穴蛇を檀家に配る冬の川 夏目漱石の俳句をどう読むか106
穴蛇の穴を出でたる小春哉
解説に「穴蛇は冬眠していた蛇」とある。
これは難しい。
穴蛇のちょいと出てみる小春かな
これなら解る。
しかし蛇の穴は見えても蛇がいるかいないかは、棒きれか何かで突いてみなくては確かめられない。
つまりそこに穴だけあっても「穴蛇の穴を出でたる」かどうかは厳密には解らないわけだ。すると漱石はいかもの食いをしようと蛇を探して歩いていたのであろうか。
それも少し気味が悪い。
句としては「穴蛇」の「穴」なしでもいい気もする。
出たことは姿で解るので、
穴蛇の寝ぼけてありく小春かな
でもいいわけだ。なんしてもこれからまだ寒い日もあるだろうに、穴を出てしまった蛇も大変だ。
空木の根あらはなり冬の川
川の水が少なくなって腐った木の寝が露わになった……しかしそもそも川に根を張るとはマングローブみたいな木か?
川沿いに生える木というのは柳でも桜でもなんでもいいが、川に生える木というのはちょっと思い浮かばない。
そんな木があるかな?
解説には「空木(うつおき)は幹の中が腐ってうつろになった木」とある。
そしてこれ「卯の花」のことではなかろうか。
根腐れの幹もうつろなウツギかな
しかしやはり「根あらはなり冬の川」のロジックが解らない。
納豆を檀家へ配る師走哉
解説に「古来、納豆は寺院で作られていた」とある。へー、それで納豆汁と仏教が因縁づけられていたのか。
禅寺の納所で作られていたと。なるほど。
これが最初の記録。
なるほどね。
それにしても師走に納豆を配るとは、
坊さんも負けずに走る師走かな
この納豆を漱石はもらえない。檀家じゃないから。
[余談]
納豆は昔藁で包まれていたけれど、今はそんな納豆を見なくなった。明治二十八年の納豆はわらづと納豆だろう。しかしそんなことももう分からなくなるんだろうな。
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