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三ツ星フードトラック

Get up, Get up, Get up, Get up
Let’s make love tonight
Wake up, Wake up, Wake up, Wake up
‘Cause you do it right

Marvin Gaye - Sexual Healing

僕がたまに思い出して見たくなる映画の一つに「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(以下「シェフ」)があります。「アイアンマン(2)」のジョン・ファヴローが監督・脚本・製作・主演を務めています。RDJとスカヨハも出ているので、実質アイアンマン2ともいえるでしょう(あと、当時はまだ公開されていませんが、「アントマン」「アントマン&ワスプ」で警察官役だったボビー・カナヴェイルも出ていますね)。
なぜアイアンマン2の話を擦るかというと、「シェフ」はアイアンマン2でジョン・ファブローが酷評されたことが下敷きになっている(と思われる)からです。冒頭で「一流の優れたシェフが従来通りの無難なメニューを出して評論家にこき下ろされ、逆ギレしてレストランを辞めキューバサンドイッチのフードトラックを始める」わけですが、この構図は「シェフ」が作られる前の(ジョン・ファブローの)動きとほぼ同じです。その意味では、「シェフ」は評論家、批評家、視聴者、(ハリウッドやマーベルのような)巨大な組織への”アベンジ”だったのかもしれません。

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「シェフ」のもう一つのストーリーラインとして、親子の関係性の変化があります(というより、こちらが本線です)。カールとパーシーは不仲というわけではないのですが、カールの料理以外の事象(例えばインターネットやSNS)に対する関心のなさのせいでうまくコミュニケーションが取れていません。一方、パーシーのほうも父親の仕事である料理について興味はあるものの本質をわかっていません(これはカールが教えていないことが大きいです)。一緒にフードトラックを掃除し、キューバサンドイッチを作ることで、この隔たりは解消されていきます。父は息子に料理とその心構えを教え、息子は父に大切なものをそれとなく気付かせます。
大袈裟にいえば、「シェフ」は破壊と再生の物語です。カールの料理人としてのキャリアの破壊と再生、周りの人間との関係の破壊と再生が描かれます。厳密に元の状態に戻るわけではなく、切れたロープを結び直すような再生ですが、それを前進と呼ぶのではないでしょうか。
クライマックスで、カールは自身を酷評した評論家と和解します。このシーン、最初に見たときは釈然としませんでした。結果で殴ってやればいいのにと思いましたが、この作品のバックグラウンドを考えると理解できます。評論家や観客に批判されたけれど、それでも自分(カール/ジョン・ファブロー)はその人たちのために作品を作り続ける、という決意の表れなのかもしれません。そういった意味では、非常に作家性の強い映画といえます。しかし、観客を置き去りにしてはいません。「シェフ」、雰囲気がとにかく良いので、何かに疲れた人は見たほうがいいですよ。


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