これは宇宙で初めて私が発見したことではありませんが、『或敵打の話』は全然敵討ちが出来ない話です。
まずはそこが芥川らしい皮肉、逆説になります。
まずはこうして助太刀の一人、津崎左近が返り討ちに遭います。これは話としてよくできていて、そもそも加納平太郎は人間違いで闇討ちされているので、「うろたえ者め。人違いをするな」と言われて津崎左近は躊躇するわけです。瀬沼兵衛は自分の人間違いをうまく利用したわけです。
これ、数馬のように無言で斬っていたらどうだったかと考えさせられるところです。
そして肝心の加納求馬ですが、
自殺したらあかんやん、と思いますよね。まあ、重荷だったんでしょうね。敵討ちが。とにもかくにも主役がいなくなってしまいました。こうなるともうグダグダです。
結局甚太夫が病死して、敵討ちは果たせずに終わります。なんじゃこりゃという話です。全然敵討ちになっていないわけです。
これだけだとただ賺しの話なのですが、芥川はそのまま終わりにしません。
これが芥川の面白いところです。
まず「四基の石塔」ですが「加納求馬」「津崎左近」「田岡甚太夫」はいいとしてもう一つは誰のものなんでしょうか。敵役の「瀬沼兵衛」? 流石に一緒にしないでしょう。
で、施主は「江越喜三郎」でしょうか。
武士らしい僧形、似寄った老衲子ともに「江越喜三郎」ですか?
私はどうも瀬沼兵衛が生きているような気がします。
兵衛殿の臨終は、今朝寅の上刻が怪しいと思います。午前四時って新聞配達じゃないんですから。早すぎませんかね。何時から付き添っていたんですかね。瀬沼兵衛が生きていて田岡甚太夫が先に死ねば、これが一応敵討ちですかね。まあ、討ってはいませんが討ったようなものです。
これで「四基の石塔」が「三基の石塔」だったり、武士らしい僧形、似寄った老衲子ともに「江越喜三郎」だとすると割と平べったい話になってしまうわけです。松木蘭袋が嘘を言ったと書かないところが芥川のやり口です。そこが曖昧だから面白いのです。
[余談]
へー。