グループワーク 自分の能力をデザインする
大学院の授業で、「コンピテンシー」について考えるワークを頂きました。
お題としては、5年後の自分をイメージして、より優れたリーダーとなっている自分がもっている行動特性(コンピテンシー)を特定し、それらにおいて目標とするレベルで行動できるようになるための能力開発計画を策定する、というようなもの。
気になったコンセプト
スタンフォード式 人生デザイン講座
参考文献として、Bill BurnettさんとDave Evansさん共著の、"Designing Your Life: How to Build a Well-Lived, Joyful Life"「スタンフォード式 人生デザイン講座」が挙げられています。
これについては、ともかく優秀なビジネス系YouTubeチャンネル Pivotによるインタビューが素晴らしい。
基本的なコンセプトは、プロダクトデザインの考え方(観察して課題を理解し、仮説を立案して立証方法を検討し、解決案をプロタイピングして検証する)を、キャリアのデザインにも生かして、よりよい人生を創り出していきましょう、ということですね。なるほど、幸福な人生をデザインしよう。
好奇心を持つこと
自分の頭で考えること
摩擦を恐れない事
この原則を忘れずに、同僚に興味を持ってサポートし、少しずつ変化を作って観察し、怖がらず試す事で新しいアイディアが湧いてくる、このようなループを作っていって、小さく試しながらサイクルを回していく。小さな変化を見つけていくことで人生は豊かになる。
また、日本の企業においては「アンカー問題」が課題になっている。今の仕事には満足していないが、辞めたくはない、という割合が非常に高い。これは、二者択一に囚われて、行き詰って変化できなくなってしまっている状況。そういう時は、現状を受け入れた上で、どちらかを選び、その文脈においてアイディアを出して少しずつ変化のサイクルを回していく。
仕事上の3つの主要な欲求は
自立性「自分に一定の権限があると感じたい」
関係性「同僚やクライアントとのチーム感を味わいたい」
有能感「自分の能力を伸ばしたい」
このような欲求を少しずつでも達成していくことが重要だとすれば、それを日々認識して、少しずつ意識づけ出来るようにデザインすればよい。例えば、「グッドワーク日誌」をつけていく。
そのように、現状をもとにでも未来をデザインしていけば、二項対立的な課題の捉え方を「枠にはまっていた」と気づくことが出来て、問題を捉え直す(リフレーミング)することが出来る。好奇心を外に向けていって、新しい事を始めてみれば良い。
シリコンバレーでは一時、「直せないなら、それを特徴にしろ」という格言が流行っていた。問題を良い事に変えてしまえばよい。
また、対立を望まず、しかし丁寧な日本の分化では、傾聴力・共感力を発揮して、ディテールにフィードバックする事が重要かもしれない。良い褒め上手として、注意深く具体的で細かいフィードバックを与えられるような人になるのが人気者になる手段の一つかもしれない。
なるほど。ここは認知行動学的な所もあると思いますが、新たな意味を系統立てて獲得する、みたいなデザイン手法を人間に適用する面白さ、ありそうですね。
コンピテンシーモデル
企業人材を考える上では、企業にとって成果を挙げる人って、どういう行動特性を持っているのだろうか、という事を深堀して考えるようです。要するに、成果を挙げる社員(ハイパフォーマー)のモデルを作り、それを評価できる項目と具体的な指標に分解していくことが出来れば、人事査定や採用の場面などで、より適切に能力の評価や適切な採用に繋げられるのではないかと。
分かりやすく具体的な記述を探したのですが、PERSOLグループの人事アセスメントを扱うミイダス社のオウンドメディアの記事がいい感じでした。
この分野の原点は、「コンピテンシー・マネジメントの展開」(スペンサー・スペンサー)という書籍のようです。この書籍によるコンピテンシーモデルとして
達成・行動
援助・対人支援
インパクト・対人影響力
管理領域
知的領域
個人の効果性
というような分野が挙げられており、これらの項目から組織が求める行動様式をピックアップして、実際の項目を定義していく手順となります。また、それらの項目の評価基準として
受容行動 - 言われたことを言われたときにやる
通常行動 - やるべきことをやるべきときにやる
能動行動 - いまある状況の中で、工夫・明白な意図のもと選択してやる
状況変容行動 - 状況を変化させるため、独自の行動・独創的行動を行う
状況創造行動 - まったく新たな、周囲にとって意味ある状況を作り出す
このような形で判断していくことになります、と。このような評価手法は、客観評価にも用いる事が出来ますが、大学教育などで自己評価に繋げている例もあるそうです。
確かに、同じ軸で評価を行う事が出来るという価値もあると思いますが、それ以上にコンピテンシーと評価軸を定義していくことで、求めている姿をよりよく理解する事が出来るというメリットがありそうです。
目標達成手法としての「原田メソッド」
野球の大谷翔平さんは、今や世界に名だたるトップアスリートとなっています。彼のモチベーション構築については、様々な論説があります。
ここでは、タル・ベン・シャハー博士のポジティブ心理学が出てきます。4つの幸せモデルは、「至福型」「快楽型」「出世競争型」「悲観型」に分けられると。
この4象限において、第一象限が至福型である、と。うーん、なんか軽薄な感じがします。
自分自身をデザインする前提に立った場合は、まず原点は今の自分です。生まれた時から自分をデザインし始めることは出来ないのですから、なんらかの遺伝要素と、環境要素を重ね合わせて一定の時間が経過した結果の今があり、その上で何等かの目的意識をもって変化をさせて行きたい。大谷さんだって、野球少年だった時の未来を変えていこう、という意思がスタートラインにあるわけでしょう。
とすると、重要なのはこっち。原田隆史さんの創案された「原田メソッド」の手法の一つ、達成するための具体的なアクションや必要な知識やスキルなどを洗い出す曼荼羅チャートの一種ですね。これは、目標に向かってのアクションを創発する一種の強制発想法に見えますね。
明らかな事は、上記の大谷さんの曼荼羅を見て、野球少年が一心に取り組んだとしても、大谷さんになれるわけではないということです。ノートが凄いのではなくて、大谷さんが凄いのであって、大谷さんがキャリアをデザインする為の助けとして手法が役に立ったのかと。そういう意味において、目標達成に対する再現性を高めるデザインプロセスということなのかと。
自分なりの考え
目標は重要なのか?
そもそも、人生の目標とは何なのか?
私は人生に目標なんで全然感じられないし、意味も良く分からない。正確に言うと、そのことを考えると胸が「きゅっ」と締め付けられて、未来に対する不確かで不安なイメージでザワザワしてしまいます。
結局は、幸福に暮らす事なのかと思います。
その為には、社会生活に満足する事も重要だし、健康的な生活環境に身を置くことも大事でしょう。でも、能動的に幸福を求めていくとしたら、幸福をデザインしていく必要がある。その為に何をしていったら良いのか、少しずつ好奇心を持って試していく。
その上で、個人の幸福と社会的な自己実現を両立していきたい。ここでもう一度、人生デザイン講座に立ち戻ってみます。
自立性「自分に一定の権限があると感じたい」
関係性「同僚やクライアントとのチーム感を味わいたい」
有能感「自分の能力を伸ばしたい」
この3つの要素の人生における重要性って、結構一般的な予感がします。縄文の時代だって、狩猟を構成するチームとの力関係を調整しながら、それでも一日・一年の中での様々な生き抜く行動の主導権を感じ、安定した暮らしが出来るように上達していく事は喜びだったに違いない。
私はどうも、目標は重要ではない、という立場を取りたいようです。
能力開発は重要なのか?
そもそも、なんのために自分の能力を成長させたいのか?
ここから先は、現時点での私のふわっとした考え方なのですが、つまるところ人生を幸福に過ごしていくには、社会が「まとも」であることが欠かせません。この場合の「まとも」とは、社会の構成員全体の意思として、妥当な選択と行動が出来ていること。これが無いと、構造的に幸せから遠ざかる事になります。
この、自分が思う「まとも」に自分や社会を近づけたい、という根本的な願望を叶える方向の行動や知識、そしてそれが企業や行政システムの中で立ち振る舞われるときの期待感とのマッチング。
自分の人生をデザイン インサイドアウト(自分中心)
組織のアウトカムに繋がる人材をデザイン: アウトサイドイン(組織中心)
これらがマッチングされていく事が社会全体の価値向上につながるってことなのですかね。今日の調査文脈での「コンピタンシー」というのは、どちらかという組織要求(後者)の視点ですが、人材のマッチングも市場として考えたら、顧客は「自分の人生」をデザインしたいと思っているわけで、当然組織が求めるコンピタンシーには、顧客意向を反映させる必要がある。
適当な分析とまとめ
経営学の視点から見て、組織のアウトプットを高めたいのであれば、構成する従業員に対して、どのような人材であって欲しいか明白にしていく事が必要(コンピタンシーモデル)。
しかし、マッチングを図る人材市場においては、従業員の候補は自身の幸福を求めているわけで、そのデザインを加味する事が必要(自律性・関係性・有能感の達成)。求めるコンピタンシーが、従業員候補のデザイン方向性に合致すればするほど(こういうと身もふたもないですが)低コストで人材を採用する事が出来る(逆に言うと、ここのマッチングが図られない仕事は高給で雇ったり、構造的に搾取したりしないといけない)。
幸福論からコンピタンシーを考えさせる授業の意図が少し分かった気がします。人類全体の価値を高める為には、全ての組織は、個人の幸福デザインを加味したコンピタンシーをもって組織を組み立てていく事が合理的で社会正義に叶うということですね。