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日本語の特徴だと思っていた連濁や連清の原理はフランス語にもある?!

(はじめに)


 
日本語の特徴として、2つの単語が一つの単語として意識されると、連濁という現象が起こることは、多くの人が、詳しい文法を知らなくても、「山(やま)」+「田(た)」が「山田(やまだ)」となることの例から、直感的にすぐわかると思います。私は、連濁という現象は、日本語の特徴だと今まで信じて来たのですが、どうも、最近フランス語を習っていて、ほとんど教えて貰ってないけど、フランス語にも連濁の原理があるんだと、最近、気づき、大変面白いと思いました。それで、日本語の「連濁の原理」と「連清の原理」から、フランス語にもこのような原理が働いていないだろうかと、調べてみようという気に成り、以下のように調べてみました。そして、大変面白い事に気が付きました。フランス語にも連濁や連清の原理があるようですね。
 

(1)先ず、日本語における連濁と連清の原理について見てみます


 
(1-1)日本語における「連濁の原理」
 
日本語の連濁の原理は、下記の例で直感的にすぐわかると思います。下に数例を挙げてみます。
  山田        やまだ 
  色紙        いろがみ
  大船に乗った気持ち おおぶね
  望月        もちづき    
  小走り       こばしり
 
(1-2)日本語における「連清の原理」
 
日本語の文法の本には「連濁の原理」は載っていますが、筆者の知る限り「連清の原理」は載っていません。筆者独自の命名です。でも、下記の例を見てみると連清の原理というものあるようです。
  水底(みずそこ)    →     みなそこ
  水口(みずくち)    →     みなくち
また、日本語では、外来語で濁音の清音化が起こりやすいといわれています。
たとえば、
  阪神タイガース(Tigers)  ←    タイガーズ
プロ野球チーム「阪神タイガース(Tigers)」とみんないっていますが、英語ではタイガーズが 正しいです。
  ビックマック(Big Mac)  ←    ビッグマック
また、ビッグマック(Big Mac)を、ビックマックという人が多い、などです。
 
このように、日本語では、「連濁の原理」と「連清の原理」が働くのは、二つの単語が別々ではなくくっついて一つの単語と認識されるときに、連濁や連清が起こるようです。
 
 

(2)次に、フランス語における連濁と連清の原理について見てみます


 
(2-1)フランス語における「連清の原理」
 
今日(2018年12月2日)、フランス語を勉強していたら、今までちっとも気づいていなかったフランス語の清音化に初めて気づきました。
 
Il est absent aujourd’hui. (= He is absent today.)という例文を、CDでその発音を聞いていたら、イレタプサン/オジョデュイ と確かに発音されています。イレタブサンと濁らないんだと、不思議に思い、何度も聞いてみてみましたが、濁っていません。今まで、無意識に英語と同じつづりなので、アブサンと発音していましたが、違うらしいです。それで、今日、詳しく調べてみました。私のフランス語の辞書の前のほうに綴り字と発音の詳しい説明があるのですが、そこを読んでも全く、そのようなことは載っていませんでした。そこで、詳しいフランス語文法の本を見てみると、この本だけには、わずか1行、b+sは[p]になるとありました(目黒ら、「新フランス広文典」、白水社p.33, 1985)。もっと詳しく知りたかったので、インターネットでも調べてみました。
 
そしたら、http://www.akenotsuki.com/latina/litterae.htmlに、ラテン語のつづりと発音について解説があり、この解説から、ラテン語ばかりでなくフランス語でも「bs/bt の清音化」という現象があることがわかりました。それで、この解説と自分のフランス語辞書からくまなく単語を拾って、次のようにまとめてみました。
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フランス語bs/bt の清音化の解説
 
フランス語では、例外的に bs/bt という並びのつづりは、まるで ps/pt であるかのように発音する。つまり、bsとbtのつづりは、[ps]と[pt] にそれぞれ発音する。これは後ろの S/T の影響で B が無声化したものである。(日本語で言うところの清音化が起こる。)
 
bs→psの例
absent, absolu, absolument, absorber, abstraction, abstraire
obscur, obscursir, obscurité, observer, obstacle
 
bt→ptの例
obtenir, obtention, obturer, obturation
 
以上の例はラテン語からの影響です。
 
・その他フランス語のおける「連清の原理」が働いている例
 
     grand ami  グランタミ   d → t     
     long été    ロンケテ     g → k     
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以上の例から、フランス語にも「連清の原理」があるようですね。
 
(2-2)フランス語における「連濁の原理」
次に、連濁の原理が働いているかどうか調べてみます。
下のフランス語のおける「連濁の原理」が働いている例を見てください。
                 les amis      レザミ       s → z
                 dix amis  ディザミ    x → z
                 neuf ans  ヌヴァン    f → v
 
この連濁はリエゾンによって起こっています。
リエゾン(連音)がなぜ起こるのかというのを、私が知る限り、フランス語の文法書には一切書いていないのですが、その原動力は、「フランス語では、単語一つ一つを発音するのではなく、リズム節というまとまりを、まるで一つの単語のように一気に発音する」ということから、リエゾン(連音)が起こっていると考えて差し支えないと、思います。そこで、私が、気が付いたのは、フランス語でも、日本語と同じ原理が働いているときに連濁が起こっているということです。日本語では、2つの単語が一つの単語として意識されると、連濁という現象が起こります。既に一番上に挙げた例ですが、「山(やま)」+「田(た)」が「山田(やまだ)」となることから、すぐわかると思います。
 
フランス語の文法の本には、私の知る限り「連濁の原理」や「連清の原理」という名称では、書かれていませんが、私には、フランス語にも、日本語の特徴だと思われていた「連濁の原理」や「連清の原理」が働いている例が確かにあると、以上の考察から、思う様に成りました。なお、連濁の原理がある言語は、どうも日本語、韓国語、トルコ語など膠着語族の特徴の様ですが、どうしてフランス語にもあるんでしょうかね。さらに、フランス語は、なぜリエゾンによる連濁が起こるのかは、きっと、ローマ帝国にガリアが飲み込まれてフランス語が成立する時に、原住民のガリア人のもともとの言語の影響でそうなったのではないかと、私は想像をたくましくしています。
 

(おわりに)


 
以上見てきましたようにフランス語においても、「連濁の原理」と「連清の原理」が働いているようです。これは日本語における「連濁の原理」と「連清の原理」にそっくりです。フランス語でも日本語でも、同じような連濁や連清があるのが面白いですよね。
もし、読者諸賢の皆様の中で、フランス語と日本語を比較して、連濁や連清を論じた学説が、今までにすでにあるようでしたら、ご教授いただければ大変嬉しいです。
 
*なお、冒頭の地図は、膠着語族のウラル語族とアルタイ諸語の分布図です。下記のウイッキペディアから引用させていただきました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%A0%E7%9D%80%E8%AA%9E
最終更新 2022年2月24日 (木) 07:42
 
 
2018年12月2~3日 随筆
2023年5月18日 加筆

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