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怪鳥来て雑炊食うや宵の春 芥川龍之介の俳句をどう読むか118

初袷なくて寂しき帰省かな

 島谷洋服店宛の手紙に添えられた句である。

 検索するとなぜかこう表示される。

松風をうつつに聞くよ古袷

 大正六年に作られた袷が大正十二年に古袷となったのかという程度の句である。

  詰まらないのでもう一ついこう。

爪とらむその鋏かせ宵の春

 大正七年一月一日、菅忠雄宛のはがきにある句だ。この句はちょいと面白いと思うのだが、地球人全体から「ふーん」されている。なぜそうするかね。

 ちなみに芥川龍之介の小説で何を読んだ?

 え? 『羅生門』?

 疑問を持って読まないと意味が解らないタイプの作家っているよね。この句にしても、何故

爪切らむその鋏かせ宵の春

 ではないのか?

 と考えると、


常夏 与謝野晶子 著大倉書店 1908年

 これは違う。

水仙を活て爪とる翁哉

 これだ。

三つ人形 寉石 編刊 1862年


虚空 : 歌集 山上丶泉 著かぐのみ社 1930年


香華 平山壮太郎 著非凡閣 1937年


冠句京にしき 信時庵双羽 著山中勘次郎 1903年

 爪をとる、爪とるというんですね。しかしただそれだけではなくて、芥川は七草爪を意識して「爪とらむ」と詠んでいる。

川柳吉原誌 : 江戸研究 佐々醒雪, 西原柳雨 編育英書院 1916年

七草爪とて、今日爪の切始をなす、鬼車鳥來り。好みて人の捨つる爪を食ふ、と云ふ說あり。斯る怪鳥の來らぬ內に、七草を食ひて、災厄を免れんとする意ならん。

神祇に関する問答五百題

京阪は此薺に蕪菜を加へ粥に煮る、江戶にても小村と云ふ村より出る菜を加へ煮る、蓋し薺を僅に加へ餘る薺を茶碗に納れ水にひたして男女之に爪をひたし爪をきるを七草爪と云、
唐土の鳥云々とはやす鬼車鳥といへる惡鳥を攘ふの意なりと諸書に見ゆ。

川柳歳事記 安藤幻怪坊 著成光館書店 1935年

東北では正月六日爪を剪るに對して、播磨加古郡では七草爪と謂ひ、七日に湯を立てゝ入つてから、其年始めての爪を剪る。

歳時習俗語彙 柳田国男 著民間伝承の会 1939年

 別に七草爪なんか知らなくても困りゃしないよという人には運座の趣というのは一生理解できないだろう。ここでなるほどと思わない人は、

二枚爪のはえた如く不安

 の中で生涯過ごせばいい。



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