ショートストーリー サンラータンスープ

ちょいカラうま酸っぱなスープ。
鼻の通りがよくなって、鼻水が止まらないけれどなんのその。

鼻をすすって、かんで。
熱々豆腐を丸呑みした。
熱さで、喉が焼けそうになって咳こむ。
苦しむ私を見て友達は、赤い腫れぼったな目を三日月型にして笑っていた。

春から上京しようとしていた彼女は、両親の理解を得られず、深夜我が家にやってきた。
使い古したギター一本を持って。
彼女の父親が使っていたものを譲り受けたと聞いている。
彼女の上京理由は、ギターの裏に彫られた古ぼけた文字から、親子二代に渡る夢のためだと私は知っている。
そして、彼女の父親の無念と挫折と心配も聞いたことがある。

うちに来てから、ずっと私の布団を涙で濡らす彼女に、かける言葉も見つからず、私は彼女を部屋に残しキッチンへ降りた。
彼女の父親が、上京した時にバイト先の留学生に教えてもらったというレシピで、スープを作る。
本来は、風邪を引いたときに効くと言われるものらしいが、彼女の心も風邪を引いたように冷たくなっていることだろう。

それに、このスープで何日も空腹をしのいだという彼女の父親の気持ちも、お酢と一緒に少し加えた。
彼女の両親の気持ちも私は少し分かる。
こうして、頼って訪れてくれる友達が遠くへ行くのは、私も寂しい。
出来れば一緒に、ここに残ってほしい。

そんな想いは言えるわけもなく、花のように散らした卵と豆腐と同じくお玉でぐじゃぐじゃにした。
部屋で泣く彼女と一緒に飲む。
彼女が、私のスープをどう汲み取ったかは分からない。

沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。