かいとう

 人間は日々の生活の何気ない場面で、突然、究極の選択を迫られる。
 僕はまさに今、その状況にある。
 端から見たらその様な状況には見えないのであろうが、僕の頭の中では、全僕が総動員され、国会なんて比にならないくらいの激しい議論がなされている。

「何を躊躇っているんだ、選択肢などあってないようなものだろ。今すぐ、行動するべきだ。」

「いいや!いくら緊急事態だからといっても今行動することは僕のポリシーに反する!」

「ポリシーがなんだとか言って本当は動くのが怖いだけなんじゃないか?」

「なっ!な、何を言っているんだ!そんなことはない!!はっはぁー、そっちはリスクも考えられないような奴らの集まりなのか〜」

「な!なんだと!」

 おい、僕ら、一回静粛に。喧嘩をするんじゃないよ。頼むから冷静に話し合ってくれ。
 そして、時間がないんだ!早く結論を出してくれ!

はい、話し合い始め!

「このままでは問題は解決しない、行動して後悔したら、それはその時だ。やらないで後悔するよりはいいんじゃないか?」

「……確かにそうだな。…行動しよう。」

 どうやら行動するのがベストだという結論に至ったようだ。ありがとう、僕達。
 それなら僕は行動するしかない。

 初めてのことをするのは緊張する。
 僕はこの瞬間から、少しだけ新しい僕になるのだ。
 目を閉じ、大きく息を吸い込みふぅと吐き出す。やや震える利き手と逆の右手を、アイツの帽子にかけ、ゆっくり取り去る。
 初めて見た帽子の中。綺麗だった。頭は真っ白。
 それもそのはず、大切にされてきたアイツに汚れなんてあるはずもなかった。
 帽子は、優しく机のど真ん中に置く。

 これから僕がしようとしていることは本当に正しいことなんだろうか?こころが少し揺らいでしまう。
 しかし、もう時間もない。
 僕は、こころに少し残った罪悪感と後悔を、間違えた数学の回答と共に、アイツの頭の小さな消しゴムで一気に消し去る。
 その瞬間、頭の中で歓声が起こった。
 歓声をBGMに解答欄と、アイツの少しだけ汚れた頭の消しゴムを見比べた。
 両者とも僕の新しい回答であると、自信をもって言うことができる。

その回答が正しいかはまた別として。

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