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ハーシスは黒船だった

ハーシスと聞いてすぐに「あれだ」と、ピンとくる人は多くないだろう。

厚生労働省が作ったハーシス(HERSYS)とは、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)」のこと。

もうコロナの話なんてウンザリと思われるかもしれないが、このハーシスはコロナ禍が生み出した数少ない光明だと思う。実は革命的なシステムなのだ。やはり不幸は、人を鍛えるのではないか。

ハーシスについて詳述する。HERSYSとは、Health Center Real-time Information-sharing System on COVID-19の頭文字を取った名称。

保健所等の業務負担軽減及び保健所・都道府県・医療機関等をはじめとした関係者間の情報共有・把握の迅速化を図るシステム。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000728154.pdf

ポイントは、まず国、都道府県、各市町村の保健所、さらには全国津々浦々の病院・クリニックといった医療機関が、リアルタイムで同じ画面を見られるということ。

医療機関や保健所等の複数の関係者が入力を行うことができ、業務に必要な範囲において、閲覧権限が与えられる。保健所は全ての情報の入力・閲覧が可能。健康状態は本人がスマホで入力。

そもそも地方自治体同士が情報を共有しない理由として、憲法の地方自治という理念があった。地方自治は、「民主主義の学校」と呼ばれることがある。憲法の原案を作ったGHQは、国と自治体の間に緊張関係を作り出すことによって、民主主義の健全な発展を促そうとした。また地方自治体同士が民主主義を通じてそれぞれ異なる運営をすることで、自治体同士の競争が生まれ、優れた部分が自然波及すると考えた。(実際アメリカではそういう経緯を辿った)

実例を上げると、転居のたびに以前の自治体と新しい自治体双方に、転出届と転入届を出したりするでしょ。なんでそんな面倒なことをするの?といえば淵源は地方自治にある。

これ自体は優れた理念であり立派だが、まさに絵にかいた餅だった。むしろ国と地方自治体間、地方自治体同士での弾力的な運用の障壁となっていた。

そんな中でコロナという一大ショックが襲い、その建前が噴き飛んだ。その賜物がハーシスだった。最盛時一日何万人という陽性者を、このハーシスのお陰で保健所、医療機関は乗り越えることができた。

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ところで厚生労働省は、デジタル・トランスフォーメーションに後ろ向きだとずっと思われてきた。左派官僚の集まる省庁であり、特に労働省は恐らく全省庁で最も忌避感が強かったのではないか。

そんな彼らが、素晴らしいシステムを一気に導入したことになる。セールスフォースがベースになっていると聞いた気がする。

実は私も派遣で行った職場でハーシスを扱う機会があった。SLACK酷似のビジネス・プラットフォームがあり、北海道から沖縄までの全国の医療機関が、発生届の概念の疑義などを担当者に直接質問していた。また、その回答のやり取りを、ログインしている誰もが見れた。私のような短期の派遣社員でさえ、発症日の定義や「コロナによる死亡」の定義の、医師と厚労省担当者とのQ&Aを読むことができた。

情報漏洩の危険はあるが、ここまで大規模で透明性の高いシステムを生まれて初めて見た。以前特許庁でバイトをしていたが、当時は「イントラネット」と呼ばれる、サーバー内にWindowsOSのフォルダーが並んでるだけの情報共有システムしかなかった。掲示板はあったものの、周知事項と事務連絡でしか使っていなかった。業務上の込み入った話は、担当者同士の会議か電話、またはメールのやり取りだ。議論の過程や具体的な対応は、ほぼほぼブラックボックスだったものだ。だから、ハーシスは、「黒船」みたいなものなのだ。


コロナまでは、官公庁がSLACK導入なんて夢のまた夢だとずっと思っていた。しかしハーシスの導入で、のんびりしたところはなくなった。むしろみずほ銀行の度重なる障害の話などを聞くと、民間で出遅れているところが出てきているのではないかと思う。

だからハーシス類似のシステムを色々な官公庁、自治体にもっと大々的に導入すべきだ。そうして電子政府化を進めれば、公務員の大幅な削減が可能だろう。普段は1日10人や100人程度の患者を診ていた保健所が、1000人単位の陽性者になんとか対応できたのだから。

住民票もスマホで移動できるようにして欲しい。時間も掛かる上、窓口で手数料計1000円とか取られたくないよ。

せっかくデジタル庁を作ったわけだし、こういうことを実現して国民に還元してほしい。そのためには、国民全体の強い意思表示も必要だろう。

転んでも倒れても、そこから何かを学ぶなら、人は敗者ではないのではないか。

コロナのことなんて振り返りたくないでしょうが、ハーシスは忘れるには惜しい経験だと思います。

頂けるなら音楽ストリーミングサービスの費用に充てたいと思います。