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あんぱん

今は昔のそのまた昔のおハナシ

オッサンのエンジニア1年目 始まる

 今ならあり得ないおハナシをしようかと思う。もう20年以上前のハナシになる。働き方改革なんてものはなく、バリバリに多重派遣や偽装請負が横行し7次請けや8次請けなんてモノが存在していた時代である。

 この頃のオッサンはかなり働くことに対して麻痺をしていた時期で月間稼働時間は400時間に届くか届かないかというラインだった。これだけ働いていても当時の7次請けの零細ヒト売り会社は残業代が満足にでることもなかった。が、働く場所がなかったんだよな。

 氷河期ど真ん中世代は、求人票がそもそも無い、なんてトコから始まって大学から社会に放り出されてしまったのでどんな職種でも職場でも仕事でも食うために働くしかなかった、という感じで。

 東京とか都会の方だとまだマトモに仕事にありつけたようだったんだけれど、これが北の大地では本当に酷くて。仕事を選り好みしてて働けないとか以前に働く場所がないって感じだったのさ。
 なので、なんとか潜り込んだ会社でしがみつくように働いてた。今考えてみると頭がオカシイとしか思えない。が、しょうがない。

 優秀な人達はいい大学を出て優雅に就職することができらしい。世の中には求人票が出てないけれど色々なコネがあって大手企業に就職してたんだよな。オッサンみたいなショーモナイ無名大学を卒業してとりあえず情報系の学部を卒業しました、少し好き勝手にふらふらしました、なんて人間が喰っていける場所は、零細ITヒト売りぐらいしかなかったんだ。それでもオッサンはかなり恵まれた方だと思う。

 今でいう就職活動を利用したセクハラ的なものとか多かった。泣かされた同級生の女の子を何人も見たわ。当時は当たり前すぎて社会問題にすらならなかったけれどな。

どうしようもない職場

 とっくに平成になっているのに昭和の匂いがぷんぷんと漂うような職場で鬼のように恐ろしい上司に物理的にどつかれながら毎日を過ごしていたんだけれど、まぁ、気が狂いそうになるわけだ。
 月間400時間働くってことは、まず土日が無いわけだ。
 毎日、13時間働くワケですよ。

 (今考えてみると)ロクにコーディングもできない上司に偉そうに頭を叩かれ、意味がわからない雑用を回され、一番最初に出社して掃除をして、最後に掃除をしてから退社する。

 お前の代わりなんていくらでもいるんだからな、なんて言葉を毎日言われたけれど、これが、本当にいくらでもいるのよ、代わりが。採用広告出せば山ほどの応募があって、どの人もオッサンよりも何倍も優秀そうに見えるんだわ。本当に簡単に切り捨てられるんだなぁと思うと、気が抜ける場所なんて全くなくて。

 唯一の救いは、やったらやった分だけ仕事が押し付けられてしまい、それにこたえるべく仕事をしたため薄く広い技術が身についたところでこれはひたすらに感謝している。ありとあらゆる雑用が振られ、それに必死にしがみついた結果、知識と技術が染み込んでしまった。

 この経験があったからこそ、今があると思ってる。

なんまらうまい

 そんなオッサンを支えてくれたのがあんぱんである。内地のヒトとかが想像するあんぱんではなくて、月寒あんぱん、というアレである。
 なんだろう。喰ってみれば分かる。
 あんぱんじゃない。でもあんぱんである。
 いや、あんぱんじゃねぇな、硬い饅頭かな?

 スーパーだとお菓子売り場にあるんだよな。

 仕事が出来ないオッサンは仕事を終わらすために残業をして、誰もいなくなっても1人でずっとキーボードを叩き続けて、お腹が減って。
 その時に、熱いお茶とあんぱんを食べた。

 硬い薄皮に包まれたあんこを嚙みちぎっては、ふーふーしながら滅茶苦茶に暑い緑茶を啜って流し込む。

 なんまらうまい。
 なまらうまいではない。なんまらうまい。

 もくもくと食べて啜って、一息ついて、また仕事に戻る。
 転職して東京に出てくるまで、こんな毎日だった。

懐かしく

 今でもシステム更改などで長時間の作業をすることがある。最近こなした作業だと58時間連続稼働なんてアホみたいな長丁場で切った張ったの修羅場を迎えたが、無事に乗り越えることが出来た。
 他にも本番切替作業や、新システムのカットオーバーなど深夜早朝まで作業をすることは多い。

 そんな時は内地のあんぱんを食べる。
 生地は柔らかいし控えめな甘さが美味しい。
 
 だったらと、試してみたんだよな、月寒あんぱん。
 20年ぐらいぶりに食べたんだけれど、あんまりおいしくないな、これ。

 なんで、あんなに美味しく感じたんだろう。
 あれぐらい仕事をすると、また美味しく感じるんだろうか。
 そんな日はもう来ないんだろうか。

 なんてコトを考えながら、今日もキーボードを叩くんだなぁ。


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