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行政サービスをインクルーシブなものとするために必要な観点とは

今回は、行政デジタル化の中でインクルーシブなサービスを作っていくためにどういう観点が必要なのかについて、イギリスで行政サービスのデジタル化を推進する組織であるGovernment Digital Service(以下GDS)が発信している内容を紹介します。

今回なぜGDSに着目するかというと、デジタル・バイ・デフォルトという政策を踏まえてデジタル・エクスクルージョン(デジタル化による排除)を解消するための取り組みが進められており、日本でも参考となる部分があるためです。

誰もがサービスを利用できるようにする

デジタル・エクスクルージョンの解消を目指す上で、GDSがサービスを提供する際の基本的なスタンスがService Standardに示されています。この中には、誰もがサービスを利用できるようにする、ということが触れられています。

障害者やその他の法的に保護される特性を持つ人々を含め、誰もが利用できるサービスを提供すること。また、インターネットを利用できない人、利用するためのスキルや自信のない人。
(5. Make sure everyone can use the service)

では、具体的にインクルーシブなサービスを作る上で意識すべき観点は何なのでしょうか? 同じくGDSの以下の記事から引用して紹介していきます。


1. 排除されうる人や集団をイメージする

インクルーシブであることを目指すには、まず何を排除しているかを認識しなければなりません。そして、障害者、高齢者というような一般的にデジタル化の中で排除されるというイメージを持たれやすいカテゴリでとらえるだけでなく、生活環境や置かれている状況によっても、サービスを利用しづらい状況は発生するということに注意が必要です。

障害や生活環境などに起因して、一部の人や集団は、他のグループよりもサービスから排除される可能性が高くなります。
例えば、介護をしている人は、政府のサービスを利用する時間帯をあまり選べないかもしれません。安定した住居がない人は、適切な書類を提出したり、通知に返信したりすることは難しいかもしれません。また、最近では自宅にプリンターを所有している人が少なく、印刷可能な用紙を使って行政サービスを利用することが困難かもしれません。
(Groups to consider)

一つの例として、イギリスで介護手当の申請効率化を目指した取り組みを紹介します。

介護をしている方にとって、紙の申請フォームに記入して提出をしに行く時間を取るというのは難しく、重病の方に付きっ切りで介護している方であればなおのこと難しいでしょう。介護に取り組むまでは問題なく行政の申請手続きに対応できていた人でも、状況や環境が変わったことで行政による支援を受けづらくなったと感じたかもしれません。

この課題を解決するためのアプローチとして、申請をただオンライン化するだけでなく、ユーザーリサーチを行い、申請プロセスの詳細にまで踏み込んで分析することで、全体の49%の項目にあたる170の質問を削減することができました。結果として、忙しい介護の合間の限られた時間で申請を行いたいユーザーのニーズに合致したものとなっています。


2. インクルーシブであることを目指すことは、みんなのためになる

実際にインクルーシブデザインや、アクセシビリティの向上に取り組もうとすると、一部の人のためになぜそこまでコストをかけるのか?という反応を受けることがあります。しかし、この取組みでメリットがあるのは一部の人だけではありません。

以下は、特定のユーザーニーズに応えていくことで、結果的にみんなにとって利用しやすいサービスになるという例です。

・はっきりしたレイアウトのウェブサイトを作成すると、視覚障害者と、解像度の低いモニターを搭載した古いコンピューターを使用している人の両方に役立ちます。
・ウェブサイトのファイルサイズを最小限に抑えることで、携帯電話のデータプランに制限がある人に役立つだけでなく、すべての人にとってサービスが速くなります。
・対面ではなく、オンラインや電話でサービスを利用できるようにすると、移動が困難な方や、オフィスから遠く離れた場所に住んでいる方にも役立ちます。
(Designing for inclusion makes things better for everyone)

他にも、例えば行政手続きの説明は難解で読みづらいことが多く、複雑な内容を読んで理解することが困難な方や、日本語を習得してまだ日が浅い外国人の方にとっては特に困難なものとなりうるでしょう。しかし、こうした方が把握しやすいようなシンプルでわかりやすい内容としたり、選択式の申請ナビゲーションを入れたりすることで、結果的に利用者全体にとっても分かりやすくなり、利便性が向上するということもあるかもしれません。

また、最初からインクルーシブなサービスを目指すことの必要性については、GDSのデザイン部門元ディレクターのルー・ダウン氏の著書Good Serviceでも触れられているので少しご紹介します。


サービスは、個々の状況や能力に関係なく、それを必要とするすべての人が利用できるものであるべきだ。人によって利用が制限されるようなものであってはいけない。(中略)
サービスを包摂的なものにすることで、多様なユーザーだけでなく、あらゆる人が利用できるようになる。(中略)
インクルージョンはサービスの補足的要素ではなく、またサービスのテスト時にだけ考えればいいものでもない。最初から包摂的であることを目指す方が、よりスムーズかつ効果的にサービスを実現することができ、ビジュアルデザインやインタラクションデザインでは不可能な大きな影響をユーザーに与えるだろう。


3. ユーザーが排除されうるポイントを見つける

実際にサービス開発に取り組む際には、どこでユーザーが問題や苦痛を感じるのかというポイントを理解する必要があります。

記事(Making your service more inclusive)では、どういうことがペインポイントになりうるか紹介しています。

・一つのチャネルのみの利用を求める。
・柔軟性に欠ける期限の設定。
・限られた種類の文書や証跡しか受け付けない。
・ユーザーに他のサービスを紹介していない。
・サービスのパフォーマンスを測定する方法によって、ユーザーのサービスに対する経験を歪めること。
(Finding pain points where users could be excluded)

例えば、ユーザーがサービスを利用するときの経路を一つのチャネルのみに限定することの問題点として、以下のようなことが挙げられています。

・耳の不自由なユーザーは、他のサポートを受ける前に電話で審査すると排除される可能性があります。
・インターネットに定期的にアクセスできないユーザーは、電子メールでしか通知を受け取れない場合、通知を見逃す可能性があります。
・不安定な雇用形態のユーザーは、直接会ってアポイントメントを取ることが難しいため、アポイントメントを取ることを要求すると、ユーザーが排除される危険性があります。

また、サービス単体での利便性向上だけでなく、関係するサービスや行政機関全体での連携も意識する必要があります。なぜなら、ユーザーは行政に対して助けを求めているのであり、必ずしもどのサービスを自分が利用すべきかを理解できているわけではないためです。

もしあなたが彼らを助けられなければ、彼らはさらなる支援を求めないかもしれません。例えば、低所得者の場合、対話のための交通費や通話時間を捻出できないことがあります。また、社会から疎外されていると感じているユーザーは、ある政府機関が自分を助けてくれなかった後に、別の政府機関と対話するモチベーションを持てないかもしれません。


まとめ

この記事では、GDSが発信している内容を踏まえつつ、インクルーシブな行政サービスデジタル化を進めるためには、いくつかの観点があるということをご紹介しました。インクルーシブなサービスを目指す上では、排除しているユーザー層を認識することからスタートし、サービス利用の流れにおいてユーザーを排除しうるポイントについても把握して対応していくことが必要です。

また、このためには特定のニーズを持つユーザーを最初から巻き込んで一緒にサービスを作っていくことが効果的であり、そもそものサービス開発以前の部分として、サービス開発を担うチームにも多様性を持たせることや、意思決定のあり方を見直すことなども必要だと思います。


次回以降、インクルーシブデザインのより具体的な取り組み方や、インクルーシブなサービスを作る上でのチームのあり方、などもご紹介していきたいと思います。

記事の内容についてや、今後こういう内容についてももう少し詳しく知りたい、などもお気軽にお問合せください。

Twitter: https://twitter.com/heykuro1

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