ショートストーリー アスパラの豚肉巻き

ジュワッ。
噛んだ瞬間にコクのある旨味と肉汁が口に広がった。
砂糖と醤油の甘辛の味付け。
なのに、肉汁はさっぱり。
それもそのはず、肉汁だと思っていたのはアスパラの水分に肉の旨味が少し足されただけのヘルシーなものだった。
噛むごとに溢れ出す汁は、アスパラと豚肉が織り成す極上のスープだった。

一本のアスパラに豚肉を巻きつける。
螺旋状にくるりくるり。
階段を一つずつ登っていくように、一回、二回と丁寧に確実に巻く。
私は、段階を踏んで美味しくなっていく様がみえるようで、この作業が好きだ。

切ったアスパラと豚肉を炒め味をつけたとしても、味は大きく変わらない。
けれど、巻いて焼けば見た目も味も妙な一体感が生まれる。
明日は息子の部活の試合。
初のレギュラー入りだというのに、思春期の息子には見に来るなと釘を刺された。
変わりに、弁当に願いを込める。

頑張れも、怪我をするなも。
なにより、仲間を大切に思う息子がどんな形でも笑顔でありますようにと、一種の願掛けをしながら肉を巻いた。
肉と野菜がギュッと手をつないで、仲良くなったような簡単な料理に息子の幸運を願った。

翌日に手渡されたのは、空の弁当箱と勝ったの一言。
たったそれだけだが、息子との距離は安定したものだと分かる。
それだけでよかった。

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