『三四郎』を読む⑨ なかなか柔道を始めないな…
読書メーターで『三四郎』の感想を読んでいたら、なかなか柔道を始めないな……というものがあって大いに笑ったが、実はこれは笑い話ではないかもしれない。
『姿三四郎』(1942年)は富田常雄の人気小説で、西郷四郎がモデルと言われる。四郎の得意技は「山嵐」、『坊っちゃん』に出てくる毬栗坊主のあだ名と同じだ。『坊っちゃん』の山嵐と西郷四郎はともに会津出身、『坊っちゃん』に出てくる校長のモデルの一部はどうも嘉納治五郎である。そしてどうも『三四郎』には確かに柔術が出てくる。
ここで三四郎が柔術に大いに興味を持ち、広田にではなくこの大きな男に師事し、柔術を学べば、美禰子にも見直してもらえたかもしれない。そのほかあれこれ重宝しただろう。
いや冗談でもなんでもなく、ここでこの柔術家がみみっちい話をしなければ、三四郎はそちらに傾いたかもしれない。与次郎が他流派に進み、ライバル関係となってポンチ投げ、ハイドリオタフヒアを繰り出す。広田が必殺技水蜜桃投げ・暗闇落とし、野々宮が奥義・レイ・プレッシャーを繰り出し、よし子のバーン・バイオレット、美禰子の空中飛行機投げを徹底したのらくらした受け身で躱して、変形三角締め"迷える子"で締めあげられるも、弁当投げ、時代錯誤(へっぴり腰での組み手争い)で切り抜けて、最後は三四郎が必殺技・日清談判(奥襟を取るふりをした実質的なグーパンチ)を繰り出して優勝……。
いやいや、今回は夏目漱石が「なかなか柔道を始めないな……」という感想を持つ人を先回りしてからかっているというお話でした。
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だからこんな本を書いたわけだけど。
【どうでもいい話】
西郷四郎は三男。
石川三四郎も三男。父は五十嵐九十郎である。
嘉納治五郎も嘉納治郎作の三男である。
三四郎は長男なのだろうか。
あ、それと広田萇が何故か坊主って解ってましたか?
与次郎も坊主頭です。
原口さんはフランス式の髭をはやして、頭を五分刈にした、脂肪の多い男なので敵役にちょうどいい。
三四郎は熊本五校出で、「空は深く澄んで、澄んだなかに、西の果から焼ける火の炎が、薄赤く吹き返してきて、三四郎の頭の上までほてっているように思われた」のだから坊主でよかろう。
みんなで柔道をやっても全然おかしくないですよね。
猿になるか神になるか
明治三十年新春の夏目漱石の句である
この句には
という前書きがついている。
これは猿になるか神になるかのきっかけが正月にあるという、大変な気合のこもった句だ。
日々こうした覚悟がなくては、こうした気持ちでいなければ、
人はいつでも容易く猿に落ちてしまうことだろう。
(参)『俳人漱石』(坪内捻典著、岩波新書、2003年)
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