県立美術館

ハダカン自己啓発論 ー熱量の高い作品鑑賞のススメ

はじめに

趣味は美術館・漫画の多読。
アイドルのドキュメンタリーは号泣するときの酒の肴。

「推し」を持って熱狂的に応援し、
課金をする友人たちも周囲に何人もいるが、
私の熱は低温らしく彼女たちのように
ファン・ヲタクと名乗れるほど自分を高められない。

だから私は自分のことを「夭折の画家フェチ」と呼んでいる。

最近、その自己紹介をすることが増えているので
今回の記事はただ自分がずっと追っかけている
画家について紹介させていただきたい。

私の興味は「太平洋戦争時代の画家」で、
その領域に興味ある人は大学時代の同じ先生に
指示した先輩一人しかお会いしたことがない。

もしお仲間がおられましたらこの記事きっかけに
リアクションいただけますと幸いです。

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推し画家のご紹介**

松本竣介 (本名松本俊介)
1912年-1948年(享年36歳) 東京生まれ 岩手育ち
代表作 立てる像 
寄稿文 みづゑ「生きてゐる画家」(1941年) 

この画家に対するキーワード:
イケメン 戦争 雑誌 聾唖 特高
画家との出会い:
兵庫県立美術館 2010年開催 
「名画100年・美の競演 神奈川県立近代美術館×兵庫県立美術館」展

外見・内面ともにイケメン

代表作「立てる像」(1942年)

卒業論文みたいに修めるものではないのでカジュアルに。
私が彼を好きな理由はただただ、「イケメン」なのです。

ビジュアル? -言わずもがな。
生き方? -好物です。

大学時代、指導教官に卒業論文のタイトルを
「松本竣介はなぜイケメンなのか?」ではどうかと打診をしたが、
あっけなく棄却された。
イケメンという言葉は俗語だが、
現代風の言葉で彼を表現するならふさわしいなあと思う。

高校3年生の夏、期末試験が終わったあと学校から歩いて美術館に行った。
狙いは岸田劉生の麗子像(教科書によく掲載されている絵画)だったが、
ふと、一枚の自画像の前で足をとめた。
これまで見た自画像の中で「顔整っている絵だな」と認識した作品だった。

絵画に惹かれ、ガラケーですぐ検索した。
Wikipediaには13歳のころに流行性脳脊髄膜炎により耳が不自由になって、36歳で亡くなった画家だと記載があった。

彼の生前の作品を見ると、画風に対して多くのチャレンジも行われている。

海外に渡航もしたことがない画家だが、当時日本の画壇のトップの地位にいたフランス渡航経験のある藤田嗣治(オダジョーがこの人の役で主演はってた)と同様の西洋絵画の技法をものにしていたという。
また、読書家で松本が持っていた書物リストは画集、西洋哲学 多岐にわたった。

そして画家としての才もありながら、
同時に彼はその時代を模索して生きた市民だった。

戦時下に、絵画は国のために書くべきと主張した軍部の雑誌記事を見て、
それぞれ画家は自分たちのために作品を書いているとし、
戦争協力を説く意見に反論をした。
画家仲間の徴兵をされていくさまを見送ったこと、
特高に中井駅のあたりで張られたことも知った。

軍国主義に時代がシフトしていく中、いろんな人が悩みながら生きていた。
正しさという概念が歪曲していった時代に専門誌とはいえ、問題提起を公にしたのだ。

批評の世界で戦後直後の誰もが戦争という過ちを反芻した時期には「英雄」としてたたえられ、
戦争の影が遠のいた時代には「市井の人」のように紹介された。

彼の評価、紹介の仕方はどんな社会に日本があったか、どんな思想にその人がなっているかというムードによってきまっていたと私は思う。

また、終戦後かれは美術家組合を発起しようと奮起する。

本業で才能があって、オピニオンリーダーであった彼を現代で例えるなら誰になるだろうか。
日本の芸能界なら芸能人の労働組合を作ろうとしている小栗旬だろうか。

そんなこと踏まえて、かれの代表作「立てる像」を見てほしい。
どこか遠くをみていて焦点のあっていない目、灰色に覆われた空、それでも握りこぶしで立つ姿。

格好良くみえませんか?

あの時代の画家

太平洋戦争の前、戦時中、戦後、多くの人は悩む。悶える。
生と死とのはざまで答えのない問いをたくさん紡いでいる。

明治になり、西洋の絵画が入り、美の基準が変わる中、少ない教えと材料で貪欲に吸収し、自分の美を描いていく。

こんなエネルギッシュさ、現代にあるだろうか。
ただただ、エモいな、と私は思ってしまうのである。

ただ人生に対してモチベーションをあげたい、
自分の意識改革をインスタントに行いたい、
だけど、叱咤激励しながらも肯定してくれる自己啓発本やセミナーでは効果がなかったという人は1930年代、40年代の若い画家の作品を見てみてほしい。

荒々しさと試行錯誤がキャンバスから感じられ、その重厚感に心が動かされると思う。
そして、彼らそれぞれの生きざま自体も刺激になる。

時流にのることにも様々な苦労がある。
のらざるを得なくてのった場合もしかり。
ただ、その時流そのものを問うことのできる人は、それを公で表現できる人はどれほどいるのだろうか。

とりわけ協調性、共感性、団体主義。
そんな言葉をときによくも悪くもONE TEAMっていう
はやり言葉でコミュニティで力ある人が
さくっとまとめてしまおうとするこの現代でも多くはないだろう。

ときどき、いまの自分は時流にのれているかではなく、波に負けず地面に立てているか、を自問自答する。
10年前に600円で行った美術展の1枚の絵画が、自分の意思決定の指針になっている。
コスパのよさったら。

熱量の高い絵画作品を鑑賞するというのも、ヲタ活、自己啓発にぜひ加えていただきたい。

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