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再生不良性人間 act2

終わりのはじまり

小さな頃から、褒められるのは得意だった。
『褒められる』と言うことは、8歳の私にとって、上の者から下の者へ、力関係を表す物差しみたいなモノだと思っていた。
上様たちの顔色を常に伺い、行動をするのはさして苦では無かった。そうした方が色々と滞りなく生きていけると信じていたから。
そんな考えは小学校5年生に上がる頃にはほとんどと言っていいほど変わっていた。

私の小学校では奇数の学年になるとクラス替えがある。少子化がどうのこうの叫ばれ出した初期のことだったからかなのかは分からないが、各クラス30名前後、2クラス、1学年でも60名前後だった。全校生徒でも360名弱。
近隣の小学校は各学年3クラスずつあったので、この地域では比較的こじんまりした学校だった。
それはそれで、良い部分の方が多かったように感じている。「あれ、あいつだれだっけ。」「見たことあるけど喋ったことないんだよな。」とかそう言った類の言葉は小学校内では使った記憶はぼぼないからだ。
だいたいお互いをなんとなく分かっている、そんな学校生活だった。
それがクラス替えで一変することになる。

4月初旬。
校門脇に1本しかない桜の木を横目に、朝の挨拶担当の先生からピンク色のクラス割当の紙を受け取る。
3-2。
そこに私の名前はあった。
そのピンク色のA3用紙には、5年生2クラス分、3年生2クラス分が纏めて左右にプリントされていた。あいうえお順で男女別に上から印刷されている。
ふと気付いたことがあった。
あいうえお順で羅列されたその表の1番上には、担任の名前が書いてあったのだが、私のクラスには、この2年間の学校生活で見た事も聞いた事もない女性の名前がそこにあった。

2年生までは2階の教室だったが、3年生になると3階の教室になった。わくわくしながら新しい教室に入る。私のクラスは男女ともに腕白が多いクラスだった。
そして、待ちに待った未知との遭遇。

「みなさん、おはようございます!」

腕白どもを沈黙させる程の声量で、その女性教師はパワフルな挨拶をした。

「今日から皆さんの担任になりました!これから一緒に学んでいきましょう!」

新任のiはその後、しっかりめの自己紹介の後に朝の学級活動を開始した。
同じ都内の西側の小学校からの異動であること、ダーリンは現役の力士であること、子供は3歳の男の子がひとり、夫婦揃って野球大好きで読売巨人軍命、そして年齢はピチピチの18歳らしい。

朝の学活が終わる頃には、iの登場まで割烹着が入った袋をボールに教室でサッカーをしていた男子達も、高速アルプス一万尺でフリースタイルバトルを繰り広げていた女子達も、9回裏にサヨナラホームランを打たれたピッチャーみたいな顔をしていた。


サヨナラ負けならまだ良かった。
この後、私はiにコールド負けを喫し続ける。

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