ショートストーリー きのこの中華スープ

スープの中で仲良く浮遊する、えのき、しめじ、しいたけ。
赤く彩るトマト。
透明になって隠れる玉ねぎ。
食材が遊ぶ鍋へ溶き卵を細く流し入れると、黄色い花が咲いた。

『地味だけどイイ子だよね』
昨日、友人に言われた言葉が頭から離れなかった。
昨日は咄嗟のことで、言い返しはしなかった。
前後の話の内容も覚えていない。
それでも「地味だけど」ってなに? イイ子ってどういう意味?
と思い出すと無性に腹が立ってきた。

どうにもムシャクシャする。
家に居ても地味な色の服や、鏡に映る地味な顔がチラついて、家事に集中出来ない。
日焼けが気になるから日差しのキツイ昼間には、極力外に出たくないが気分転換に公園へ出掛けた。
深く帽子を被って顔を守り、春の暖かな陽気をパーカー越しに感じた。

公園では、知らない子供達が駆け回っている。
木陰にあるベンチで、その姿をぼんやり眺めていた。
子供達が走り回った後を追うように、シロツメクサやたんぽぽが揺らぐところが面白い。
私の目の前であっても、彼らは関係なく走る。
シロツメクサは、揺らめく度に白い花びらで太陽の光を反射させる。
遊歩道と芝生の狭間で綿毛になっていたたんぽぽは、その風で種を飛ばしていた。
フワフワ飛んでくる綿毛にフウと息をかけて、陽のあたる芝生へ追いやった。
フワリ、フワリ。
パラシュートより不安定な動きをして、陽辺りの良いところへ種は落ちた。
そこへ二週目の子供達がやってきて、その中の一人が種が落ちた場所を踏んづけた。

子供達が走り去った後、ベンチから立ち上がり種の落ちたところで目を凝らす。
種は運良く、芝に絡みつき地面に頭を擦りつけているようだった。
きっと、あの場所から新しいたんぽぽが咲くに違いない。
そう思うと、良いことをしたと思う。

話としてつまらないし、盛り上がることもないから、自分だけの満足。
誰にも言えない地味めな良いこと。
友達の話を思い出す。
彼女には、こういう地味な良いことをする姿が映っていたのだろうと、くしゃくしゃした頭がスッキリした。

帰り道、ゆるくお腹が鳴った。
聞こえるか聞こえないかの地味な音。
たまたま、すれ違った人は、なんてことない顔をしていた。
きっと聞こえていないのだろう。
だけど友達がもしここにいれば、この音が聞こえているのだろう。
と思うと、少し恥ずかしく、少し面白く、少し寂しかった。

私は、今日の気付きと風景を忘れないように、スープにした。
走る子供は、三種のきのこ。
光を反射させるシロツメクサは、小さくても目立つミニトマト。
透明なパラシュートを持つ綿毛は、玉ねぎ。
最後に新しいたんぽぽが咲くことを願って、溶き卵を回した。

中華仕立てで旨味が溶け出すスープは、きのこと野菜が仲良くした優しい味だった。

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