憧れを追いかけること

誰かを追いかけて、応援するのは、わりと疲れることだった。

身体に力が入ったらしく、気づけばこぶしを握っていた。だから、終わったときには張りつめていたものが一気にゆるんだ感じがした。

「勇気をもらった」
そんな言葉をあちこちで見かけて、そういう気持ちが湧かなかった自分にはっとする。

素直にそう思える距離より、少し近づきすぎていたみたい。

「やっと終わった」
だらりと脱力するくらいに。

だけど、ふたを開けて、その達成感をじろじろ眺めてみると、私は何もしていない。
当たり前なほど、何もしていなかった。

私は、その人自身でもなければ、サポートしたわけでもない。
ましてやその場で直接応援したわけでもない。

それに気がついて、自分も自分のやるべきことをやらないと、と思えたのは、一週間も経ってからだった。

入り込みすぎていた自分が、ちょっと恥ずかしくなりながらも、そんな人が同じ時代にあらわれてくれたことの、ほんとうの意味の幸運を、やっと思った。

自分の使命のようなものをやりとげることが、たくさんの人を幸せにするんだって教えてくれたこと。

だから、止まったままでいた物語を、再開させた。
まだその人のインタビューも映像も流れていたけど、それを待つのはやめて、私は私自身の物語に戻っていく。

追いかけるというのは、物理的に近づこうとすることでも、情報をいち早く知ろうとすることでもない。

憧れたことを自分に落として、ちょっとでも同じ次元に近づこうすることだと、思ったから。

(たぶん、つづく)

#エッセイ


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