主さんに喜ばれている夢です。それまで、ペット探偵になろうなんて思ったことはなかったですし、そもそもペット探偵なんて仕事がこの世にあることも知らなかったのに、そんな夢を見るなんて不思議ですよね?でも、その夢があまりにもリアルだったせいか、「これだ!これこそ俺のすべきことだ!」とピンときたんですよね。すぐに沖縄から上京、ペット探偵を始めました。

小林:それが約25年前ですね。最初は大変だったでしょうね。

藤原:最初は依頼が少なくて、生活が大変でした。でも、少しずつ口コミで依頼が入るようになり、気づいてみれば、この25年で計4,000件もの案件を担当させてもらいました。発見率は8割程度です。

小林:すごい件数ですね。すぐに発見に至らないケースも多いでしょうし、大変な仕事だと思いますが、25年間も続けてこられた原動力は何ですか?

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藤原純粋に飼い主さんと動物達のお役に立ちたいという気持ちですね。ペットが亡くなった場合は目の前に亡骸があるので、飼い主さんは別れを受け止められるのですが、失踪の場合は、ある日突然愛するペットが目の前から消えて、生死もわからないわけですから、飼い主さんは自分の心と折り合いがつけられないんですよね。つまり、死別の場合とちがって、生き別れの場合は、気持ちの落としどころがなくて、いつまでもペットのことを引きづって生きていかねばならない。そんな飼い主さんの気持ちを少しでも早く楽にしたいと思って、この仕事を続けています。

小林:確かに、生き別れはペットロスとはまた違う心の傷になりますよね。「まだ、どこかで生きているかもしれない」という期待を捨てきれず、「おなかを空かせて苦しんでいるかもしれない」「もう死んでしまったかもしれない」といった不安や心苦しさを抱えたまま暮らしていかねばならないのは、つらいものです。藤原さんの捜索で救われた飼い主さんも多いでしょうね。

藤原:ペットと再会して喜んでいる飼い主さんの様子を見ると、私も嬉しくなります。


■迷子捜索ノウハウを公開、後継者育成にも意欲

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小林:最近はテレビや雑誌でも取り上げられることが多くて、捜索の依頼も増えているのではないですか?

藤原:そうですね、最近はコロナで飼い主さんの在宅時間が増えたことによるストレスで猫や犬が脱走してしまうケースも多く、お問い合わせが増えています。

小林:なるほど、でも、藤原さん一人では対処するにも限界がありますよね。

藤原:そうなんです。すぐに対応できないケースも増えて来たので、私が行く前に、まずは飼い主さんが自分である程度の捜索ができるようにするためのマニュアルを作成し、糸井重里さんが主宰するサイト「ドコノコ」で公開しています。
また、現地での捜索活動についても、私の代わりにできる人材育成に取り組んでいます。私の「勘」のようなものを、そのまま伝授することは難しいのですが、長年の経験で培った効果的な捜索方法や創作のコツについては伝授できるので、これからは若手の育成にも力を入れていきたいですね。

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■“これからのペット探偵”のあり方を構想中
小林:次世代のペット探偵にも期待したいところですが、育成には時間がかかる一方で、迷子のペットは増えてきている現状。ペット探偵としての藤原さんの今後の展望をお聞かせください。

藤原:前述の「ドコノコ」の迷子捜しマニュアルにも通じることですが、ペットが迷子になった時には、飼い主さんご自身が捜すことができるような仕組みづくりがとても重要だと考えています。犬も猫も、当然のことながら時間の経過とともに発見率は落ちてきます。つまり急いで捜し始めれば見つかりやすいということ。そのためには、私たちが出張捜索するだけでなく飼い主さんご自身で捜すことができなくてはなりません。

小林:迷子になったのは自分の大切なペットですから、飼い主さんが急いで捜すことが出来たら、それが一番良いですよね。ただ、捜索や捕獲にはペット探偵独自のノウハウが必要なのでは?

藤原:そうですね。ただやみくもに周りを捜し回っても時間が過ぎていくだけという可能性は大いにあります。それにペットも性格や環境によってその行動パターンはさまざまですので、マニュアルとして伝達しきれない部分もある。ですので、私が飼い主さんに捜索のポイントや必要なツールをお教えし、いち早く捜索をスタートできるような仕組みが作れたらと構想中です。

小林:それは画期的ですね!発見率も高くなるでしょうし、1秒でも早く見つけ出したい飼い主さんも、嬉しいのではないでしょうか?

藤原:迷子ペットをゼロにすることは難しいですが、迷子になってしまったペットと再会できる可能性を少しでも高めていくことが、今までもこれからも、私たちペット探偵の使命だと思っています。

小林:素晴らしいですね!その構想の実現化に期待しています。これからますます一緒に面白いこと、そして動物と人がハッピーになれるようなことを楽しみながらやっていきましょうね。よろしくお願いします!


藤原 博史 プロフィール
1969年3月30日生まれ。兵庫県出身。
もの心ついた時から、昆虫や動物に興味を持ち、小学校の卒業文集には「動物に関わる仕事に就きたい」と綴る。26歳の頃に「ペット探偵」になることを閃き、
1997年、神奈川県藤沢市にて「ペットレスキュー」設立。
藤原がモデルとなったドラマ「猫探偵の事件簿」は、2018~2020年、3シリーズがNHKで放送。
2020年8月には「情熱大陸」に出演ほか、メディア出演多数。

【著書】「ペット探偵は見た!」(扶桑社)
「210日ぶりに帰ってきた奇跡のネコ」(新潮社)
「ほぼ日刊イトイ新聞」の『迷子ネコ探しマニュアル』の監修にも携わる。



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