中小企業の海外展開に向けた中小企業診断士の役割
日本の人口減少が進み、国内市場の縮小により売上高減少が懸念される中で、リスク分散の一つの手段として、海外市場への販路開拓を求める方法があります。海外でも評価されるような製品づくりができれば、国内市場に向けてもアピールポイントとなり、他社と差別化できる可能性もあります。
ただ、日本製品の多くはすでに多くが世界中に輸出されており、これからの輸出は後発となることが大半であり、他国製品の品質も向上しており、メイドインジャパンだけで評価されて売れる状況ではありません。
また、場当たり的な対応で海外展開を進めると、対象国の規制に合っていなかったり、ニーズを全く捉えていなかったり、適正な値付けができていなかったりなどリスクが顕在化する可能性があります。
しかし、逆から見れば、対象国市場の分析と自社製品のブランディング等の準備ができ、海外販路を獲得できれば、他者に対して高い参入障壁を築くことができるでしょう。
そこで、海外展開を検討している企業様に向けて、中小企業のナビゲーターである中小企業診断士ができる役割を提案していきたいと思います。なお、本稿での海外展開とは、主に自社製品の輸出のことを指すものとします。
1 モノ(商品・サービス)と市場の組み合わせの想定
海外展開(自社製品の輸出)に向けて、まず自社の「モノ」(商品・サービス)と国(市場)の組み合わせを想定してみることがファーストステップになります。
このステップにおいて、中小企業診断士に求められる役割としては、海外展開に向けた情報提供になると思われます。外務省、JETRO、JICA、中小企業基盤整備機構等のHPを参考にしながら、経営者の希望に添った情報提供を行うことが考えられます。人口や経済状況などの基礎情報やトレンド情報を分かりやすく提供しましょう。
2 内外環境の分析
輸出対象製品と対象市場を想定したら、次のステップでは、その想定で勝算があるのかを検討していきます。具体的には、自社製品と対象国市場について、内外環境分析を行うため、SWOT分析を行ない、また基本的な海外展開戦略を定めるため、クロスSWOT分析を行ないます。
このステップでは、中小企業診断士には、経営者の相談相手になり、また従業員を巻き込みながら、SWOT分析及びクロスSWOT分析をアシストするファシリテーターの役割が求めれると思われます。あくまで、分析の主役は、経営者及び従業員なので、中小企業診断士は、答えを提示するのではなく、参加者の話しやすい雰囲気作りやヒントになる情報を提供していくことが望まれます。
ここでよく悩むのが、外部環境に関する情報の収集ですが、今の時世インターネットから概ねの情報を得ることができます。先ほどの外務省やJETRO、JICA、中小企業基盤整備機構等のHPやからヒントになるようなレポートや事例の情報を入手することが十分に可能です。
より詳しい情報がほしい場合は、JETRO、JICA、中小企業基盤整備機構等の公的支援機関は無料の情報提供や貿易投資相談ができるサービスがあるので、利用するのも良いと思います。
3 自社製品のブランディング検討
基本的な海外展開戦略ができたら、自社製品を他社製品と差別化し、対象国市場の消費者に選ばれるようにするため、ブランディングの検討を行います。具体的には、自社製品を売り込みたい消費者・バイヤーのペルソナをなるべく鮮明にイメージし、そのペルソナに向けての物理的・心理的ベネフィットを検討し、それを端的に表わす、ブランドコンセプト(キーメッセージ)を検討します。
なお、ペルソナ設定のヒントとして、公的支援機関のレポートの他、SNSを検索、分析してみることで、より具体的な人物像を設定していくことも一案だと思われます。
ブランディングが決まってくると、製品づくりをはじめプロモーションや販路選択など今後のマーケティング戦略に結びついてくるので、重要ポイントになります。
ここにおいても、中小企業診断士には、経営者及び従業員を巻き込んだ、ブランディング検討会のファシリテーターの役割が期待されます。
このようなグループ検討の場において、経営者及び従業員の思いを引き出すとともにモチベーションアップを促すことができればとても良いと思われます。
4 海外展開事業計画の策定・検証
基本的な海外展開戦略ができたら、「いつまでに、何をする」というより具体的な事業計画を策定していくステップになります。
このステップでは、基本戦略に基づき具体的な実行項目に落とし込む段階になりますが、成長戦略(重要成功要因)を実現するための具体的な戦術と、収支計画に落とし込んだ事業計画書を作成します。
このステップでは、中小企業診断士には、事業戦略、マーケティング戦略策定のスキルを活かした計画策定のサポートに加えて、国や自治体、商工会議所、JETROなどの公的支援機関の補助金やサポートメニューの案内や計画への組み込みの助言などの役割が求められると思います。
また、このステップでは、自社で考えてきた戦略や計画が事実とマッチしているか検証することも必要なので、支援機関との橋渡し役となって、自社製品が対象国市場の法令や規制に適合しているのか、自社の仮説を裏付けるエビデンスの収集を行ない、計画の見直しを適宜行っていきます。
5 海外展開事業計画の実施
実施に当たっては、事業計画が予定通り進んでいるかを進捗管理し、必要に応じて、計画を見直していきます。
中小企業診断士には、定期的な事業の進捗評価や事業運営体制の見直しの助言などのほか、行政機関や公的支援機関機関との連携調整の役割が求められると思います。海外展開に当たっては、海外市場の現地調査やバイヤーとの商談会など外国語が求められるような場面もありますが、公的支援機関のサポートには、現地調査や商談をサポートしてくれるサービスもありますので、それらを上手く取り入れながら進めていく事ができると思います。
初めのうちは、支援機関などからのサポートを受けながらスモールスタートして、トライアンドエラーを経ながら実績を徐々に積み重ねて、最終的には、企業自体で自走できるまでにサポートできればと思います。
中小企業にとっての海外展開戦略は3、4年先を見据えた中期戦略となることが多く、じっくりと取り組む姿勢が肝要になると思われますので、サポート役の中小企業診断士もその点を企業様と共通認識を持ちながら、伴走支援することが望まれると思います。
これがベストプラクティスということはありませんので、今後の企業支援の参考になれば幸いです。
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