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最も大きく最も深く最も痛い深呼吸

切っても切れない嗜好品として僕には漫画と煙草がある。そこに小説と詩が入らんのかい!ってなりそうだけれど、絶対にないと生きていけないのはこの二つだと思う。酒も好きだ。特に日本酒が好きで、一時期利き酒にはまっていた。けれど僕にとって酒は誰かと関わる/付き合うために必要なツールといった意味合いが強く、病気で死期の近づいてきた祖父と語らうためであったりだとか、緊張を解すためだとか、友人と本音トークをするためだとか、といった場で「楽しくゆっくり長く且つ気持ちよくのめる飲料」を探した結果でしかなかった。今や祖父はいないし、友ともほぼほぼ会うことはない。飲むとしても一人酒だ。少し飲めればいいのでそこまでの拘りはない。しかも薬を飲んでいるので多量の飲酒は禁忌とされている。ちなみに僕は酒で記憶を飛ばした経験が今までに二回ほどしかない。かなり若い頃に無茶をして飛ばしたのだが、その感想として思ったのが「勿体ないな。」だった。折角用意された場での有意義なはなしも、滅多に見ることの出来ない様々な人々の意外な一面も、一夜にして忘れさってしまうのは非常に勿体ないと、思った。(それら込みで酒の場というのなら、はなから向いていないのかもしれない。)
いつからか僕は酒にはひどく慎重になった。饒舌にはなるし、結構ぶっちゃけてしまうものの基本覚えている。忘れているとするならばそれはむしろ場に緊張しているからだと思う。もうひとつ慎重になった理由として、DRAG&ALCOHOLという分かりやすいラリるれろを楽しんでいた時期があり、病状のひとつにあった自傷癖や過食の悪化、誤食などから何度もピーポー&ピーポーでカルテに最初についた病名?が疾患名ではなく「薬物、アルコール依存症」だった、というのも関わり方を見直した原因のひとつである。
僕にとって酒は毒でしかなく、少量摂取することで過去の時空一歩手前の思考を呼び起こしおセンチに浸ったり、何処かノスタルジックな風景を想起させて創作に活かせることもあるが、それ以上でもそれ以下でもない道具でしかなく、必需品などではないのだ。
では煙草はというとそういう訳にもいかない事情というものが僕に限ってはある。僕は全くじっとしていられない人間でずっと座っていることが苦痛だし、多弁で、黙っていることが地獄だ。電話をする機会がありがたいことに増えたが、本来ならば家中を歩き回らないと会話なんて出来ない。(ダイエットにはなるかもしれないし、そう割り切ってしまえば案外じっと出来るのかもしれないがそう思うことを考えることがまた酷く苦痛である。)そういった時に歩かなければ、という思考をリセット及びキャンセルするのに最も適しているのが煙草である。煙草を吸い終わってしばらくすればまた歩き回ろうとするし、冷蔵庫をやたら開け閉めするし、飲み終わってもいないコーヒーがあるのにコーヒーをどんどん新しいコップに入れていくのでやはり煙草を吸う。チェーンスモーカーである。
世の中の嫌煙は凄まじい勢いで進んでいるが、僕から煙草をとってしまうと、うろうろするだけでなく電話以外での他の癖も戻ってきてしまう。それを一言で記すならば「悪い拘り」だ。
例えば名残として今残っているのは、リモコンのボタンを全部押さないと、ゲームの十字きーをぐりぐりしないと、パソコンのキーボードを無駄に押していかないと、気がすまないだとか、思いついた悪行(破壊、自傷、OD)が脳内から剥がれず何も手につかないからいっそ実行してしまおうとする、だとかである。幼少時代は本当に酷く、人の家のコンセントを全て抜く、小さな玩具を撒く、立ち入り禁止エリアを開放する、火をつける、畑の野菜を食う、電車の緊急停止ボタンを押す、など親はずっと頭を下げていたし、普通に考えて懲役MAXだったと思う。落ち着いたのは小学四年生ぐらいだったろうか。それまでは決めたらやる、やらねば死ぬ。であった。
今でもその名残は僕を苦しめているし、それらの二極思想が周りから見て僕を中立的っぽく見せているようにも思うが僕自身はごりっごりに何かしらにふりきれているので、真ん中なんてのはないと思う人である。故、仲の良い人だって少ないし、今の人間関係がそれを物語ってるんじゃないですかね。
ともかく僕にとって煙草はそれら様々な行為や思考を手軽にキャンセル出来る手軽なひとつの行為、もっとも重たくしんどい深呼吸だと思っている。何れ、日本国内では煙草を吸えなくなるような気がする。ここら辺にはマナーだとか日本って国の人特有の集団的な意識とか、そもそも歴史とかあるだろうけれど、それはもう止められないし止まらないだろうから、吸えなくなったら諦めて代わりを探すしかないんだろうな、と思っている。
それが書くことであればこの上ない喜びだけれど、恐らくそうではないだろうし、今現在既に迷いの中にある。そこで登場するのがきっと「漫画」なんだろうなあなんて考えてはいるけれど、それはまたそれであまりにもベクトルが違いすぎるので、また別の機会に記せれば記したい。

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