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ジョブ型雇用制度導入の難しさ

ジョブ型雇用制度導入を困難にする3つの障壁

近年ジョブ型雇用制度を導入する企業が大手企業を中心に増加傾向にある。筆者もジョブ型雇用制度導入に関する相談依頼をよく受けるようになった。ただ、これまで長らく年功序列型の人事制度を運用してきた日本企業にとって、ジョブ型雇用制度への転換はそう簡単な話ではない。筆者は、これまでに相談を受けてきた企業の多くには、いきなりジョブ型への転換ではなく、いくつかの段階を経て移行していくことをお勧めしてきた。
ジョブ型への段階的な移行方法については、また別の機会にお話をするとして、ここでは、これまでジョブ型雇用制度の導入に関わってきた経験から、ジョブ型雇用の導入を困難にしている要因についてのお話をしようと思う。
導入を困難にしている要因としては、様々なものがあり、企業の歴史や文化によっても異なってくるが、多くの企業に共通している主なものとして、以下の3つが上げられる。
1)給与を下げれない
2)職務を基準に給与設定することが難しい
3)人ありきではなく、仕事ありきという意識への転換が難しい

以下、順を追って説明していこう。

給与を下げれない

ジョブ型雇用制度は、職務責任によって給与を決める制度である。これに対して、年功型の人事制度は、年齢や勤続年数に基づいて給与が決まっていく仕組みである。この年功型の人事制度では、年齢と勤続年数に比例して給与が上がっていくため、年齢の高い人ほど給与が高くなる。たいていの場合は、担当している職務責任に比べて高い給与をもらっている。このため、ジョブ型雇用制度を導入して職務責任に応じて給与を設定すると、年齢の高い層の社員の給与は現在の給与よりも低くなり、逆に若年層は高くなるということになる。
ここで問題となってくるのは、日本の労働法では給与を下げることが難しいという点である。給与を下げるにはそれ相応の合理的な理由が必要で、かつ本人の同意も必要になる。制度を変更したからという理由だけで変更することは不可だし、本人の同意を得ることもそう簡単な話ではない。それでは、職務責任に対して給与が低い若年層の給与だけ上げればいいかというと、それはそれで人件費の高騰につながり会社のコスト競争力の低下を招きかねない。そのため、ジョブ型雇用制度を導入したが、給与は現行のままという企業もある。いわゆる形だけのジョブ型制度である。

職務を基準に給与を設定することが難しい

ジョブ型雇用制度では、各ポジション毎にジョブディスクリプション(職務記述書)作成し、そのジョブディスクリプションから職務責任の重さや大きさ等を評価し、それに見合う給与額を設定することになる。
ところが、これまで、年功や職能で給与を決めてきたため、どうやって職務で給与決めたらいいかわからないという問題に直面する。多くの会社では、職能資格制度という人事制度で運用してきているが、この職能資格制度では、年齢、職能等級を軸に給与テーブがあるために、このテーブルには当てはめれば、給与は半ば自動的に算定することができる。しかし、職務内容で給与を決めるとなるとそう単純にはいかない。その職務責任の重さや大きさを評価し、社内外の給与水準と比較しバランスをとりながら算定する必要があり、給与テーブルという型にはまった形で一律で給与を算定するというわけにはいかない。給与を算定するにあたって考慮しなければならない要素も多く、給与策定に関わる高度な知識やスキルが求められるのである。外部のコンサルタントのお願いして制度設計してもらったとしても、その後の運用が難しいのである。

人ありきでなく、仕事ありきへの意識転換が難しい

ジョブ型雇用制度では、まず先にポジション(仕事)があって、そのポジションを遂行するに十分な能力・スキルを持った人材を配置していくことになる。
これに対して、年功型人事制度では、先に人があり、その人に合う仕事を充てていくことになる。その場合に重視されることは、年齢や年次である。他の同期が昇格しているのでそろそろ昇格させなければとか、若いのでまだ早いとか、という感じで、そのポジションを遂行するための能力・スキルよりは、年齢や年次が優先されるのである。
ジョブ型雇用制度は、年齢や性別などの属性にとらわれることなく、そのポジションを担当するに十分な能力・スキルを持った人材を配置していくことで機能するものである。年齢や年次を評価要素に入れてしまうと、上手く機能しなくなり中途半端な制度となってしまう。一番やっかいなことは、人事配置や人事評価の決定に関わる権限を持つ管理職層の多くが、従来の年功型の考え方、人ありきの考え方に入社以来どっぷりと浸かってきたということである。この層の方々の意識が変わらないことには、ジョブ型雇用制度は導入しても機能しないのである。

ジョブ型雇用制度を導入して機能させるためには、従来とは全く違うやり方や考え方が求められる。そのため、長らく年功制度に慣れしたんだ組織にいきなりジョブ型雇用制度を導入しても上手くいかないことが多い。上手く機能させるには、導入前の下地作りを十分に行う必要があるのである。






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