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川上未映子の『黄色い家』をどう読むか② 祝開店 ワカメは野菜か?

 花は牛丼を食べ、カレーを食べる。

 一向に野菜を食べる気配はない。そりゃ牛丼には玉ねぎが入っているだろうし、カレーにはジャガイモやニンジンが入っているのかもしれないけれど、普通は若い女性というものは野菜サラダくらいつけないかという、「普通は」という感覚を試されているかのようだ。

 川上未映子は十七歳の花に牛丼とカレーを食べさせることによって、「普通って何なのさ」と男目線に喧嘩を売っているようでさえある。そりゃ、うちらも牛丼も食べれば、カレーも食べますわ。野菜サラダセット? そんなもん青虫でもないのに葉っぱ食べてどないすんねん、と敢えて牛丼とカレーを選ばせているようだ。

 そしてもう一つ。

 女性人気の高い親子丼、これがなか卯で提供されるのか1994年、東京ではまだ見かけなかった。1969年から開化丼を出す牛丼チェーン「たつ屋」があったが、前世紀、親子丼を食べるとなるとうどん屋かそば屋に入るしかなかった。今みたいに吉野家で親子丼が出てくるなどとても想像できなかった。

 開店準備で用意されるおつまみは「ワカメ」と柿の種。柿の種は解るが「ワカメ」?

 実はここにも頑として野菜を食べないという仕掛けがあるのではないかと思えてきた。

 実は「ワカメ」も「海ぶどう」も野菜とは呼べないかもしれないのだ。

 これは野菜の定義にもよるが、日本では野菜に分類される南瓜は世界的に見ると果実である。

 そして「ワカメ」「海ぶどう」などの海藻類は、そもそも植物ではないとされているのだ。

 原生生物は野菜でありうるか?

 川上未映子は牛丼とカレーで「野菜サラダはつけないのか?」と野菜を意識させておいてワカメを持ち出し「原生生物は野菜でありうるか?」という哲学的問いを投げかけてはいまいか。

 何故なら用意されるのは「ワカメ」と柿の種。柿ピーではないのだ。ピーナッツは野菜?

 実はピーナッツはナッツ(木の実)ではなく、あくまでも豆である。では豆は野菜か。

 これがややこしくて未成熟だと野菜。乾燥していると穀類に分類されるので野菜でなくなる。

 なんだ川上未映子は理科の勉強でもしているのかと考えさせられる第三章だった。

ちなみに今日は野菜の日。


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