読了感想「骨猫機甲師団」DARJELING FIRST FLUSH vol.3

前回の感想で1年でも2年でも待つと書いたが、嬉しいことにシリーズ最終巻が完成し読者の元へ届けられ筆者も通信販売で入手した一人となった。

作者のhoneさん(@honeneko01)が発表してきた「ガールズ&パンツァー」二次創作作品シリーズ「DARJELING FIRST FLUSH」が完結したわけである。先ずは心からの御祝いと感謝を贈りたい。これだけの作品を描き上げた情熱と愛情、そして忍耐力は本当に見事だ。

感想を一言で集約すると「素晴らしい!」である。

あるいは「生きてて良かった」。

言葉を尽くしてもこの胸躍る高揚感は十分に表せないと思うが、せっかくだから具体的に何が素晴らしかったのか述べたい。

注意・長い。数日頭をひねって推敲したが乱文気味ではある。許せ。


躍動感ある作画の魅力。生きているキャラ。そして戦車!戦車!戦車!!!

honeさんの漫画は基本のコマ割りが保守的というか、奇を狙わず読みやすさを優先した古典的なスタイルだ。作者がよく観て欲しいと思うコマほど大きい。だから大きいコマがあると本当にじっくり見てしまう。楽しく騒がしく賑やかでhoneさんがニコニコしながら一つ一つ描いている様子が目に浮かぶ。プロの漫画家で森薫という人が居る。この人は描くことが楽しくて仕方ないタイプだ。細かな描き込みが苦にならない才能がある。このシリーズを読むと程度の差こそあれ、honeさんも「描く」ことが好きなのだなと思う。

作画の面においては個人的に以下の部分に注目した。

砲塔上に立つケイ。日本で二番目くらいに格好いい。一番はズバット。

市街戦に先立ってチームメイトに行動の自由を許可するダージリンの笑顔。

建物の屋根を飛び駆けぬけるケイはまるで調査兵団のようだ。

爆炎を背に立つケイ。寺沢武一のコブラを思い起こして惚れる!

この文章を3巻未読の人が読む可能性を考慮して後半のいくつかのシーンに関しては説明をボカすが、

二人のアレなシーンが「ダジケイ成分過剰摂取で死ぬ」とか、

最後に助けが来るかって?アメリカなら当たり前でしょ!とか、

射角変じゃない?と思ったら後輪が段差に乗り上げて前傾してる、とか。

どこのページを見ても見所がある。最初から最後まで読者を楽しませようとする仕込みに溢れている。観戦している馴染みの面々、冷静に戦いの推移を観察しているみほ(西住流と黒森峰ではあり得ない予想外の展開に心を躍らせているのが可愛らしい)と興奮で大騒ぎしているエリカ。まだ助さん角さんがいないチョビ(眼鏡チョビいいよね)、プラウダの凸凹コンビ、後に大学選抜メンバーとなるOG達、進級前のペコやローズヒップは発見できないけどどこかに描かれていそうだ。

そして戦車が!建物が!爆発エフェクトが!全部キッチリ描かれている!もう少年エースに載せちゃえ。お世辞関係なく商業漫画家に劣らないクオリティがある。

前回の感想と重複するが、構成の見事さ。

シリーズ1巻は「起承転結」で言えば「起から承」であり背景説明の意味もあって物語が静かな会話を中心として進められてゆく構成になっていた。笑いもあるけどね。

シリーズ2巻は「承から転」に進む内容で動きで語らないダージリンと体で語るケイの対比が見事に描写されている。二人の個性が考えぬかれた台詞と、それを引き立てる静&動で読者を物語に引きこむように演出されていた。

今回の新刊、シリーズ3巻は「転から結」へ怒濤の勢いで突き進むローラーコースターのような構成だ。比喩でなく一瞬も止まらず物語が、絵が、キャラが走るので読者としてはお茶を飲む閑もない。

3巻の序盤は想定外の反撃で混乱するダージリンを、チームを鼓舞しつつメンバーの混乱を収拾するケイの見事な連係でスタートする。中盤は敵を分断し各個撃破を狙う聖グロ&サンダースの鮮やかな反撃で大いに盛り上げ、続く終盤の頭で、西住姉の強みと凄みを手堅く演出した見せ場で試合の行方を予想出来なくさせる。話の流し方が巧い。一進一退の攻防、聖グロ&サンダースと黒森峰。どちらが勝つのか。

個人的には引き分けとなるか、チャーチルを撃破するが圧倒しての勝利を予測していた西住姉が自分たちの負けを認める。こんな感じで予想していた。

完全に外れていた。予想が外れて嬉しかった。本心から。

みんな「戦略大作戦」好きだなあ。オッドボール軍曹の手品、役立つよねとニンマリ。これでいいんだ。こうゆーのでイイんだよと。
なんにせよダージリンもケイも西住姉も高校一年生なのだから、不自然に高等な戦術描かれるより未熟故の過ち…そんな描き方に納得する。若いから。

試合の推移が二転三転し片方が優勢になるともう片方が巻き返す。手に汗握る展開の見本のような作品だった。読み応えがあった。


読者として望んだ結末。

勝敗を描くとなるとみんなハッピーにはなかなか出来ない。ガルパンはそこを最初から上手く描いてきた。負けた側が遺恨を残さない勝ち方。ガルパン二次創作を考える上で最も重要なポイントかもしれない。

「DARJELING FIRST FLUSH」の結末は理想的だ。誰も不幸にならない。それが強引じゃない。なるべくして、この形になったと納得できる結末だから読み終わったときの喜びも大きい。

ガルパンには不幸は似合わない。

描く者の喜びが、作品を通じて読者をも幸せにする。二次創作にはこの「DARJELING FIRST FLUSH」ほどこれを見事に実現した作品は多くない。ガルパンだと本当にこれと「ラップランドの空の下」だけだ。仮に最終章の製作が頓挫しても、この二つの作品があれば生きてゆける…そんな気持ちにさせてくれた。

ハッピーエンド万歳!


総論

「骨猫機甲師団」の「DARJELING FIRST FLUSH」はガルパンファンなら(アダルト描写を欲している人を除いて)間違いなく心から楽しめる傑作シリーズだ。この言葉も前回の感想と重複するが大事なことなのでもう一度言う。

二次創作を読む幸せがこれでもかと詰まっている同人誌。

それが「DARJELING FIRST FLUSH」だ。

類い希な才能を発揮した作者のhoneさんに幸あれ。

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