ショートストーリー もやしのナムル

それは月末の救世主。
一枚のハムと少量の鰹節をかけて、あとはごま油の香りでご飯を頂いた。

お酒もギャンブルもしない。
会社では、もっぱら真面目な社員として、上司にも同僚にも認識されている。
そんな僕の腹が昼過ぎに、地獄の底のケロベロスでも這い出てきたような唸り声をあげた。
部署の皆は一瞬、沈黙したがそれも笑い変わり
「仕事のしすぎで食いっぱぐれたのか」
と笑いながらも哀れんでくれた。

僕も
「いや、恥ずかしながら、実はそうなんです」
なんて頭を掻いて笑う。
すると、お土産に貰ったお菓子や、食いしん坊な女子社員が引き出しに常備しているお菓子を分けてくれた。

僕は
「仕事もホドホドに」
とかなんとか言われて
「そうですね」
と肩をすくめる。
貰ったクッキーをコーヒーで流し入れ、パソコン画面に向きなおり、仕事をするフリをし、なんとかなったとコッソリ胸を撫でおろした。
昼間の騒動があったため、定時帰宅もすんなりいった。
帰り際、先輩が「しっかり食えよ!」と冗談を飛ばしてくる。
部署の皆がドッと笑うと、僕も当たり障りなく「そうします」と笑って会社を出た。

そして帰宅早々取り出したのは、もやしと一枚のハム。
冷凍のたこ焼きについていた鰹節パックを取りだした。
調味料も全部、皿に移し入れてレンジへ。
ついでに冷凍した茶碗に半分程のご飯も、レンジで温める。

その流れでゲームを起動させ、スタートボタンを連打する。
「やぁっと帰れた。このイベントの為に食費も注ぎ込んだんだ。きっちり周回しなきゃ、元も子もない」

レンジがピーと鳴る。
ゲーム画面を一旦、一時停止し急ぎ足でレンジから夕飯を取り出す。
左手で操作しつつ、右手は箸を持つ。
犬食いみたいに皿に顔を近づけるけど、ゲーム画面からは、絶対に目を離さない。
少し濃い目に味付けたナムルをシャキシャキ咬みながら、慣れたゲーム操作を行う。
一瞬だけ、空になった皿に目をやり
「よし、しっかり食べた! 今日は徹夜。重課金者をナメるなよ運営!」
そう自分に言い聞かせた。

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