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創作とは、自分の経験をどのように切り取り、どのように表現するかである。~キイチビール & ザ・ホーリーティッツから考える~

個人的に、いま注目しているバンドがあります。
"キイチビール & ザ・ホーリーティッツ"です。※『いまさらかよ!』と思う方も多いと思いますが、ご容赦ください!

注目の理由はたくさんあるのですが、折角なのでまとめてみました。

【僕がキイチビール & ザ・ホーリーティッツに注目する理由】
①フロントマンのキイチビールが、自分と同郷である。
②楽曲の中に、"キイチビール"という人間が見える。
③演奏のメリハリが、感情の表現を兼ねている。
④キイチビールが現在活動休止しているが、そんな中のバンドの現状のバランス感が興味深い。

ざっと、こんな感じですかね。音楽好きはもちろん、『なんだかやる気が出ないなあ』という人や、それぞれの背景の中で『モラトリアム期』の人に、是非聴いてほしいバンドです。背中押されますよ!

と、いう事で、上の4つの注目するそれぞれの理由について、ゆるーく書いていきます。

①フロントマンであるキイチビールが、自分と同郷である。

キイチビールさんは、岩手県の生まれです。そして、私も岩手県出身です。
※ところで、キイチビールって、良い名前ですよね。
どの県の人も同じだと思いますが、岩手県出身者は岩手県出身者にシンパシーを感じるものです。

ちなみに、僕は内陸出身者なのですが、キイチビールさんは、恐らく沿岸部の出身なのではないかと思われます。

↑「透明電車が走る」
昔は確かに存在していたが、今は流されてしまったり、無くなってしまった街の景色が、鮮明に描かれています。
キイチビールさんは、あるインタビューで、この曲について↓のように言っております。

そうですね。ちょうど里帰りした時期で、その後、東京に戻ってきてから書いた曲なんです。高校のときに通学してた汽車が今はもうなくなってしまったことがきっかけなんです。JR大船渡線っていう線があるんですけど、それが一ノ関駅から盛駅っていう、地元の最寄りまで走ってるんですね。気仙沼までは走ってるんですけど、気仙沼以降は線路が流されちゃったんで、今、その線路があった場所に専用道路みたいのができて、その上をバスが走ってるんです。BRTってシステムらしいんですけど、それに変わってすごく寂しくなっちゃって。それで終電後の列車が走ってない下北沢の感じと合わせて、その上を幻想の電車が走るみたいなテーマで書いたんです。後、高校生の時の恋愛とかちょっと思い出して。その時の割としんどかった出来事とかを思い出しながら書いて、っていう、曲を作ったがゆえにいろんなことがボンボン脳内に浮かんできたのを、まとめないでそのまま歌詞にしたことでできた曲です。

この曲、脱力感はキイチビール & ザ・ホーリーティッツ的なのですが、"這いつくばってもっと踏ん張れ"という歌詞があるんです。その歌詞の魂の入り方に、心が震えるわけです。はい。

②楽曲の中に、"キイチビール"という人間性が見える。

全体的に、人間臭い曲が多いんですよね。良い意味で高尚すぎないというか、日常の中の一コマを切り取って、その瞬間の感情のゆらぎを作品にしている気がします。だからこそ、『あ~、わかるわかる』と共感できる曲が多いですし、説教臭くないから、『明日からも頑張るか』と少しだけ背中を押してくれるんですよね。

↑「世の中のことわからない」

朝が来るたび思う 夜の間に何か起こってたの
昨日はどこで遊んだのか 誰と楽しく笑ったのか
知らなくてもいいことばっかりを 気にして
会い足りないけど会えない 物足りないような日があっても
たまに会えるからいいんじゃない それはそれで
世の中のことわからない だけども君のそばにいたいよ
おこがましいかもしれない けど思うよ

「世の中のことを知ることも大切だけど、自分を知って素直になれば良いじゃないか」という、ソクラテスのような哲学性です。高尚ではないけど、キイチビールさんの思考の軸がはっきりと読み取れる歌詞ですし、これも何だかキイチビールさんの経験値が曲になっているニオイを感じます。
だからこそ、自分の経験と重なってぐっと締め付けられる曲です。

③演奏のメリハリが、感情の表現を兼ねている。

演奏の心得がないので、個人主観ですが、フロントマンのキイチビールさんはもちろん、バンドのチームワークが良いなあと思います。

↑「トランシーバ・デート」
イントロのゆるーく始まるベースに伴われて、キイチビールさんの歌いだしもやわらかく始まります。キイチビール & ザ・ホーリーティッツらしい、ゆるくて平和的な曲なのかなーと思いきや、間奏の不敵なギター音から盛り上がり、大サビの"バンドマンでもいいならさ"のボーカルのシャウト感と、リズム隊の強さ、ギターのノリの良さ、コーラスのダメ押しと、チームでの総合演出がされていて、『ライブで聴きたいなー』と心から思う一曲です。

④キイチビールが現在活動休止しているが、そんな中のバンドの現状のバランス感が興味深い。

恥ずかしながら、僕も今年に入ってからキイチビール & ザ・ホーリーティッツを知ったのですが、現在キイチビールさんは少しお休みをしているようです。
なので、現在はコーラスを担当していたKDさんがフロントマンをしております。
※↓最新のアルバムがこちらです!↓

個人的に、1曲目の「ときのほうがく」という曲がポイントだと思っております。
部外者が憶測を飛ばすのも微妙なのですが、キイチビールさんの活動休止によるメンバーの一連の感情のゆらぎ、『戸惑い、迷い、後悔、決意』がストレートに表現されていて、新体制の最初のアルバムのトップバッターとして、これ以上の曲はないんじゃないかなあと思っております。

で、新体制で活動するにあたりの諸々の思いについて、KDさんが語っているインタビューが泣けるんですよね。

↑のインタビューで、個人的にグッときたポイントがふたつ。

「このメンバーでやると、こういう音になるんです。キイチ君だけがこのバンドらしさを持ってると思ってたんですけど、自然と他のメンバーにもこのバンドらしさがあったんですよね」

そうなんですよね。キイチビールさんは今は居ないんですが、楽曲は紛れもなく『キイチビール & ザ・ホーリーティッツ』を感じるんです。それは、音の作り方的な話もあると思うのですが、やはりこのバンドの本質は、
日常の中の一コマを切り取って、その瞬間の感情のゆらぎを作品にしている
ということだと思うんですよね。"ネガティブもポジティブも、正直に書いて鳴らす"という軸が、このメンバーでの『キイチビール & ザ・ホーリーティッツ』の表現につながっていると感じました。

「未だに何をしているんだろうって話しますし、本当に戻ってきて欲しいですけど、前以上のやる気というか、絶対にやりたいと思って戻ってきてくれないのなら、長めにお休みしてもらった方がいいのかな、とも考えています。何か本当にわかんなくて…。やってくれそうな気もするし、やらなさそうな気もするし…。うちらの事をよく思ってないのかなとか、いろいろ思って…。サラっとケロッと私はやっているように見えるかも知れないですけど、『キイチ君がいなくてもやれますよ』ではなく、いつでもキイチ君の事を考えているし、こうなった以上はやるしかないというだけなんで。バンドっていろいろなことがあるので、長く見ると歴史の一部というか。キイチ君が戻ってきたら、パワーアップして、完成なのかなって。キイチ君可愛いんですよ、だから許せちゃうというところもあって。とにかく、ここで終わりたくないんです。キイチ君はロックスターっぽくて、むっちゃヤバくて、特殊人物なんで、そういう変人に付いて行くには、まだまだバンドが途中なんですね。だから、ここで止まるなんていうのは考えられない」

もうひとつの、グッときたポイントが↑です。
キイチビールさんへのメンバーの愛を感じます。(涙)
そうなんですよね。この4人体制でも完成度はめちゃくちゃ高いんですけど、やっぱりキイチビールさんがいると、表現の幅が違うんですよね。

『ドラゴンボールで、誰が1番強いと思う?』という議論をしているところに、『いや、鳥山先生でしょ。』と真顔で言っちゃうような、独特の切り口、視点の鋭さ、妙な説得力、ちょっとしたズルさとわいらしさのある男がキイチビールさんだと僕は思うのです。

だからこそ、キイチビールさんがいないこの4人体制は、『間違いなくキイチビール & ザ・ホーリーティッツとして完成しているが、少しだけ薄味である』という絶妙なバランスの魅力を放っています。

いやー、目が離せないなあ。コロナ次第でライブ行きたいなあ。

『キイチビール & ザ・ホーリーティッツ』への愛情が思ったよりも大きく、長々書いてしまいました。
彼らの音楽を聴いて、"創作とはつまり、自分の経験をどのように切り取り、どのように表現するかである"と心から感じましたし、"その切り取り方や見せ方の質が、魅力的な創作への方法論"なんだな、と気づきになりました。

『キイチビール & ザ・ホーリーティッツ』の楽曲たちを、是非聴いてみて下さいね!
※ちなみに、"ザ・ホーリーティッツ"とは"爆乳"という意味のスラングらしいです。。